スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

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【格闘技・武道と法的根拠 弁護士・加藤英男先生】

【格闘技・武道と法的根拠 弁護士・加藤英男先生】 

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 格闘技・武道は「危険」であるけど「楽しい」し「生きる力」にもなるし「人生の型」でもある素晴らしい競技です。しかし指導者・運営側に回ったら、そもそも「格闘技自体が危険であること」を出発点にして考えた方がよいと思います。

 

 格闘技は、相手の生命を奪い、身体に重要な障害を残すかも知れない競技です。指導者・運営側は、相手の生命を奪い、身体に重要な障害を残すという結果が有り得べきことと予見し、予見した結果を回避する措置をとる義務が課せられます。

 

 うっかり予見しなかった場合、予見したのに回避する措置をとらなかった場合、指導者・運営側は、民事・刑事の責任を問われます。

 

「いや、お互い同意していればいいでしょう。」

 

いいえ、同意は全てではありません。同意で処分(捨て去る)ことができる権利・利益でなければ有効になりません。

 

まず、生命ですが、

 

①公然と『生命を賭けて』闘うことは決闘罪として違法な犯罪であるとされています。

②自分は死んでもいい、相手もそう思っているから相手が死んでもかまわないと思って『無理な闘い』をすることも違法です。

 

②については、「死ぬことを同意した相手を死なせること」は同意殺人罪という罪になります。

②について、もう1つ、「自殺関与罪」が存在することから「自殺」すること、生命を処分(捨て去る)ことは違法です。

 

前にある地方の大会で、「試合の結果死んでも運営、相手選手に異議を唱えません」という「同意書」を書かされたことがありますが、有効な同意にはなり得ません。

 

次に、身体に重要な障害を残すという結果も、同意をもって民事・刑事の責任を免除され得るとはいえないと思います。重篤健康被害は処分できない権利・利益である、と裁判所に判断される可能性が大きいと思われます。同意が無効であれば、運営側には結果予見義務と結果回避義務が生じ、適切な措置を執ることが求められます。

 

 危険な結果を生む行為(作為・不作為)についての医学・科学情報で一般に流布されているものは運営側も承知し、予見して/行ってしかるべきとされます。指導者・運営側が、これら「しかるべき」とされたことができていないと、生じた結果に対して、民事・刑事の責任を問われます。

 

格闘技を実践する上で、

(1)危険な結果を生む行為(作為・不作為)、
(2)危険な結果を回避する行動(作為・不作為)、

 

についての、生命・健康の安全確保のための医学・科学情報で一般に流布されているものを知っておくことは、実践者はもちろん運営側自身の身を守るためにも必須です。

 

 詳しい情報の共有・理解・実践をもって、不幸な結果を積極的に回避し、より安全で安心な格闘技・武道の活動が行える。そのような機運がより一層高まっていくことを心より願います。

 

スポーツ安全指導推進機構 アドバイザー
弁護士・加藤英男  

https://twitter.com/BengoshiKH

 

 

sportssafetyinstruction.jimdosite.com