スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

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格闘技・武道と内科的リスク(1) 高尿酸結晶と痛風

【格闘技・武道と内科的リスク】

  医学部で勉強を始めた時、いちばん驚いたというか、ショックだったのは、病気の種類のあまりの多さです。先天性の疾患、遺伝性のもの、生活習慣からくるもの……それまで自分が知らなかっただけで、数え切れないくらいあり、しかも新しい病気や病態は研究され増えていく一方です。たまたま、それらにならずに、それらをよけて(もしくはいまだにわからずに、かもしれませんが)、病気にならずに健康でいられる、というのは実は大変なことなんだな~というのが実感でした。

 

  格闘技・武道の競技はその特性上、身体を壊すリスクを必然的に内包します。打撲や骨折などの運動器の外傷や脳震盪といった症状が外から目に見えるものばかりではありません。長きにわたるハードなコンタクトで、身体の内部に影響が出るケースもあります。ここでは、競技との関連が考えられる内科的疾患を含めた身体内部の変化にフォーカスをあててみます。

 

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筋の破壊、減量、脱水、高タンパク食、、、格闘技者の生活習慣に注意

高尿酸血症痛風と合併症】

 「風が吹いただけでも痛い」というくらいの激痛が伴う痛風。 人間の身体は約37兆2000億個の細胞から成り立っていますが、細胞は壊れたりつくられたりと、新陳代謝を繰り返しています。それぞれの細胞の中に、細胞の核があり、細胞核核酸(DNA、RNA)と呼ばれる物質から構成されます。代謝により核酸が分解されると、プリン体が生じます。プリン体が尿酸に変わり、尿酸が高濃度に体内に蓄積されると高尿酸血漿を引き起こし、体のいたるところで結晶をつくります。尿酸の結晶は針のように鋭く尖っており、神経を刺すために最強の痛みが生じる、というわけです(昔は、足を切断していたほどの痛みです)。

    痛風の好発年齢は一般的には30代から50代と言われていますが、格闘技選手において、20代で高尿酸血症がある方、痛風が発症している例があります。また、格闘技医学会で現役選手の尿酸値を測定した結果、異常高値を示した例が数多くみられています。

 

   選手は、通常以上の筋肉量があり(細胞の量と代謝の頻度が多い)、多くのタンパク質やカロリーを摂取し(プリン体を摂取する量が多い)、脱水になるくらいの汗をかき(尿酸が濃くなりやすい)、全身の細胞を壊しまくる(外力や負荷による細胞の大量破壊が日常的)ライフスタイルです。壊れた細胞からプリン体が流出し、尿酸値が高くリスクが通常よりも高いのです。

 

   尿酸結晶が、血管や臓器に沈着して起きる合併症は非常に恐ろしいものばかりです。高尿酸血症、高タンパクは共に尿路結石のリスクが、血管にダメージを与えると脳梗塞心筋梗塞のリスクが上がります。腎臓に尿酸が蓄積して腎機能低下を起こすことがあります。生命にかかわる合併症が起きる前に、早期に対処すべき疾患です。痛風は、アルコールやプリン体の過剰摂取で起きる贅沢病、とのイメージがありますが、ハードなコンタクトスポーツや筋力トレーニングでも実際に起きています。これにアルコールや不摂生、引退後の体重増加等が加わると・・・・・高尿酸血症とその合併症リスクは何倍にもなる可能性があります。

 

   実際に、元有名選手が引退後、脳梗塞を発症しているケースがあります。また壮年で試合に出ている方がハードな練習後に痛風発作を起こす例もあります。競技生活がどのくらいパーセンテージで影響があったのかは、現在のところ追跡調査がないため明言できませんが、過酷なライフスタイルであることは間違いないでしょう。年齢にかかわらず、身体をぶっ壊す練習をしている方は、尿酸値に気を配ってください。もし異常値であれば、医師の診断の下に、正しい治療を受けていただきたいと思います

 

 

Dr.Fの格闘技医学 第2版(秀和システム)より

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