スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

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スポーツ安全指導推進機構テストとは?① ~スポーツ安全後進国~

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―――Dr.Fのツイッター(@takuyafutaesaku)「中高運動部では年間35万件の事故、10年で154件の死亡事故が発生している」という情報をお見かけして、その数に正直ビックリしました。死亡数も「1年で15人以上」となると、見過ごすわけにはいかない数字ですね。

 

Dr.Fこれ、あくまで中高の部活だけですからね。キックや総合、フルコンタクトカラテなどは、一部を除いてほとんどが「部活外のスポーツ活動」に位置づけられますから、そういった格闘技系競技や、中高生以外の年齢層を含めると実数は確実に増えていくはずです。

 

―――日本柔道での死亡者数も大きな問題になっているようですが。

 

Dr.F 柔道では1983年から2010年までで114人の中高生が事故で命を落としています。ネットで検索すれば出てきますが、小学生1年生、小学5年生も柔道の投げ技により頭部外傷で尊い命が失われています。台湾では指導者が子供に命令し、「子供が子供をずっと投げ続ける」という虐待行為があり、投げられた子供は意識不明の重体、1か月後に他界されました。投げ続けた子供にも、一生消えないトラウマが残るはずです。

 

 

 

―――・・・言葉を失いますね。

 

Dr.F  誤解しないで欲しいのですが、柔道は素晴らしい武道です。僕も柔道部にいたことがあって地区の公式戦にも何回か出場しましたが、そこで得られたものは非常に大きいですし、柔道の猛者はみんな格闘エリートですよ。

 だからこそ柔道をやって不幸になる人の数をゼロにすべきだと思うんです。「危険だからやめろ」ではなくて、「どこをどうしていけば安全性がさらに高まるのか」をスポーツドクターの立ち位置から追求したいんです。

 

―――たしかに、素晴らしい文化だけに障害を負ったり、命を落としたりするのは誰にとってもプラスはないですね。このような状況を打破するためには、どうすればいいのでしょうか?

 

Dr.F これはもう、スポーツ安全先進国に学ぶしかないんじゃないでしょうか?

 

―――スポーツ安全先進国?

 

Dr.F そうです、日本は明らかに後進国なので。以前にもお伝えしましたが、柔道において日本を遥かに上回る競技人口を有するフランスでは、13年間で死亡者数はゼロです。

 

―――ゼロ!その差は一体何なんですか?

 

Dr.F いろんな要因が挙げられますが、そのひとつとして指導者の資格があります。フランスでは柔道を指導するには国家資格が必要なんです。研修時間は250時間から300時間、柔道指導資格は約80万円、上級指導資格は約123万円のコストがかかります。それだけステイタスも高く、安全性を含めた指導内容のレベルが高いといえるでしょう。

 

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―――それだけの時間とコストがかかるんですね!

 

Dr.F もちろん指導の資格だけではなく、スポーツのシステムも違いますし、特に欧米は訴訟社会ですから、責任の所在もかなり明確なんです。フランスは指導を厳密に資格化した結果、競技者数は日本の3倍にまで増え、レベルも上がり、東京2020オリンピックの柔道男女混合団体では圧倒的な強さで優勝。日本は完敗を喫しています。

 

ーーー柔道の世界最強はフランス、という状況をつくり上げたわけですね。

 

Dr.F その通りです。裾野が広がれば、頂点も高くなる。このシンプルな図式を結果で証明したんです。ただ、日本も「他人を危険にさらす可能性」がある場合、資格化されているものも少なくないでしょう?

 

―――たしかに運転免許も同乗者や歩行者の安全を守る必要がありますし、飲食店を開業しようと思ったら「食品衛生責任者」と「防火管理者」が必要です。

 

Dr.F そうなんです。スポーツ競技の指導は「他者を危険にさらす」可能性があるわけですから、指導者資格の厳しさが、競技者・実践者への優しさにつながるんです。

 「フランスの死亡事故ゼロ」に対して、国が違う、文化が違う、お金の流れが違う、と違いを見つけるのは簡単ですが、それよりも他国の優れたところはどんどん取り入れていかねば、そのしわ寄せは今練習してる子供や弱い人たちに及んでしまいます。ですから、この問題だけは、のんびり、ゆっくり取り組んでいる暇はないんです。

 

―――この連載でも安全性について述べてくださっていますが、スポーツ安全を推進していく上での問題にはどんなものがありますか?

 

Dr.F やはりスポーツ現場と医療現場の間の「見えない壁」は問題です。2年ほど前ですが、僕もかつて一緒に練習したことがある、あるカラテの先生が練習のスパーリングで脇腹を痛めたんですね。「脇腹を痛める、アバラにひびが入る」ってまあ、言ってしまえば試合でも道場でも、そこそこ頻繁に見られる風景だと思うんです。

 

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―――たしかに「アバラが折れて一人前」なんて空気もまだまだありますよね。

 

Dr.F そうなんです。格闘技をやる上で「よくあることだから」と病院に行かなかったり、十分な検査もしていないのに「肋骨骨折」(アバラが折れた)と自己診断したりするケースも少なくないと思います。ですが、肋骨の奥には重要臓器があるわけで・・・。そのカラテの先生は、内臓損傷が原因で数日してから他界されました。

 

―――えー、肋骨骨折だけではなかった、と。

 

Dr.F 肝臓にも損傷が及んでいたそうです。格闘系は我慢強い方が多いですし、事実、「痛みを我慢する」とか「痛みを無視する」といったスキルが勝利につながる面もあるじゃないですか。だからどうしても「これくらいは耐えられる」とか「なんのこれしき」といったバイアスが働きやすいんですね。

 

―――試合や修行に必要なマインドがマイナスに働いてしまうんですね。

 

Dr.F そうなんです。またドクターサイドも、患者さんが問診で「練習でアバラを痛めました」と言った場合、「果たして内臓損傷まで疑って検査するかどうか」という問題もあるんです。僕は実際にこのような症例を知っているから、レントゲンで骨の評価をするだけでなく、CTで腹部の評価、あと血液検査でも肝臓の酵素の逸脱など無いかどうか等、総合的に確認をしますが、肋骨骨折の診断→治療で止まってしまうケースもありえる話です。

 

 

―――それは非常に怖いですね。スポーツ現場も医学的視点をもたねばならないし、医療の現場もスポーツでどんなことが起こりうるかを知っておかねばならない、というわけですね。

 

Dr.F  おっしゃる通りです。それぞれの文化の違い、立場の違いはあれど、安全、健康、命といった領域ではきちんと同じ方向を向いて、「ひとりの人間としてのベネフィット」を考えていかねばならないと思うんです。

 

―――今、文化の違い、立場の違いとおっしゃいましたが、まさにそれらを乗り越える活動されているのが、スポーツ安全指導推進機構のだと思うのですが、具体的にはどのような取り組みがなされているのでしょうか?

 

Dr.F  とにかく「スポーツ安全意識の高い指導者の見える化」を徹底しています。心臓震盪、頭蓋骨内出血、慢性外傷性脳症(パンチドランカー)、内科的問題、子供の脆弱性熱中症など、「指導する上でこれだけは押さえておいてもらわないと困る」という医学知識、それから指導者が知っておくべき法律知識、スポーツ安全に関する世界の動向、などなどをまず全てオンラインの動画や記事で学んでもらいます。

 

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―――オンラインであれば、アクセスしやすいですね。

 

Dr.F 場所と時間の制約無しに受講できるので、コロナ禍を逆利用して全てオンライン化を実現しました。

 

 

―――ということは、テストもオンラインなのですか?

 

Dr.F はい、もちろんです。エントリーから7日間の間に学習をいただき、学習が終わったらメールでご連絡をいただいています。そのメールに返信する形で、テスト問題が送られてくるので、(数日内の)期日までに回答を返信していただきます。

 

―――なるほど、それは非常に画期的なシステムですね。時間と場所の制約なしに、受講、受験できるというのは有り難いですね。

 

 

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(2)に続く

 

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https://www.amazon.co.jp/Dr-F%E3%81%AE%E6%A0%BC%E9%97%98%E6%8A%80%E5%8C%BB%E5%AD%A6-%E7%AC%AC2%E7%89%88-%E4%BA%8C%E9%87%8D%E4%BD%9C%E6%8B%93%E4%B9%9F/dp/479806324X