世界王者・纐纈 卓真 VS Dr.F 対談① ~リアル・グラップラー刃牙の言葉~
ーーー今回は極真カラテ世界王者にして、伝説の百人組手を達成したカラテ家、纐纈卓真(こうけつたくま)代表をお迎えしての対談です。今、You Tubeでも話題騒然、カラテはもちろん様々な格闘技ジャンルの皆さんからもチャンネル登録やコラボレーションが相次いでいる纐纈氏。Dr.F、まずはお二人の出逢いから聞かせてください。
Dr.F 纐纈代表の存在を知ったのは、私が連載していたカラテ専門誌でした。若き世界王者の表紙に目が釘付けになりまして!
担当記者に尋ねたら「全く怯まず、打ち合いを辞さない空手をする」と聞いて、興味が湧いたんです。相手が自分よりでかいとか、どんな飛び道具もってるかわかんない外人相手にもそれができるって凄いな、と。彼のスピリットにも関心を持ったのを覚えています。
ーーー専門誌から試合ぶりが伝わったんですね。纐纈代表はどんな印象をお持ちでしたか?
纐纈 僕がDr.Fを知ったのも同じ専門誌の連載でした。当時から既に医学的な根拠を示しながらケガした選手が強くなりながら復帰できるリハビリ、強くなるために脳とイメージを使う方法などを公開していて『新しい視点で格闘技を研究している面白い人がいるなぁ〜』って思ってました。
当時流行っていたmixiでご挨拶頂いたのがキッカケだったんですが、その時は『あっ!あの格闘クリニックの先生だ!』って思いました!
正直あの挨拶が、その後の僕に大きな影響を与え、今に続く大切なご縁になるとは想像もしていませんでした。
Dr.F SNSで交流する中で、格闘技医学セミナーを愛知のOISHI GYMでやらせていただいた日の真夜中に、纐纈代表がわざわざ車を飛ばして会いに来てくださったんです。
名古屋市名東区のキックボクシング、エクササイズ、空手、ダイエットの大石ジム
纐纈 ずっと先生の研究が気になっていて『一度直接会ってお話をさせて頂きたい!』と思っていたので、夜11時頃にお会いしてから朝5時の閉店まで話が止まらず、居酒屋の席を立って技の解説をしたり、お店を出てからも楽しすぎて話し足りなかったりで。
Dr.F そうそう、居酒屋の個室で相互セミナー(笑)
今考えれば、相当失礼な話ですが、僕はビックリしたんです、纐纈選手が考え抜かれた空手をされていたことに。
これはYouTubeでも非公開レベルでしょうから詳細は黙っておきますが(笑)相手の強さを下げるテクニックを駆使されていた。技術も戦術も、纐纈流のオリジナリティを感じたんです。上まで行く選手はどこか知性的な面を感じるんですが、纐纈代表は粉砕するような爆発力と知性的な駆け引きが、絶妙にブレンドされた選手だと理解したんです。
纐纈 ありがとうございます!
でも実は先生とお会いした頃は、僕が空手人生でもっとも悩んでいた時期で、夢だった世界大会で優勝したものの満身創痍で救急搬送されるレベルで・・・
『あんな状態で自分が優勝できたのは運が良かったからだ…正直もう僕の伸び代は大きくないし、たった4年で確実に2連覇できる実力になるなんて無理だ…』と思っていました。でも周りは既に2連覇を期待していて…だから一人になるとプレッシャーで嘔吐するような状態が1年以上続いていたんです。
Dr.F えー、そんな時期だったんですね。
纐纈 そうなんです。でも居酒屋で二重作先生と話していた時に、僕の空手観を大きく変えるキッカケがあったんです!
Dr.F なんと!
纐纈 それは「格闘技には相手がいる」という初歩中の初歩を見つめ直せたことだったんです。
僕はそれまでずっと自分のパンチ力やキック力を上げる身体操作、効きやすい部位、相手の実力を奪う方法などばかりを考えていました。でも「僕は僕目線でしか空手を見てなかった」ことに気づけたんです。
具体的には「この間合いでここを攻撃すれば相手のこの武器を壊せる」「この距離のパンチ力なら負けないからこの間合の打ち合いに持ち込めばダメージの足し算で僕の勝ち」のように自分の攻撃でしか組手を考えていなかったんです。
Dr.F なるほど。
纐纈 あの時先生が語られた「相手側の目線に立って組手や技を組み立てる発想」が僕にはなかったんです。例えばKO集を見てもKOした選手の分析しかしていなかったんです。
でも先生とお会いしてからはKOされた側の選手の目線や重心を分析、再現することで色んなモノが見えるようになり・・・。
『もう伸びシロなんてない…』と悩んでいた僕が、一夜で「伸びシロしかない白帯」に戻った感覚で。その日から空手が楽しくて楽しくて、僕の研究好きに一気に火が点き、あれから10年以上。今でもずっと楽しくて、新しい発想や技術も生まれ続けているんです。だから先生と格闘技医学会には本当に感謝しかありません。
Dr.F うわぁ、ありがとうございます。居酒屋の会話で、そこまで深い気づきを得て、伸びシロを発見できたのは、それだけ纐纈代表が真剣に悩まれていたからだと思うんです。
「どうすれば強くなれるか・・・」
喉が渇いているにも関わらず、どこに水があるかわからなかった。そんなとき、たまたま僕がミネラルウォーターをもっていたような。
纐纈 いやまさに!喉がカラカラの砂漠の真ん中でミネラルウォーターを渡されたような感覚でした!
Dr.F でも、自分目線の組手をしていたのは、まさに選手時代の前半の僕でして(笑)
もっと強く、もっと速く、もっと上手く、もっと長く。
ずっと「何かをプラスする発想」しかなかったんです。どんどんやるべきことは増える、時間は足りなくなる・・・。
纐纈 足し算で限界を感じた感覚、凄く分かります。先生は何故それに気づかれたんですか?
Dr.F 当時僕は、研修医で全日本ウェイト制に出る、という目標で3時間睡眠とか無茶苦茶やってたんですけど。
「練習がきつい」以前の問題として、「練習時間の確保が圧倒的にきつい」という状況でした。
夜22時に道場に電話して「今からいく!待ってて!」と後輩に残ってもらって、終電まで渋谷の道場で練習。これはかなりいい方で、当直の夜はリハビリ室で自主トレ、救急対応、自主トレ、みたいな感じで。
纐纈 めちゃめちゃハードですね・・・。
Dr.F 今僕の年齢でやったら3日で死にます(笑)なので「プラスする練習だと、時間のあるライバルたちに勝てない」、まさに迷いの中でした。
そんなとき前田日明代表率いるリングスのリングドクターの機会をいただき、そこでグラップラー刃牙のモデルとして有名な平直行氏に出逢ったんです。
纐纈 おおお!
Dr.F 平さんが「強いパンチで相手が倒れるわけじゃない。弱いパンチで相手が倒れたら、人はそれを強いパンチだっていうんだ」ってことを何気ない会話で教えてくださったんです。
「うわー!そうかーー!!」と脳天をハンマーで殴られたぐらいの衝撃を受けまして。そこから「自分と相手の関係性」に注目するようになったんです。
纐纈 なぜあの時、先生が僕に平さんの言葉を教えて下さったのか今ようやく理解ができました。あれから「自分と相手の関係性」というキーワードを先生から何度もお聞きし『僕ももっともっと研究したい!』って思ったんです。
Dr.F 僕、前は「自分をコントロールすることで相手をコントロールする」って考えていたんですよ。「いやまて、ちょっと違うぞ」と。例えば、一歩前に出てみる。すると相手との距離が数十センチ短くなる。その関係性の変化に対して、相手も反応するんじゃないか、と。
つまり自分から動くことで変えられるのは、「関係性」であり、刻々とそれを変え続けるのが格闘技だ、と。
もっと早い段階で気づきたかった、遅かったー(苦笑)
―――お2人の「素敵な関係性」が伝わってきます(笑)
Dr.Fさすが、ファイト&ライフさん(笑)それにしても纐纈代表は、ちょっとした会話のヒントからでも「学ぶ貪欲さ」が凄いですよね!
②へ続く
纐纈代表の推薦の言葉も掲載
格闘技医学 第2版