ジュニアと心臓震盪(3) 「見極め」よりも「疑い」
・時間との戦いが、生死の分かれ目
・試合や審査会での事前準備
・ルート確保とミーティング
・「見極め」はプロでも困難
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【事前準備の重要性】
格闘技や武道の大会で必ずやっておかなければならないのは、AEDの設置場所の事前確認と、救命救急処置スペース、搬送ルートの確保です。私も、チームドクターとしてのキャリアや選手としての経験だけでなく、カラテ全日本大会やジュニア大会の大会医師、リングスをはじめプロ総合格闘技大会でのリングドクターを経験させていただきましたが、会場に到着後、いちばんに最初に行うのは、現場の確認です。
・もし負傷者が出た場合、どこでどのように処置をするのがベストなのか。
・もし救急搬送をする場合、どのルートで救急車まで運び出すのか。
・その日はどこの病院が受け入れ態勢OKなのか。
会場から最寄りの救急病院の連絡先やアクセスも可能な範囲で調べておきます。これらに加えて、カラテのアマチュア大会など、たくさんのコートで同時に試合が行われるような場合、各コートの審判団とAEDおよび救命グッズの場所の事前確認、会場のどこかでアクシデントが起きたときの場内アナウンスの方法(全体の試合をストップして対応すべきアクシデントと、全体はそのまま動きながら対応すべきアクシデントの場合に分けてアナウンス)などの打ち合わせ。
あと、これはとても大切なのですが、会場側のスタッフとの連携です。アクシデントが起きてから「AEDはどこですか?」「救急車を呼んでいただけますか?」という状態では、無駄に時間ばかり経過してしまいます。
そこで、早めに会場に入って、物品の位置や、アクシデント時の会場としてできる対応の範囲などを確認しつつコミュニケーションをはかっておくと動きやすくなります。大会や試合では、非常時に冷静に動けるように、事前にシュミレーションとイメージトレーニングを兼ねて準備しておくことが大切です。
練習においても道場やジム内にも設置してあるのが望ましいですが、道場やジムにジュースの自動販売機を置ける場合は、AED搭載型を導入するというのも良い方法です。メーカーによっては無料で設置してくれるところもありますし、道場生の安全のために自動販売機を導入する、という名目であれば協力も得やすいでしょう。
最近は、単発のイベントなどでしたら自治体が無料で貸してくれる場合もあるようです。大会、道場内試合や審査会の際に、そういう制度を利用されている道場も増えてきています。
【見極めよりも、疑い】
格闘技や武道の現場で、KOされる、ボディーへの攻撃で倒れる、ということは日常的に起きます。しかも流れの中で瞬間的に起きることですから、「どの技でどうなったのか」、判別が難しい。ですから倒れた選手に心臓震盪が起きているか、それとも脳震盪など、他の原因で倒れているのかの原因を推測するのは我々医療のプロでも困難です。
・顔面パンチなしのフルコンタクトカラテルールで反則の顔面パンチで強打され意識が飛んでいるところに、胸に膝蹴りをもらって倒れた。
・胸に打撃をもらい心臓震盪が起きた直後に、上段の膝蹴りが顔面にヒットし気を失ってKOされた。
格闘技や武道の現場では、このように“倒れる”原因が重なりよくわからないケースにたびたび遭遇します。これが、「野球のボールが胸に当たって意識を失った」であれば、すぐに心臓震盪かも!と疑いやすいのですが……。
これらの微妙なケースに遭遇した場合、「心臓震盪を疑う」というスタンスが必要になってきます。もしかしたら心臓震盪かも知れない、と疑ってかかり、AEDにて心電図の解析を待つというのが得策です。「今のダウンはなんだったのか?」見極めの方向で考えてしまうと、これまた時間ばかりが過ぎてしまい、どんどん致死的状況が近づいてしまいます。
『「見極め」よりも、「疑って」かかる』
これが現場で求められるマインドです。
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ジュニア格闘技・武道「安心安全」強化書より