スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

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推薦図書01 ~ロバート・ツルッパゲとの対話 ワタナベアニ著~

残念ながらスポーツや格闘技の世界にも、思考停止が至るところで見られます。
 
十分に身体と精神を鍛え上げ、ディフェンスをマスターした大人同士だから許されるハードなコンタクトスポーツが未完成な子供に安易に適応される例。
 
メディカルチェック無しに選手生活を邁進し、せっかくいいところまで行ったのに、大きな大会前に初めて脳のリスクが判明した例。
 
パワハラ的な指導が常態化してしまっていて、「それを乗り越えなければ勝てない」という思い込みに苛まれる例。
 
他にも、よく考えたらおかしなことなんだけど、いつのまにか自分の思考にブレーキをかけてしまってる、あるいは「そんなものだ」と納得させてしまっていることはないでしょうか?
 
その一方で、スポーツや格闘技におけるパフォーマンス向上に必須のスキルがあります。
 
それは自分で自分を強くすること。
 
カリスマ的選手の方法も、憧れの先輩のやり方も、たしかにヒントは満載でしょう。
 
しかしながら、それらも「そっくりそのまま」では使えません。夢の無い話ですが、「その人だからできる技術や戦術」というのは現実に存在します。
 
仮にコピーしたとしても、劣化コピーになってしまい必ずどこかで限界が来てしまいます。
 
個体として、身体が違い、脳が違うから、「エッセンスを取り込む」あるいは「考え方を学ぶ」というところを最適解にしつつ、どこかで自身の強さを見つけていく必要があります。
 
そこで、格闘技医学会の推薦図書として、ご紹介したいのが本書です。
 
自分の脳と身体で考え、行動すること。シンプルで強靭なメッセージを、決して声高に上からではなく、実に愉快に、軽妙に伝えてくれる良書です。
 
著者であるワタナベアニ氏とはTwitterにてご縁をいただきまして、推薦図書とさせていただきたい旨をお伝えしましたところ、なんと著者自らメッセージを頂戴しました。以下、添付します。
 
 

このたびは『ロバート・ツルッパゲとの対話』をご推薦いただき、誠にありがとうございます。 ふざけた表紙と書名ではありますが、どうしたら自分が自分の考えで自由に生きていくかを真面目に書いたつもりです。
 
毎日のニュースを見ていると、人々はつねに「理不尽さ」と戦っているように見えます。そしてその勝負に負けているのです。
 
理不尽なシステムは誰が作ったのでしょうか。誰かひとりが作ったわけではありません。「こんなことを言ったら怒られるかもしれない」「本当は嫌だけど、やらないと責められるかもしれない」といった、ひとりひとりの我慢の一滴が岩に大きな穴を開けたのです。
 
人間は動物であることを忘れてはいないでしょうか。最先端のテクノロジーは人間が持っている野生や本能を超えたように感じているがそうではないこと、出発点はいつも肉体であることを思い出した方がいいと思います。
 
いくらテクノロジーが進化しても、パソコンを買いに行くときには足で歩き、ネットでキーボードを打つときには指や手首を使っています。その肉体の動きを精密に知ることをおろそかにして、目の前のモニタに映っていることだけが真実だと思い込み過ぎてはいないでしょうか。
 
私は人間を二つの種類に分けるとマイク・タイソン側の顔と体格をしていますが、幼い頃に少しだけ格闘技を学び、攻撃すること、防御することを肉体で知ったことが現在の写真家という仕事にも役立っていると感じます。世界のすべては他者とのヒューマニズムに基づいたコミュニケーションにあります。より自由で豊かで優しい社会になって、『ロバート・ツルッパゲとの対話』のような本が生まれる必要がなくなるといいと思っています。
 
ワタナベアニ
 
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考えるとはどういうことだろう?自分らしく強くなるにはどうしたらいいだろう?そんな疑問をお持ちの方には、ぜひともお手に取ってみていただきたい書です。
 究極的には、誰かが私を強くしてくれるわけではありません。であれば、強さを志向し、思考し、試行し、施行して、自らの身体と精神に問うてみるしかない。本書は大いなるヒントとして、強さを求める人々のセコンドとしてそばにいてくれると確信しています。
 
スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会代表 二重作拓也