弁護士とドクター対談(2)~危険すぎる子供の格闘技~
・子供の格闘技の危険性
・保護者の法的責任
・フルコンタクトカラテ、創始者の遺志とは?
・海外では違法の国や地域も
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
子供の格闘技・武道競技は安全なのか?
―――安全性はやはり格闘技・スポーツにおいても重要だと思われます。最近、「子供の格闘競技」が盛んであり、全国で開催されていますが、率直にどのように感じていらっしゃいますか?
岩熊 私の率直な感想としては「大丈夫なのか?」です。私は格闘技の経験はありませんし、読者の皆様には大変失礼なのですが、格闘技をやりたいと思わなかったんですね。それは「けがが怖いから」です。私の格闘技のイメージは「けが」です。場合によっては命を落とすこともあります。そのような危険な格闘技を子供がやって大丈夫なのか?という疑問があるのです。
先日、子供の試合をYouTubeで見ましたが、小学校低学年か入学前の小さな子供がヘッドギアとグローブをつけてお互い殴ったり蹴ったりしてました。私にはショッキングな映像でした。Dr.F、これは医学的に見て安全だといえるのでしょうか。
Dr.F 岩熊先生、非常に危険である、と言わざるを得ません。格闘技・武道の素晴らしさは語りつくせないほどですが、だからこそ岩熊先生のご提言はとても貴重です。命が無くなったら、障害などが残ったら、その素晴らしさも享受できません。格闘技嫌いも増えますね。自分の子供が格闘技で障害を負って、一生介護が必要となった場合、関わった皆さんのイメージが良いはずがありません。
岩熊先生の「外からどう見られてるか?」という視点は極めて大切ですし、ご提言を有り難く思います。医学的な背景は後で、お伝えさせていただくとして、加藤先生は、いかがですか?
加藤 私は、格闘技は自分の身体を思い通りに動かしたり、瞬時の判断や行動を起こしたりする訓練にぴったりだと思います。対人競技で、一対一で競うことができ、優劣も分かりやすいですし。あとは、いじめに負けない心を練るのに役立つと思います。
ただ、安全面では、私も、気になる点がないわけではありません。特に、私が学生の頃の指導には、精神論がまかり通っていて、今から思うとゾッとすることもあります。例えば、入門直後の股割り。道場に座った道場生の向かいに指導者が座って両脚で強制開脚させ、道場生の背中に二、三人が覆いかぶさる…。太ももの裏でプツプツと音がして、股関節がゴキっといって、あっという間に胸が床に着いて股割り完了。これで股関節を壊してしまう例もあると後から聞かされました。それと、岩熊先生がご覧になったという、子供の試合については、非常に気になります。
必要な前提と、子供の脳の特徴
Dr.F 加藤先生、おっしゃる通り、いじめに負けない心をつくる効果が十分にあると思いますし、「思い通りにならない状況の中で、何とか身を処していく」、とか「見える相手と競うことで、見えない状況と戦うときにも置き換えて考えられる」という効能・効果を十分にもっていると思うんです。ただそれらについては、「安全を十分に確保されること」、「格闘技や武道においていじめが存在しないこと」という前提が必要です。岩熊先生がショックを受けられた小学生、幼稚園児レベルの競技という名のど付き合いに関してですが、僕的には「非常に危険である」というのが結論です。
医学的な背景ですが、
1)頭部の軟部組織は薄く、脆弱なので骨膜下血腫などを起こしやすい。
2)骨が柔らかい分、陥没骨折や穿通外傷が起きやすい。
3)血管が細いため損傷しやすく硬膜下血腫を起こしやすい。
4)不可逆的損傷(もとにどらない)を受けやすい。
5)局所症状が出にくい。
6)脳浮腫が起こりやすい。
などの子供ならではのファクターが存在します。医学用語ばかりですが、少なくとも「命に関わる危険性をはらむこと」と「大人と共通のリスク、子供に特有のリスクの両方があること」が伝わればと思いますこれらは国民生活センターのHPに詳しく記載されていますので、保護者・指導者は知っておくべき内容ですね。
―――恐ろしいですね・・・。
加藤 私は、先程の脳のお話からすると、身体が違う以上、「ルール」は異なるべきだという気がします。さらに、「ルール」をお互いが了解し、ある程度の危険に同意して行うという場面では、「前提事実に対する正しい認識」が必要だと考えています。
セカンドインパクトシンドロームとか、パンチドランカー、など子どもの身体の特性について、格闘技に関わる指導者や主催者らはもちろん、一般の道場生や親御さんたちに正しく認識されているのだろうか、と思うのです。科学や医学の観点から、様々な事象が分析され、問題点も解明されています。「気の毒だけど、そういう体質だった。」「きっと素因があったのだ。」だけでなく、仮にそういう個人の素質があったにせよ、医師の立場からしてみると、現在の知見からしたら、「起こるべくして起こった。」という痛ましい事故は少なくないのではないかと思います。
子供のフルコンタクトカラテの試合は存在しなかった
Dr.F 正しく認識されているとは言い難い状況です。極真カラテを創始し、世界に広めた大山倍達総裁は、【直接打撃制のカラテの試合は身体が出来上がり鍛え上げた成人男性がやるもので、子供や女性がやるものではない】という理念を、当時の機関紙や著書に表明されていました。時代が変わり、いろんな層に門戸が開かれたわけですが、では裾野が拡がった分、安全性についての意識はもっと高くないといけないですよね。
―――それは大切な理念ですね。Dr.Fご自身、8歳でカラテをスタートされたわけですが、実践者としていかがでしたか?
Dr.F 最初の伝統派の道場が、小学生のころは型と基本、約束組手だけの練習体系で、自由組手・スパーは一切無かったんですね。中学生から始めた実戦空手でも子供ルールは胸当て、胴当てを兼ねた防具をつけ、中段の防具の上への打撃で良い音がしたら技あり、のポイント制でした。ただ、顔を蹴ってもいい、胸部を素手で叩く、という練習は中学の時、大学生や一般に混じってやっていたので・・・今考えると、相当リスキーだったなぁ、と冷や汗出ます。まだ「心臓震盪」という言葉さえ無かった時代でしたからね。
そういう意味でも、どんなルールでも「子供に適応していいのかどうか」という議論が必要なのでは?と考えています。カナダの一部の州では、直接打撃制カラテの試合自体が法律で禁じられていますし、オランダでも子供のキックやMMAはやってはいけません。「なぜ禁じられているのか?」というところも含めて真剣に考える時期ではないでしょうか。
―――州で違法であれば、オリンピックは相当難しいってことですね。
保護者が加害者になることがある
Dr.F そうですね。先生方にぜひお聞きしたいのですが、小学生や幼稚園生の子供たちが、明らかに危険が想定されるルールの試合に出ている現状に対し、SNSなので多くの方々からご意見を頂くんです。大人でしたら、自己責任での理解もできますが、子供が自ら危険なところに飛び込んでいる認識があるのと思えないのですが、、、。
岩熊 理解していないと思いますね。子供自身がやりたいと思ってやり始めたケースよりも、親が子供にやらせているケースのほうが多いというのが実情だと思います。責任能力については概ね11~12歳までと考えられています。子供が責任無能力者だという場合には、監督義務者である親が損害賠償責任を負うことになります。
Dr.F では、例えば、我が子が試合に出場して事故が起きた場合、試合に出てよし、という判断をした責任は親である僕にある、という解釈でよいですか?
岩熊 例えば試合で一方の子供が他方の子供にけがをさせたとします。この場合、けがをさせた子供に責任能力がない場合には、その親が損害賠償責任を負います。
他方で、けがをした子供の親についても、「子供を危険な目に遭わせた」という意味では自分の子供との関係では加害者であると評価されるケースもあり、その場合には加害者として損害賠償責任を負うことも考えられます。
Dr.F そうなんですね!「危険な大会に子供を出す」、「危険な練習をさせる」ということは、親も法的にも加害者となりえる場合もあるわけですね!親は子供の安全を守る立場だと僕も思いますので、子供に習わせる保護者側にも医学的にも法的にも正しい判断が求められますね。
加藤 私もそう思います。ひところ問題になりましたが、
(3へ続く)
https://societyoffightingmedicine.hatenadiary.com/entry/2021/07/19/155621
格闘技医学 第2版(秀和システム)