スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

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マイク・タイソン強さの秘密① レントゲンからわかること

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一流選手や指導者層に「新しいスタンダード」として話題となっている書籍「格闘技医学 第2版」。今号では、本書の魅力や製作の裏側を著者であるDr.Fに伺いながら、さらなる「強さのヒント」を読者の皆さんにお届けしてみたいと思います。

 

 

ーーー2021年にリリースされた『格闘技医学 第2版』ですが、早くも重版が決まったそうで、おめでとうございます。

 全ジャンルで新刊がどんどん発売される中、重版になるのは1割から2割程度ですから、格闘技・武道関係の書籍としては快挙だと思います。まずは率直なご感想を聞かせていただきますか?

 

Dr.F ありがとうございます。素直にうれしいです。「売れる」を目的に書いているわけではないんですが、だからと言って「売れなくてもいいか」というと商業出版として出版社(秀和システム)から出させていただいてる以上、売れない本は利益も生まないわけです。

 

 正直、コロナ禍にあって、発売記念イベントも、プロモ―ション活動もほとんどできない中で、このような結果につながったのは、やはり手に取ってくださった皆さんの「強くなりたい」気持ちのおかげです。競技の世界はなんだかんだで「結果」が求められる世界ですから、正直、ホッとした面もありますね。

 

 

ーーー強さの根拠を示した作品が結果を出さないのはまずい、と。

 

Dr.F はい、まさにそれです。試合ひとつとっても、あーだこーだ言うのは簡単じゃないですか。でもやるのは大変で、勝つのはもっと大変で。少なくとも、この連載や、拙著を読んでくださる皆さんは、自ら結果を出そう、あるいは選手に結果を出してほしい、と日々奮闘している方々ですので、僕も「著者として結果を出す」という想いはありました。

 

 

ーーーなるほど、そうだったんですね。格闘技医学の特徴のひとつに、「今まで見えなかったこと、想像でしかなかったことが可視化された」という側面があると思うのですが、その端的な例がレントゲンやCT、MRIといった医学検査の画像です。それも病院でよく見る画像とは違ったものもたくさんあって。

 

Dr.F 表紙からして拳で顔面を撃ち抜いてますからね(笑)。

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ーーーそうですね。これらの検査画像を撮影しようと思ったのはなぜですか?

 

Dr.F 単純に自分が知りたかったからですね。例えばマイク・タイソンという伝説級のボクシングヘビー級元世界王者がいますが、彼はなぜあんなにバッタバッタと相手を一撃でぶっ倒すのか? もう疑問で仕方ないわけですよ。

 

 そこで記事を読み漁る、試合やドキュメントをビデオに録画して何度も観る、DVD全集が出ればそれを購入して時代順に試合を観て研究する、ネット出現後は動画サイトで試合はもちろん、流出した練習映像なんかも観るわけです。

 

ーーーそれはマイク・タイソンになりたいとの思いからですか?

 

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Dr.F フィジカルから、素質から、環境から、何から何まで違うのはさすがの僕も理解しているので、タイソンにはなれないのは分かっています(笑)。

 でも、ひとつでもいいから何か彼のスタイルからエッセンスを自分というハードにインストールできないだろうか?という「実践者としての欲求」が根本にあるわけです。

 

ーーーなるほど。

 

Dr.F そこで、「じゃあ、レントゲンを撮ってみるか」ということになって(笑)。

 

ーーーふつうはそうならないと思うんですが(笑)。

 

Dr.F ですよね(笑)。でも、現役選手たちがもし医師免許を与えられたら、こういう実験したいんじゃないでしょうか?

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 だって、パンチひとつにしても、関節技ひとつにしても、ほんの少しの角度の違いとか、力を入れる方向の違いとか、あるいはタイミングとかで全然結果が違うじゃないですか。

 

 【あと3ミリずれていたらギブアップ取ってUFCに出場できた】とか【苦し紛れに出した前蹴りがたまたま相手のボディに刺さった】とか、選手たちはそういうギリギリの戦いをしてるわけで。

 

 であれば、「本当はどうすれば関節技が決まりやすいのだろう?」とか「偶然性の高い現象の再現性を高めるにはどうすればいいのだろう?」といった疑問は追求してればしているほど、湧いてくるはずなんです。

 

ーーーおっしゃる通り、どんどん強くなる人、チャンピオンになっても満足しない人は知的好奇心に溢れている気がします。

 

Dr.F そうなんです。だから僕が被験者となって放射線を浴び(苦笑)、その結果を闘技医学という形で実践者に向けて研究発表している、というわけです。

 

ーーーまさに「実践科学者としての欲求」の部分だと思います。ぜひその視点から「マイク・タイソンの構えのレントゲン」を解説していただけますか?

 

 

 

Dr.F 了解しました。まず、手の向きから見てみましょう。タイソンの構えは掌が自分側を、手の甲が相手側を向いています。この構えは、いわゆる二の腕と呼ばれる上腕二頭筋が軽く収縮している状態で、相手をハグしたり、ウェルカムの意を示すときに働きやすい筋群です。

 

ーーーハグやウェルカム、ですか。

 

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Dr.F はい、これ、逆を考えるとわかりやすいのですが、相手を拒絶するときって、掌を相手に向けませんか?「やめてください!」「ストップ!」「入ってくるな!」のジェスチャーです。

 

ーーーあああ、確かにそうですね。掌を向けられると拒絶というか、距離を取りたいんだな、というのが伝わってきます。

 

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Dr.F そうなんです、リーチのある選手は掌を相手に向ける傾向があります。ボクシングなら「前手のジャブで相手の侵入を防いでおいて、バリアを破ってきたときに後手のストレートで迎撃する」とか、キックなら「前足、前手で邪魔してフラストレーションを与えておいて、それを解かれたときに後足の膝蹴りが待っている」みたいな戦術です。

 

②へ続く

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