スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

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戦うナース VS 格闘技ドクター 正道会館・納江幸利支部長とDr.F(1/2)

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Dr.F VS 正道会館・納江幸利支部

 

・医療の現場と格闘技・武道のギャップとは?

・血液・出血をどのように取り扱うべきか?

・練習での脳震盪への対応とは?

 

戦うナースであり、指導者としても責任を負う、正道会館・納江幸利支部長と、

格闘技医学会代表・Dr.Fのガチンコ医療従事者対談が実現。

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【戦うナース、戦うドクター】

――今回は戦うナース、正道会館の納江幸利支部長をお迎えしての特別編です。まず、お二人の出逢いからお聞かせいただけますか?

 

Dr.F   納江支部長とは、九州の友人を介して知り合わせていただきました。入口はカラテではなく、医療だったんです。看護師として医療現場で働いていらっしゃる方で、「正道の支部長をされている強いカラテ家がいる」ということで非常に興味を持ちまして、僕が九州に帰郷した際に引き合わせていただいたのがご武縁のスタートです。

 

納江 僕は以前から格闘技雑誌などで二重作先生の存在は知っておりました。

地元の知り合いから二重作先生を紹介して頂いた時はミーハーながら舞い上がったのを覚えております。先生の存在を知り、僕も看護師として整形外科の経験もあり、少しは医学的な知識が多少は有ったので、医学的な面から格闘技を研究されているのに感銘を受けていました。

 

――お二人には共通点があったわけですね。一緒に練習されたりする機会はあったのですか?また初対面時の印象は?

 

納江 二重作先生とのファーストコンタクトは、九州の道場で行われた格闘技医学講座の場でした。そこで先生はまず、スパーリングをされたんです。普通、ドクターはスパーリングしませんからその理由を伺ったら、「直接的なコンタクトで相手を知る、情報を入力するためです。」とおっしゃられてビックリしました。顔はニコニコとされているのに、二、三手組んだ後に、突然、上段回し蹴りを貰いました。その時に、軽い気持ちでやっては倒されると思い、本気モードに気持ちを切り替えた記憶が有ります。

 

Dr.F  そうでしたね!懐かしいです。納江支部長は謙遜されておりますが、ご自身のスタイルが確立されてて、「容易には崩せない」と直感したのを今でも鮮明に覚えています。そして、「フィジカルな強さ」と「カラテの技術」の両方を兼ね備えた組手をされていたのが印象的でした。「強くて、上手いカラテ」のタイプですから、体力でぶつかったらカウンターもらいますし、技に頼ったら押し切られる・・・。結局、最後まで有効な攻略方が浮かびませんでした。実は困り果てててたんです(笑)

 

納江 そうだったんですね(笑)気が付きませんでした。

 

Dr.F 向きかった瞬間、強いのすぐわかったんで、お茶濁すのが精一杯でした(笑)そのあとに意見交換をさせていただいたとき、医療者としてのマインドとカラテ家としての強さを兼ね備えていらっしゃるのがとても印象的でした。そのようなこともあって、どんな指導をされているんだろう?安全について現場でどう対応されているんだろう?という興味が湧いてきて、気がついたらSNSや電話で「納江支部長、この問題、道場でどうされてます?」みたいな連絡をしたりしながら、ご縁が積み重なってきておりました。

 

納江 僕のほうも、「反射や重力の使い方」、「目線を何処に置くと強い蹴りや突きが出せるのか?」など、正に目から鱗な格闘技医学を体験させて頂き、勉強になりました。自分では知らず知らずのうちに使っていた身体の使い方を、二重作先生は医師の視点、空手家の視点の両方から研究され、それを言語化された事が凄いと思います。身体の使い方を言語化するって、とても難しいですから。

 

 

【安全面における正道会館の先見性】

――医療者として出逢ったお二人が、カラテを通じてさらに理解と親交が深まったわけですね。今回のテーマとして伺いたいことはたくさんあるのですが、安全面についての工夫や心がけなどがあったらぜひ教えてください。

 

納江 正道会館石井館長が安全面への配慮を物凄く考えておられ、「道場での安全な環境を整えるように!」とか、「指導員は組手に入らずみんな組手を観て回り、危ない時は直ぐに止めれるように!」といった指導を受けています。うちの道場は常設ではなく、公共施設を借りていて、ジョイントマットなどが使用できませんので安全性には特に気をつけています。組手はなるべく入らない様にして、全体の把握に努めています。また、組手の時は軽い組手の時でも、拳や脛サポーターは勿論ですが、心臓震盪の危険性もありますから、胸ガードと、上段回し蹴りを貰った時や転倒した時の予防にヘッドガードは必ず着けさせています。

 それと、最近は本当に蒸し暑く、体育館などは空調が無いですから、業務用扇風機を買って来て人口の風を流したり、稽古中には、いつもより小まめに休憩を入れたりしています。それと並行して、全体を見ながら、体調の悪そうな子は居ないか、顔色や唇の色などを看護師とさの視点から観察し気をつけて居ます。この時期、水分補給は大事なんですが、普通の水道水だと脱水になるので出来ればスポーツ飲料水を持ってくる様に、または水道水に塩と砂糖をどのくらい入れて持ってくる様にとの指導をして居ます。これは看護師だから出来る配慮かもしれません。この点は、僕の管轄道場の指導員全員に徹底させています。

 

Dr.F  納江支部長の、正道会館会館の支部長としての自覚、そして看護師としての視点は、生徒さんや保護者にとっても安心材料に感じます。もちろん、格闘技・武道なのでリスクはゼロにはなりませんが、ゼロに近づける努力をしているかどうか、は非常に大切ですよね。今、心臓震盪という言葉が出ましたが、心臓震盪への取り組みについても正道会館はとても早かったように思います。

 僕も数年前、全国支部長会議の講師として招いていただき、講義をさせて頂く機会に恵まれたのですが、当時、ドクターを招聘してリスク管理に本格的に取り組まれる団体はありませんでしたし、心臓震盪という言葉自体も、格闘技界においてほとんど知られていなかった頃です。その時に、石井館長自ら、身体を動かしながら、道場で起きうる危険な場面をケーススタディーをシェアするように説明されたシーンは今でも忘れられません。「生徒さん、習う側にしっかりと焦点が当たっているなぁ」と。いわば「正道会館の気風」みたいなものを感じたわけですが、そのあたりのこともぜひ伺ってみたくて。

 

納江 はい、私が空手を始めた頃はノーサポーターの時代で、怪我をして強くなる!という空手界の気風があった様に思います。そこに正道会館ではサポーターを着けて練習をしていると聞き、最初は「軟弱な!」なんて思っていたわけですけど、実際サポーターを使って練習すると、怪我かとても少なくなります。怪我が少なくなると練習する回数も増えます。練習する回数が増えると、それだけ強くなれるわけなので、非常に合理的だなぁと。その合理的な空手をぜひ習いたい、稽古したい、強くなりたい!と他流派の黒帯でしたが、白帯に戻り正道会館に入門させて頂きました。

 

【カラテ家としてのプライド】

Dr.F なるほど、サポーター=軟弱、という認識から、サポーター装着による合理性に目覚められた、というわけですね。確かに一昔前までは、「もっと強くなりたいけど、脛や足が痛くて、練習はもちろん日常生活にも制限が出てしまう」という状況はありましたね。今よりも「道場」の敷居がはるかに高かったというか、入門希望者も一大決心をして道場の門をくぐるような・・・。そんな時代背景も手伝って、「強くなるためにカラテなのに怪我のために、学校生活や仕事、家庭に支障が出てしまう」その結果、「カラテは好きなのに続けられない」「会社や家庭でのカラテの印象が悪くなる」という負のループはあったかも知れませんね。納江支部長ご自身は、正道会館入門前も含めて、社会の価値観とカラテの価値観のギャップを感じられたことはありますか?

 

納江 そうですね。高校を卒業して勤めていた会社の先輩から、「空手なんかやって楽しいのか?女にモテたいからやってるんだろ?(笑)」と言われた事を覚えています。その時は、空手が侮辱された気がして腹立ちました!また、空手の稽古があるから定時に帰りたいなどとは中々言えなくっていつも稽古の終わり頃から参加していました。自宅でも母親から、試合に出るのは危ないから止めろ!とか言われてました。二重作先生は小さい頃から空手をされていますが、進学校に入学しながらのカラテは大変では無かったですか?

 

Dr.F 納江支部長にも、道場外での風当たりがあったんですね。カラテが侮辱されるのは耐えられない、という気持ち、共感を覚えました。幸い、僕の出身の東筑高校は県立の進学校でしたが、甲子園に出場するくらい、文武両道が当たり前の校風だったので、逆に燃えましたね!野球部やラグビー部が甲子園や花園出場を目指してガチでやっていたので、「ただカラテやってる」だけでは通用しない雰囲気なんです(笑)

 フルコンタクトカラテは部活と違い、「習い事」の範疇になってしまうため、学校の名前を背負ってませんから、その分、しっかり結果出さないとなめられちゃう。いわば、僕がバカにされたらカラテがバカにされる、というプレッシャーみたいなものが、カラテにも勉学にも生きたように思いますね!試合に出たら出たで会場で「東筑のやつに負けたらいかんバイ!」ってヤジられてました。部活じゃないのに(笑)

 

納江 二重作先生の出身校は本当に凄い学校だったんですね〜。自分がバカにされたらカラテがバカにされる!という気持ちがとても分かります。僕は工業高校だったんですが、うちの高校はラグビーが強くって、毎年花園に出場するくらいの佐賀では強豪校でした。野球も僕が3年の時に甲子園に行く様なスポーツは盛んな高校だったのですが、僕の科は電子科という、わりと大人しい科だったので、そんな雰囲気は無かったですね。他の科は殺伐とした科もあったみたいですが。

 

Dr.F ラグビーの強い学校だったんですね!毎年花園に行くって相当凄いですよ。ラグビーやアメフトの選手って体力ハンパないですよね。格闘技は1対1が前提ですけど、彼らは1対複数や複数対複数が前提の中で日常コンタクトしています。高校の体育の授業でラグビーをやったときに、カラテや柔道とは異質の、複数かつ多方向から同時にかかる負荷を体験したときに、これは半端ないな、と。アメフト出身のボブサップ選手が日本のリングで大暴れした理由は、そのあたりにもあるなぁ、と。

 

(2)へ続く

戦うナース VS 格闘技ドクター 正道会館・納江幸利支部長とDr.F(2) - 格闘技医学会

 

 

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