格闘技医学会 Society Of Fighting Medicine

格闘技・武道・スポーツの安全情報、医学情報を発信

弁護士とドクター対談(2)~危険すぎる子供の格闘技~

・子供の格闘技の危険性

・保護者の法的責任

・フルコンタクトカラテ、創始者の遺志とは?

・海外では違法の国や地域も

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子供の格闘技・武道競技は安全なのか?

―――安全性はやはり格闘技・スポーツにおいても重要だと思われます。最近、「子供の格闘競技」が盛んであり、全国で開催されていますが、率直にどのように感じていらっしゃいますか?

 

岩熊 私の率直な感想としては「大丈夫なのか?」です。私は格闘技の経験はありませんし、読者の皆様には大変失礼なのですが、格闘技をやりたいと思わなかったんですね。それは「けがが怖いから」です。私の格闘技のイメージは「けが」です。場合によっては命を落とすこともあります。そのような危険な格闘技を子供がやって大丈夫なのか?という疑問があるのです。

 先日、子供の試合をYouTubeで見ましたが、小学校低学年か入学前の小さな子供がヘッドギアとグローブをつけてお互い殴ったり蹴ったりしてました。私にはショッキングな映像でした。Dr.F、これは医学的に見て安全だといえるのでしょうか。

 

Dr.F 岩熊先生、非常に危険である、と言わざるを得ません。格闘技・武道の素晴らしさは語りつくせないほどですが、だからこそ岩熊先生のご提言はとても貴重です。命が無くなったら、障害などが残ったら、その素晴らしさも享受できません。格闘技嫌いも増えますね。自分の子供が格闘技で障害を負って、一生介護が必要となった場合、関わった皆さんのイメージが良いはずがありません。

 岩熊先生の「外からどう見られてるか?」という視点は極めて大切ですし、ご提言を有り難く思います。医学的な背景は後で、お伝えさせていただくとして、加藤先生は、いかがですか?

 

加藤 私は、格闘技は自分の身体を思い通りに動かしたり、瞬時の判断や行動を起こしたりする訓練にぴったりだと思います。対人競技で、一対一で競うことができ、優劣も分かりやすいですし。あとは、いじめに負けない心を練るのに役立つと思います。

 ただ、安全面では、私も、気になる点がないわけではありません。特に、私が学生の頃の指導には、精神論がまかり通っていて、今から思うとゾッとすることもあります。例えば、入門直後の股割り。道場に座った道場生の向かいに指導者が座って両脚で強制開脚させ、道場生の背中に二、三人が覆いかぶさる…。太ももの裏でプツプツと音がして、股関節がゴキっといって、あっという間に胸が床に着いて股割り完了。これで股関節を壊してしまう例もあると後から聞かされました。それと、岩熊先生がご覧になったという、子供の試合については、非常に気になります。

 

必要な前提と、子供の脳の特徴

 

Dr.F 加藤先生、おっしゃる通り、いじめに負けない心をつくる効果が十分にあると思いますし、「思い通りにならない状況の中で、何とか身を処していく」、とか「見える相手と競うことで、見えない状況と戦うときにも置き換えて考えられる」という効能・効果を十分にもっていると思うんです。ただそれらについては、「安全を十分に確保されること」、「格闘技や武道においていじめが存在しないこと」という前提が必要です。岩熊先生がショックを受けられた小学生、幼稚園児レベルの競技という名のど付き合いに関してですが、僕的には「非常に危険である」というのが結論です。

 

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 医学的な背景ですが、

1)頭部の軟部組織は薄く、脆弱なので骨膜下血腫などを起こしやすい。

2)骨が柔らかい分、陥没骨折や穿通外傷が起きやすい。

3)血管が細いため損傷しやすく硬膜下血腫を起こしやすい。

4)不可逆的損傷(もとにどらない)を受けやすい。

5)局所症状が出にくい。

6)脳浮腫が起こりやすい。

 

などの子供ならではのファクターが存在します。医学用語ばかりですが、少なくとも「命に関わる危険性をはらむこと」と「大人と共通のリスク、子供に特有のリスクの両方があること」が伝わればと思いますこれらは国民生活センターのHPに詳しく記載されていますので、保護者・指導者は知っておくべき内容ですね。

 

―――恐ろしいですね・・・。

 

加藤 私は、先程の脳のお話からすると、身体が違う以上、「ルール」は異なるべきだという気がします。さらに、「ルール」をお互いが了解し、ある程度の危険に同意して行うという場面では、「前提事実に対する正しい認識」が必要だと考えています。

 

 セカンドインパクトシンドロームとか、パンチドランカー、など子どもの身体の特性について、格闘技に関わる指導者や主催者らはもちろん、一般の道場生や親御さんたちに正しく認識されているのだろうか、と思うのです。科学や医学の観点から、様々な事象が分析され、問題点も解明されています。「気の毒だけど、そういう体質だった。」「きっと素因があったのだ。」だけでなく、仮にそういう個人の素質があったにせよ、医師の立場からしてみると、現在の知見からしたら、「起こるべくして起こった。」という痛ましい事故は少なくないのではないかと思います。

 

子供のフルコンタクトカラテの試合は存在しなかった

 

Dr.F 正しく認識されているとは言い難い状況です。極真カラテを創始し、世界に広めた大山倍達総裁は、【直接打撃制のカラテの試合は身体が出来上がり鍛え上げた成人男性がやるもので、子供や女性がやるものではない】という理念を、当時の機関紙や著書に表明されていました。時代が変わり、いろんな層に門戸が開かれたわけですが、では裾野が拡がった分、安全性についての意識はもっと高くないといけないですよね。

 

―――それは大切な理念ですね。Dr.Fご自身、8歳でカラテをスタートされたわけですが、実践者としていかがでしたか?

 

Dr.F  最初の伝統派の道場が、小学生のころは型と基本、約束組手だけの練習体系で、自由組手・スパーは一切無かったんですね。中学生から始めた実戦空手でも子供ルールは胸当て、胴当てを兼ねた防具をつけ、中段の防具の上への打撃で良い音がしたら技あり、のポイント制でした。ただ、顔を蹴ってもいい、胸部を素手で叩く、という練習は中学の時、大学生や一般に混じってやっていたので・・・今考えると、相当リスキーだったなぁ、と冷や汗出ます。まだ「心臓震盪」という言葉さえ無かった時代でしたからね。

 そういう意味でも、どんなルールでも「子供に適応していいのかどうか」という議論が必要なのでは?と考えています。カナダの一部の州では、直接打撃制カラテの試合自体が法律で禁じられていますし、オランダでも子供のキックやMMAはやってはいけません。「なぜ禁じられているのか?」というところも含めて真剣に考える時期ではないでしょうか。

 

―――州で違法であれば、オリンピックは相当難しいってことですね。

 

保護者が加害者になることがある

 

Dr.F そうですね。先生方にぜひお聞きしたいのですが、小学生や幼稚園生の子供たちが、明らかに危険が想定されるルールの試合に出ている現状に対し、SNSなので多くの方々からご意見を頂くんです。大人でしたら、自己責任での理解もできますが、子供が自ら危険なところに飛び込んでいる認識があるのと思えないのですが、、、。

 

岩熊 理解していないと思いますね。子供自身がやりたいと思ってやり始めたケースよりも、親が子供にやらせているケースのほうが多いというのが実情だと思います。責任能力については概ね11~12歳までと考えられています。子供が責任無能力者だという場合には、監督義務者である親が損害賠償責任を負うことになります。

 

 

Dr.F   では、例えば、我が子が試合に出場して事故が起きた場合、試合に出てよし、という判断をした責任は親である僕にある、という解釈でよいですか?

 

岩熊 例えば試合で一方の子供が他方の子供にけがをさせたとします。この場合、けがをさせた子供に責任能力がない場合には、その親が損害賠償責任を負います。

 他方で、けがをした子供の親についても、「子供を危険な目に遭わせた」という意味では自分の子供との関係では加害者であると評価されるケースもあり、その場合には加害者として損害賠償責任を負うことも考えられます。

 

Dr.F そうなんですね!「危険な大会に子供を出す」、「危険な練習をさせる」ということは、親も法的にも加害者となりえる場合もあるわけですね!親は子供の安全を守る立場だと僕も思いますので、子供に習わせる保護者側にも医学的にも法的にも正しい判断が求められますね。

 

(3へ続く)

 

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https://societyoffightingmedicine.hatenadiary.com/entry/2019/08/10/182501

 

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格闘技医学(秀和システム

https://www.amazon.co.jp/Dr-F%E3%81%AE%E6%A0%BC%E9%97%98%E6%8A%80%E5%8C%BB%E5%AD%A6-%E4%BA%8C%E9%87%8D%E4%BD%9C-%E6%8B%93%E4%B9%9F/dp/4798046515

 

弁護士とドクター対談(1)~医学と、法と、スポーツと~

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・法と医学の専門家、集う!

生涯スポーツとして実践する社会派・加藤英男弁護士にとっての格闘技とは?

・スポーツ専門の法律家・岩熊豊和弁護士の活動とは?

・全てに通じる上級のこつ、とは?

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医学と、法と、スポーツと

――Dr.Fの同志的存在であり、法律や問題解決の専門家、加藤英男弁護士、岩熊豊和弁護士をお迎えしての座談会です。スポーツ、格闘技・武道についての問題意識やその解決方法含め、有意義な対談になりそうで楽しみです。それでは自己紹介をお願いします。

 

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加藤 こんにちは。加藤英男です。私は、名古屋で開業する弁護士で、50代半ば過ぎですが、趣味は格闘技です。仕事は、民事事件全般を扱いますが主に労働関係事件に力を入れています。スポーツに関しては、学生時代に2年間フルコン空手道場に通いまして、その後、遠ざかっていたのですが、数年前から、また道場に通っています。空手再開後2年ほどして、試合で思うように結果を出せず、知人から誘われた「格闘技の東海祭り」で二重作先生にご指導を頂き、その後、格闘技医学のファンです。どうぞよろしくお願いします。

 

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岩熊 こんにちは。岩熊豊和と申します。福岡県で弁護士をしています。私は小学校入学と同時に野球を始め、高校時代は甲子園を目指していました(残念ながら出場できませんでしたが)。平成12年10月に弁護士登録した後、福岡県弁護士会の野球チーム「球団福岡」に入部しました。現在は同チームでキャプテンを務めています。仕事面では主に民事事件を担当していますが、スポーツ界で発生している様々な問題に関しての相談に対応しています。二重作先生とは高校の同級生であり、高校卒業後も予備校で一緒に勉強した間柄です。よろしくお願いいたします。

 

Dr.F 先生方、よろしくお願いします。まず、加藤先生におかれましては、カラテを志されながらも「社会的な強さとは何か?」というところで現在弱者の味方として活動されている、というところに特に魅力を感じています。ライトなスパーリングでしたが出逢ったその日に殴り合ったのも印象深いです!

 

―――医師と弁護士をつないだのも格闘技であった、と。

 

Dr.F 加藤先生のお人柄がスパーを通じて自分の中に入ってきましたね。同期の岩熊先生とは、15歳から知ってるので、今、先生と呼び合っているのが不思議な感覚です。僕たちの母校・東筑高校の野球部は、夏の甲子園に続き、春の選抜も出場を決めた強豪校です。僕らが高校時代、岩熊投手は当時、炎天下の中で肋骨負傷をしながらもマウンドで渾身の投球をされてました。その後予備校でも修行者として席を同じくするのですが(笑)、今も野球を大切にして専門職を全うされる様子を知り「流石、岩熊投手!」と応援席にいる気分ですね。

 

―――武道やスポーツという共通点があったのですね。お二人から見て、Dr.Fの格闘技医学はどのように映りますか?

 

岩熊 実は1~2年前に二重作先生が格闘技ドクターとしてご活躍されていることを知ったわけですが、一言でいうと「おもしろい!」という感想です。私が「格闘技」という言葉から連想するのは「怪我」であり、「ドクター」というからは「治療」です。この相反するはずの分野を1つにすることで「怪我をしない格闘技」を作り出そうとしているわけです。最初は「どういうこと?」と思っていましたが、今では「なるほど!」と勉強させてもらっています。

 

Dr.F ありがとうございます。自慢ですけど、負けた経験と怪我の経験は、結構あります(笑)そのままでは浮かばれないので、格闘技医学という形で発信しています(笑)この活動も、高校時代の経験も大きいんですよ!

 

文武両道、福岡県立東筑高校高校野球

 

岩熊 高校時代?わが母校東筑高校には空手部はなかったと思いますが、どのような経験ですか?

 

Dr.F 岩熊投手たち、メジャーな運動部の華々しい活躍が影響していました。格闘技ブーム以前って、カラテをやってる人ってマイナーだったんです。柔道部や剣道部はあっても空手部はなかったですし、たぶん今も独立した形では母校に空手部はないと思います。

 僕の場合、町道場だったので、野球部やラグビー部といった運動部の皆さんのように母校を代表してなかったんですね。さらに僕には球技センスが完全に欠落していたので、「羨ましいな、凄いな」って思ってました。母校を背負うのは10代にとって相当なプレッシャーだったと思いますが、岩熊先生は当時そのあたりはいかがでしたか?

 

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岩熊
入部した当初は自分のことで精一杯でしたね。それが背番号をもらってベンチ入りし、試合で投げるようになったりしてくると、段々と周りから期待されるようになりました。しかも応援部や吹奏楽部、同級生、先輩・後輩、そのご父兄と、その範囲はどんどん広がっていくわけで(笑) プレッシャーは徐々に大きくなりましたが、モチベーションも高くなっていいましたね。むしろ、個人の方がモチベーションを高く持ち続けるのは難しいと思いますが、どうでしたか?

 

Dr.F ベンチ入り、とか応援団と吹奏楽、という言葉を聞くと、「テレビ画面の中の世界」という感じですね。特に投手は、1球、1球、会場中も中継では視聴者も注目してますから、プレッシャー凄いはずですよ。

 僕の場合、試合中の蹴りなんてセコンドさえ見てくれてないですから(笑)そんな中で試合に出ると、「東筑に負けたらイカン」などの声が耳に入るんです。支部の代表で出てるのに「進学校に負けんな」みたいな完全アウェイ(笑)土地柄、パワーが有り余ってる若者が多く、ビーバップハイスクールみたいな髪型の連中には絶対負けない、がモチベーションのひとつでした(笑)

 

岩熊 たしかに(笑)ワイルドな土地柄ですよね。部活動とは違った形で、母校を背負っていたというわけですね。

 

Dr.F あははは、カッコよく言うとそうなりますが、過大評価です(笑)

 

苦労の節約

 

―――同級生ならではのご経験は面白いです。加藤先生は格闘技医学というジャンルをどのように捉えていらっしゃいますか?

 

加藤 格闘技医学についての、最初のイメージは、ずばり「苦労の節約」です。学生時代に空手を修行し、その後再びやるようになったのですが、壮年クラスの色帯大会ならば、せめて入賞はできるのではないかと軽く考えて出場したのですが、2回続けて初戦敗退でした。たまたま技量が高く、一回り若い相手だったということもありましたが、やはり悔しくて。彼らに勝ちたい、上達したい、しかも、早く。年齢を考えたら、先は長くありませんから。

 

 そんなことを、格闘技専門ショップのイサミ名古屋支店の店長にボヤいたところ、「このDVD、お勧めです!」と紹介されたのが、『Dr.Fシリーズ』。その場で二枚購入、観てみてびっくり!身体の使い方、効果的な打撃部位が明快に解説されていました。

 

 学生時代、ごく少数の優しい先輩がこっそり教えてくれるような、秘伝だったであろうコツ、早く上達したい私が欲しかった情報でした。その後、『格闘技の東海祭り』に行きませんかと他の道場の指導員から誘われ、DVDの人が来るなら、行かずにおれるか、と。

 

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岩熊 二重作先生がDVDの中の人、だったんですね。

 

Dr.F セコンドも蹴りを見てくれなかったのに(笑)

 

加藤 そうなんです(笑)そこで、上段蹴りのコツを直に伝授され、涙の股割り無しに、すぐにその場で学生時代に近い高さを蹴れました。「明快で再現性があること」、これが格闘技医学ですね。「即効性があること」も。おかげさまで上段を褒められるようになりました。コツというものは、作業の効率を上げてくれて求める成果を得られる期間を短縮させてくれるものですが、(1)即効性があり、(2)低コストで、(2)副作用がない三拍子揃ったコツが「上級のコツ」だそうです。

 格闘技医学は、まさにそれですね。科学の自然法則と医学の人体構造に基づいた明快な内容ですから、私がすぐに上段を蹴れるようになったように、誰にも、すぐ、簡単に、副作用なく、求める結果を再現させられる上級のコツです。最近は、交流会などで、子どもらの指導のアシスタントをすることがあるのですが、そこで、思うようになったのが、安心して子どもに教えられる格闘技、先程、岩熊先生がおっしゃった、「けがをしない格闘技」を教えられるのが格闘技医学、というイメージですね。

 

Dr.F  加藤先生、褒めすぎです(笑)ですが、ファイト&ライフの連載もそうですし、書籍やDVDを通じて、直接お会いできない皆さんの格闘技ライフに少し貢献できることは得難い喜びです。

 

(2へ続く)

https://societyoffightingmedicine.hatenadiary.com/entry/2019/08/30/211606

 

Dr.Fの格闘技医学(秀和システム

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https://www.amazon.co.jp/Dr-F%E3%81%AE%E6%A0%BC%E9%97%98%E6%8A%80%E5%8C%BB%E5%AD%A6-%E4%BA%8C%E9%87%8D%E4%BD%9C-%E6%8B%93%E4%B9%9F/dp/4798046515

危険すぎる! 格闘技・武道と血液感染

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・4つの代表的な血液感染症とは?
・検査で陰性なら安心か?
・ジムや道場での対応は?
・アルコール消毒は全く効かない!

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リンパ球に結合するHIV-1 (wikipediaより)


【最恐のウイルスたち】
地上最強の戦士でも、こいつに関わったら勝てません。名前をHIVウイルスといいます。名前は有名ですが、画像で見たことある人は案外少ないのではないでしょうか?このHIVウイルスはじめ、血液感染を起こすウイルスは、格闘家・武道家含めた人類が戦わなくてはならない「最恐の」対戦相手たちです。

 


感染症検査とタイムラグ】
 プロ格闘技などでは、試合を予定されていた選手が突然の出場取り止めになるケースが見受けられます。これらの理由は、練習で怪我をしたとか、家庭の問題で出場できなくなった、というケースだけではありません。情報が表に出てこないだけで、ウイルス感染が見つかったから出場停止になった、また突然の引退を余儀なくされた、という事例もあるのをご存じですか?


 プロ格闘技では、B型肝炎C型肝炎HIV、梅毒などの血液検査結果の提出が事前に義務づけられている団体があり、これらに引っかかると選手は出場できません。特に、肘での攻撃が認められているキックやムエタイはカットなどで出血のリスクが大きく、またオープンフィンガーグローブでの打撃が認められている総合格闘技なども、試合中に出血がみられます。血液を介して、ウイルスが感染するということは実際に起きていることであり、それを予防するために団体が感染検査を導入しているのです。


 しかし、全国にある格闘技団体すべてが採用しているというわけではなく、また外国人選手などが試合直前に来日した際、すべてデータが揃っているかどうかはわかりません。またウイルスに感染していたとして検査で陽性になるまでに約2か月を要します。本当は感染していても、感染から2か月未満であれば陰性として結果が出る、というわけですね。「うちの団体は検査をしてるから問題なし」とは言い切れない、ということになります。

 


【人として弱くなってしまう・・・】
 リングでの出血に対してリングの血液を拭いてすぐに次の試合に行く光景、リングサイドでタオルで出血部を拭いて首にかける光景を見たことがある方も多いと思います。試合会場の控室でも血液のついたティッシュが一般のゴミ箱に無造作に投げ込まれていたり、試合後の出血した選手がウロウロしたりしています。

 顔面パンチや肘が禁止のルールでも蹴りやアクシデントで出血が見られますし、アマチュア競技では出血への遭遇の機会が少ない分、血液感染症について正しい認識が広まっておらず、素手で血を拭いたりしています。

 いづれにせよ、血液感染という視点から見た場合、「非常に危険な状況」と言わざるを得ません。格闘技の試合で出血する、させる、返り血を浴びる、という行為は、ウイルス感染紙一重であることを認識しておいてほしいのです。

 痛みに耐え、苦しみを乗り越えて、頑張って頑張って、その結果、肝炎になった、エイズになった、ではそれこそシャレになりません。強くなるために格闘技の門を叩いたのに、病気になって人として弱くなってしまったら、、、何のために苦しい練習しているのかわからないでしょう?



【アルコール消毒は効かない】
 肝炎ウイルスは、非常に強くしぶといです。アルコール消毒???全く意味がありません。次亜塩素酸ナトリウム以外は効かないのです。これは医療の世界では常識ですが、一般的に認識されているとは言い難い状況です。さらにウイルスと細菌も全く違うものですが、それさえも混同されている方も多いようです。

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C型肝炎ウイルスのモデル図




 感染の問題は、一団体、一流派が取り組めば済む問題ではありません。いま、たくさんの格闘技興行や武道の大会が全国で開催されていますが、ある団体は検査が義務づけられているが、別の団体ではチェックが全くない、という状態ですから、試合や練習で選手が感染するリスクはゼロにはなりません。

 

 感染症がある選手は試合に出れない、という決まりがある団体やイベントがある、ということは、実質プロとして格闘技をやるには「感染がない、もしくは完治が証明されている」が必要です。格闘技・武道の選手は、できるだけ定期的に検査を受け、陽性であれば早期に治療する。また陰性であっても、感染しないように予防に取り組む必要があるのです。

 


【練習での血液感染】
 それでは、練習での血液感染はどうでしょうか? 道場やジムは、いろいろな方が出入りする場所であり、練習生や門下生全員に血液検査を実施するわけにはいきません。仮に実施できたとしても、ウイルス感染がある人間は、練習もする権利がないのか?という新たな問題が生まれてくることになります。感染がある人も、感染がない人も、感染が広まることなく共に練習できる環境をつくりあげていくしか現実は方法はないように思われます。


 ミットやバッグ、砂袋、巻き藁等に付着したウイルスは、なかなか死にません。数カ月生きるという報告もあります。HBVなどは、乾燥した環境のほうが長生きしますから、「天日で干す」という伝統の技も使えません。血だらけのサンドバッグや砂袋は、昔の格闘技的にはカッコいいかも知れませんが、極めて危険なので十分に気を付けてください。格闘技・武道の実践者を危険にさらしていることになりますし、感染すれば当然のことながら社会的責任が問われます。  


 それでは、血液感染のリスクを小さくするにはどうしたらいいのでしょうか?格闘技医学会の安全委員会が発信した対策マニュアルをご覧ください。

 


【道場・ジム内の血液感染対策マニュアル】
練習中、出血がおきたら、、、

1.指導者に出血を報告、練習ストップ

2.出血者に対して適切な処置を行う  
感染防止のグローブ(手袋)着用

厚手の清潔ガーゼで圧迫止血・ガーゼ保護   

受傷部位の安静   
↓  
血液付着物は特定のビニール袋に入れ2重に密封

3.血液が人体にかかった場合
・流水で洗い流し消毒、感染が疑われる場合は必ず医療機関を受診

4.マットやグローブ、衣類にかかった場合
・大量のペーパータオルで拭き、付着物はビニール袋で2重に密封
次亜塩素酸ナトリウムで消毒
・衣類は水で洗いハイターなどにつけ置きしてから洗濯


ーーーーーー
 練習中、出血が起きたら、まず指導者に出血を報告し、ただちに練習をストップします。もし出血者がウイルス感染者である場合、出血を放置して練習を続けると、どんどん拡がっていってしまう恐れがありますので、出血したら本人のためにも、相手のためにも、道場生のためにも、いったんストップして対応に当たりましょう。

 素手素足を身上とするカラテ家であっても、他人の血液を素手で触るのは極めて危険ですから、感染防止のビニール製グローブを着用しましょう。傷の止血、処置は清潔なガーゼを厚めに使用してください。血液が付着したものはすべて、専用のビニール袋に入れ、2重にしてください。

 人体に血液がかかった場合は流水で直ちに洗い流し、感染の恐れがある場合は医療機関を受診しましょう。マットやミット、バッグ、リングなど付着した血液は厚めのペーパータオルで拭き取り、次亜塩素酸ナトリウムで消毒しましょう。

 道着、キックパンツ、Tシャツ、サポーター類などに付着した血液は、水で十分洗い流したあと、次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)に浸け置きし、再度水で洗ってから洗濯します。めんどくさいからと、いきなり洗濯機に入れないように気をつけてください。

 

【肝炎、肝硬変と肝臓がん】

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左は正常の肝臓、右は肝硬変(イメージ図)

 B型肝炎は、ワクチンがあります。予防接種をしておくと、感染が予防できます。現役選手はもちろん、セコンド、レフリー、リングドクターなど、格闘技の関係者は、予防接種を受けておくのもおすすめの方法です。

 C型肝炎は、ワクチンはまだ実用化されていません。C型肝炎の恐ろしいところは、感染に気が付かないと慢性肝炎を起こしやすいことです。C型肝炎を放置しておくと「肝硬変」や「肝細胞がん(肝臓がん)」に移行する可能性があります。肝臓がんで死亡した人の7~8割がC型肝炎から進行した人です。C型肝炎ウイルスに感染してから、肝硬変や肝臓がんになるまでに約20~30年かかると言われていますが、早くから治療を行えば、肝硬変や肝臓がんを抑えることも可能です。

 今は、インターフェロンがかなりの効果を上げていますので、C型肝炎でも、早期発見できれば治る病気になりました。問題は、感染しても自覚症状が少ないため、自分が感染していることに気づかない人が多いことです。日本のHCV感染者数は約200万、世界では1億7千万(世界人口の3%近く)がキャリアであると見られています。こればかりは、血液検査でチェックするしかないのです。

 

 

【血液感染ゼロに向けて】
 格闘技・武道の選手は、ただでさえ普段の猛稽古で体力が落ち、免疫力も低下しています。その中で、できる予防策を実行し、感染リスクを遠ざけることが、パフォーマンスの維持・向上や安心につながります。怖い話も記しましたが、人と密接に接する格闘技や武道では、血液感染のリスクはどうしてもついて回ります。それに蓋をして見ない選択はできない時代、逆に「格闘技や武道だからこそ、予防も感染対策もスポーツ界の最先端を走ってる」、そういう風にしませんか?

 選手、指導者、審判、大会運営、組織運営、報道など、それぞれ立場は違っても、正しい知識とノウハウを共有し、協調しながらできることを実践していく。流派や考えが違っても、全体として同じ方向で進んでいくべきテーマだと考えています。

 

「格闘技・武道の試合や道場・ジムが血液感染の温床であってはならない」


 我々、格闘技医学会はそのように考えます。微力ながら、実践者が少しでも安心して格闘技武道に取り組めるよう感染対策および情報発信に積極的に取り組んで参ります。  (格闘技医学会代表 医師 Dr.F)

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格闘技・武道と内科的リスク(1) 高尿酸結晶と痛風

【格闘技・武道と内科的リスク】

  医学部で勉強を始めた時、いちばん驚いたというか、ショックだったのは、病気の種類のあまりの多さです。先天性の疾患、遺伝性のもの、生活習慣からくるもの……それまで自分が知らなかっただけで、数え切れないくらいあり、しかも新しい病気や病態は研究され増えていく一方です。たまたま、それらにならずに、それらをよけて(もしくはいまだにわからずに、かもしれませんが)、病気にならずに健康でいられる、というのは実は大変なことなんだな~というのが実感でした。

 

  格闘技・武道の競技はその特性上、身体を壊すリスクを必然的に内包します。打撲や骨折などの運動器の外傷や脳震盪といった症状が外から目に見えるものばかりではありません。長きにわたるハードなコンタクトで、身体の内部に影響が出るケースもあります。ここでは、競技との関連が考えられる内科的疾患を含めた身体内部の変化にフォーカスをあててみます。

 

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筋の破壊、減量、脱水、高タンパク食、、、格闘技者の生活習慣に注意

高尿酸血症痛風と合併症】

 「風が吹いただけでも痛い」というくらいの激痛が伴う痛風。 人間の身体は約37兆2000億個の細胞から成り立っていますが、細胞は壊れたりつくられたりと、新陳代謝を繰り返しています。それぞれの細胞の中に、細胞の核があり、細胞核核酸(DNA、RNA)と呼ばれる物質から構成されます。代謝により核酸が分解されると、プリン体が生じます。プリン体が尿酸に変わり、尿酸が高濃度に体内に蓄積されると高尿酸血漿を引き起こし、体のいたるところで結晶をつくります。尿酸の結晶は針のように鋭く尖っており、神経を刺すために最強の痛みが生じる、というわけです(昔は、足を切断していたほどの痛みです)。

    痛風の好発年齢は一般的には30代から50代と言われていますが、格闘技選手において、20代で高尿酸血症がある方、痛風が発症している例があります。また、格闘技医学会で現役選手の尿酸値を測定した結果、異常高値を示した例が数多くみられています。

 

   選手は、通常以上の筋肉量があり(細胞の量と代謝の頻度が多い)、多くのタンパク質やカロリーを摂取し(プリン体を摂取する量が多い)、脱水になるくらいの汗をかき(尿酸が濃くなりやすい)、全身の細胞を壊しまくる(外力や負荷による細胞の大量破壊が日常的)ライフスタイルです。壊れた細胞からプリン体が流出し、尿酸値が高くリスクが通常よりも高いのです。

 

   尿酸結晶が、血管や臓器に沈着して起きる合併症は非常に恐ろしいものばかりです。高尿酸血症、高タンパクは共に尿路結石のリスクが、血管にダメージを与えると脳梗塞心筋梗塞のリスクが上がります。腎臓に尿酸が蓄積して腎機能低下を起こすことがあります。生命にかかわる合併症が起きる前に、早期に対処すべき疾患です。痛風は、アルコールやプリン体の過剰摂取で起きる贅沢病、とのイメージがありますが、ハードなコンタクトスポーツや筋力トレーニングでも実際に起きています。これにアルコールや不摂生、引退後の体重増加等が加わると・・・・・高尿酸血症とその合併症リスクは何倍にもなる可能性があります。

 

   実際に、元有名選手が引退後、脳梗塞を発症しているケースがあります。また壮年で試合に出ている方がハードな練習後に痛風発作を起こす例もあります。競技生活がどのくらいパーセンテージで影響があったのかは、現在のところ追跡調査がないため明言できませんが、過酷なライフスタイルであることは間違いないでしょう。年齢にかかわらず、身体をぶっ壊す練習をしている方は、尿酸値に気を配ってください。もし異常値であれば、医師の診断の下に、正しい治療を受けていただきたいと思います

 

 

Dr.Fの格闘技医学(秀和システム)より

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ジュニアと心臓震盪(4) ≪心臓震盪が疑われる場合の対応フローチャート≫

・〇〇と△△をチェック!

・胸骨圧迫からスタート

フローチャートを常に携帯しよう!

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心臓震盪が疑われる場合の対応

【選手が倒れたときの対応】
 実際に、選手が現場で倒れたとしましょう。そのとき、まず意識と呼吸を確認してください。意識が無く、呼吸が無い、もしくは死戦期呼吸(苦しそうな呼吸)が見られる場合、心臓震盪を強く疑います。


 心臓震盪が疑われたら、まず2人の人に命令をします。ひとりには「119番で救急隊を呼んでください」もうひとりには「AEDを持ってきてください」と伝えます。同時に、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始めます。胸骨圧迫する部位は、ウルトラマンのカラータイマーの位置。両方の手のひらを重ねて1分間に100回以上行います。

 

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胸骨圧迫のポイント

 胸骨圧迫の深さは成人5センチ以上、小児5センチ、乳児4センチ。胸骨圧迫を行いながら、AEDと救急隊の到着を待ちます。AEDが到着したら、AEDのガイダンスに従って操作します。

 

 気道確保と人工呼吸は、2010年の改定で「訓練された救助者がその場にいる場合は行う」に変更されています。改定前は、まず気道確保、そして人工呼吸を行いながら心臓マッサージ、という流れでしたが、感染症の問題や手技の経験の問題が大きな壁となり、気道確保や人工呼吸の時点で時間ばかりが経過していました。肝心の胸骨圧迫に行きつかない現状があり、改定後は何よりも胸骨圧迫を優先し、血液の中に残っている酸素を脳に送ることを優先する流れになりました。(注:最新情報を必ずチェックしてください)

 

 脳自体には、酸素を蓄える機能がなく、低酸素の状態が4~5分以上続くと脳は不可逆的なダメージを負い、死に至る率が高まるといわれています。命を救うには、脳に血液を送り込み酸素を与えることが優先されるのです。「呼吸停止後、血液の中の酸素の濃度が十数分は変化しない」という医学的根拠や、「人工呼吸を施行した例と、人工呼吸を施行しなかった例で蘇生率にほとんど変化がない」という研究からも、胸骨圧迫をすぐに始めることが必須で2011年春に日本国内でも新ガイドラインに統一されました。

 

 「意識が無い、呼吸が無い(または異常な呼吸)状態なら、まずは胸骨圧迫からスタート」

 

これならできそうな気がしませんか? これはぜひとも覚えておいてください。

 

 また、海や川での合宿での水の事故や、子供に関しては、気道確保と人工呼吸を併用したほうが望ましいとされています。水の事故では血液中の溶存酸素が少ないこと、子供の場合は血液の量が少ない分、溶存酸素が相対的に少ないことが理由です。
 

 ですから指導者は胸骨圧迫、気道確保、人工呼吸、AED操作。指導者やセコンドなど責任ある立場の方は、最低でもこれらを冷静に遂行できるようにしておきましょう。
 

 最近は、保護者の方の関心が高まっており、格闘技医学の講習会に参加してくださる方が増えてきました。保護者の方の場合、わが子がこのような状況になると必ずパニックに陥りますので、他の子の場合に行うように道場の保護者間で相互補完できる状況をつくっておきましょう。

 

≪心臓震盪が疑われる場合の対応フローチャート

意識がない、呼吸がない(苦しそうな呼吸)

迅速に1人にAEDの準備を、別の1人に救急車の要請を指示

C胸骨圧迫をスタート(できる場合はA気道確保とB人工呼吸を行う)
(Cのみ)C胸骨圧迫は1分間に100回以上。深さは成人5センチ以上、小児5センチ。
(C+A+B)C30回+B2回。ただし、Cの中断時間は10秒以内。ペース、深さはCのみと同様。

AEDの到着と同時に、AEDを使用。C(C+A+B)を継続しながら救急隊の到着を待つ。

 

(5へ続く)

 

ジュニア格闘技・武道「安心安全」強化書より

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ジュニアと心臓震盪(3) 「見極め」よりも「疑い」

・時間との戦いが、生死の分かれ目

・試合や審査会での事前準備

・ルート確保とミーティング

・「見極め」はプロでも困難

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緊急時は時間との戦い。準備が生死を分ける。

【事前準備の重要性】
 格闘技や武道の大会で必ずやっておかなければならないのは、AEDの設置場所の事前確認と、救命救急処置スペース、搬送ルートの確保です。私も、チームドクターとしてのキャリアや選手としての経験だけでなく、カラテ全日本大会やジュニア大会の大会医師、リングスをはじめプロ総合格闘技大会でのリングドクターを経験させていただきましたが、会場に到着後、いちばんに最初に行うのは、現場の確認です。

 

・もし負傷者が出た場合、どこでどのように処置をするのがベストなのか。
・もし救急搬送をする場合、どのルートで救急車まで運び出すのか。
・その日はどこの病院が受け入れ態勢OKなのか。

 

 会場から最寄りの救急病院の連絡先やアクセスも可能な範囲で調べておきます。これらに加えて、カラテのアマチュア大会など、たくさんのコートで同時に試合が行われるような場合、各コートの審判団とAEDおよび救命グッズの場所の事前確認、会場のどこかでアクシデントが起きたときの場内アナウンスの方法(全体の試合をストップして対応すべきアクシデントと、全体はそのまま動きながら対応すべきアクシデントの場合に分けてアナウンス)などの打ち合わせ。


 あと、これはとても大切なのですが、会場側のスタッフとの連携です。アクシデントが起きてから「AEDはどこですか?」「救急車を呼んでいただけますか?」という状態では、無駄に時間ばかり経過してしまいます。

 

 そこで、早めに会場に入って、物品の位置や、アクシデント時の会場としてできる対応の範囲などを確認しつつコミュニケーションをはかっておくと動きやすくなります。大会や試合では、非常時に冷静に動けるように、事前にシュミレーションとイメージトレーニングを兼ねて準備しておくことが大切です。


 練習においても道場やジム内にも設置してあるのが望ましいですが、道場やジムにジュースの自動販売機を置ける場合は、AED搭載型を導入するというのも良い方法です。メーカーによっては無料で設置してくれるところもありますし、道場生の安全のために自動販売機を導入する、という名目であれば協力も得やすいでしょう。
 

 最近は、単発のイベントなどでしたら自治体が無料で貸してくれる場合もあるようです。大会、道場内試合や審査会の際に、そういう制度を利用されている道場も増えてきています。

 

 

【見極めよりも、疑い】
 格闘技や武道の現場で、KOされる、ボディーへの攻撃で倒れる、ということは日常的に起きます。しかも流れの中で瞬間的に起きることですから、「どの技でどうなったのか」、判別が難しい。ですから倒れた選手に心臓震盪が起きているか、それとも脳震盪など、他の原因で倒れているのかの原因を推測するのは我々医療のプロでも困難です。

 

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倒れた原因を追求する時間は1秒も無い

 

・顔面パンチなしのフルコンタクトカラテルールで反則の顔面パンチで強打され意識が飛んでいるところに、胸に膝蹴りをもらって倒れた。

 

・胸に打撃をもらい心臓震盪が起きた直後に、上段の膝蹴りが顔面にヒットし気を失ってKOされた。

 

 格闘技や武道の現場では、このように“倒れる”原因が重なりよくわからないケースにたびたび遭遇します。これが、「野球のボールが胸に当たって意識を失った」であれば、すぐに心臓震盪かも!と疑いやすいのですが……。


 これらの微妙なケースに遭遇した場合、「心臓震盪を疑う」というスタンスが必要になってきます。もしかしたら心臓震盪かも知れない、と疑ってかかり、AEDにて心電図の解析を待つというのが得策です。「今のダウンはなんだったのか?」見極めの方向で考えてしまうと、これまた時間ばかりが過ぎてしまい、どんどん致死的状況が近づいてしまいます。


 『「見極め」よりも、「疑って」かかる』

 

これが現場で求められるマインドです。

 

(4へ)

 

ジュニア格闘技・武道「安心安全」強化書より

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ジュニアと心臓震盪(2) パニック状態の中で正しい救命ができるか?

AEDとは?

・シェア数No.1のAED4コマ画像

・家族が泣き叫ぶ中で使える?

・講習は入口、ゴールは救命

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【強い味方、AED】
 AEDは正式名称をAutomated External Defibrillatorといい、日本語では自動体外式除細動器(じどうたいがいしきじょさいどうき)と訳されます。AEDが、空港や大きな駅、体育館、イベント会場、自動販売機などたくさんの人が集まるところに設置されています。最近では、救命救急の講習にAEDの取り扱いが組み込まれていますので、実際に使ったことのある方もいらっしゃるでしょう。

 

 2003年以前は、除細動器は医師しか使えなかったのですが、2003年には救命救急士が医師の指示なしに使用することが認められ、2004年からは一般市民も使用が可能になった、という経緯があります。これは、技術革新によるところが大きいといわれています。その技術革新とは、心室細動であるかどうかをAED自身が判定してくれる点にあります。心室細動と判定されたら、除細動開始の合図が出ますが、心室細動でなければ除細動は行われない仕組みになっています。AEDは、「心電図でモニターして診断を行い、除細動の必要性を判定する」という、医師が知識と技術と経験で行っていた部分を担ってくれる、かなり優れた救命の機器なのです。


 それまでは、心臓震盪や心室細動が病院外で起きたとき、心肺蘇生をしながら救急隊の到着を待つしか方法がありませんでした。119番で救急車を呼んで、現場の到着するまでの平均時間が約7分。心室細動は、時間の経過に伴いどんどん救命率が落ちていき、3分ほっておくと救命するのは極めて困難といわれています。
 AEDの登場と普及のおかげで、今まで助からなかった命が救えるようになった。これは、救命救急において革命的な出来事なのです。

 

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AED使い方マニュアル

【AEDの実際の使い方マニュアル】

1.まずAEDの電源を入れます。(電源ボタンを押す、フタを開けると自動的に電源が入る、などメーカーにより違いがある)

2.電極パッドを右胸部と、左の肋骨の下に貼り付けます。

3.心電図の読み取り・解析が開始されます。

4.解析の結果、除細動の適応の場合は音声ガイダンスにて電気ショックの指示がでます。「離れてください」と必ず声掛けをし、自分も含め、誰も対象者に触れていないことを確認してから電気ショックボタンを押してください。

 

施行後は、自動で、3の解析が再開されます。再度必要な場合は、また指示が出るので4の行程を繰り返します(除細動の適応がない場合は、電気ショックは行えないようになっています)。このように、機材の使い方としては難しいものではなく、一般の大人であれば使えるような仕組みです。

 

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AEDにが必要性をジャッジする


【格闘技・武道の現場で】
 AEDの機器自体の操作法は難しくありません。私も、スポーツ医学の講習会や格闘技のイベント、病院内での研修にて何度もAEDを操作していますし、医療の現場でも必要な患者様に除細動を行っていますが、操作自体はいたってシンプルです。AEDは音声ガイダンスがありますから、基本的にそれに従っていれば間違いはありません。


 しかしながら、実際の格闘技の現場で心臓震盪に正しく対応するのは、簡単ではありません。試合場でも、道場・ジム内でも、そこは救命救急講習会の場とは違い、整った環境ではありません。いきなり人の命に関わるわけですから、切迫感、緊張感、責任の重さがまったく違います。

 

 実際に、試合会場で心臓震盪が起こった現場にいた関係者の方に直接伺った話ですが、現場は完全にパニック状態だったそうです。倒れている本人は白目を向いて全身が硬直して動かない。親は泣き叫びながら子供の名前を呼び続ける。友人は「先生、○○君を助けてください」と泣きわめく。関係者は大会で死者が出るかもしれない状況にフリーズし右往左往する……。


「いくら講習を受けたとしても、このような一種の錯乱状態で冷静にやれる自信はまったくない」

 

「医学の素人がやれることはやろうとは思うけれど、実際にはやれない」

 

といった非常に重い言葉をいただきました。「AEDを取り扱えるようになることと、実際に現場でAEDを用いて冷静に救命活動を行えることは、別次元」であることを表しています。水着でプールで泳ぐのと、服を着たまま重たい荷物を背負って極寒、嵐の海に投げ出されるくらいの差はあると思っておいてください。
 

 心臓震盪が起きたら、命を救える可能性があるのはAED。これは、正しいし、これからもAEDの普及と使用は格闘技や武道に関わる指導者にとって、もはや必須となる流れは避けようがないでしょう。そこで

 

「AEDを設置しているからうちは大丈夫」

「うちの指導員はAEDの使用を含む救命救急講習を受けているから大丈夫」

 

というところで止まってはいけません。

 

「非常事態に冷静に、適切に対処し、救命できるスキルを身につける」

 

をゴールにしましょう。AEDの機械に関して、ひとつ注意していただきたいのは、メーカーによって若干の違いがあることです。スイッチの入れ方が異なったり、表示が異なったり。各メーカーが競合し価格を下げる、経済的な論理はよくわかりますが、指導者や保護者を対象とした格闘技医学の講習会で実際に複数のメーカーの機器を扱ったところ、それぞれの差異に戸惑う声が聞かれたのも事実です。

 一刻を争う現場で、普段取り扱いに慣れていない人が、「あれ、講習で使ったのと違う」と感じるのは、タイムラグの新たな要因にもなるでしょう。各所に置いてある消火器に取り扱いの違いがないように、AEDも行政がしっかり関与してなるべくシンプルに規格を統一する方向を期待します。

 

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(3)へ続く

 

ジュニア格闘技・武道「安心安全」強化書より

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https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%A2%E6%A0%BC%E9%97%98%E6%8A%80%E3%83%BB%E6%AD%A6%E9%81%93%E3%80%8C%E5%AE%89%E5%BF%83%E5%AE%89%E5%85%A8%E3%80%8D%E5%BC%B7%E5%8C%96%E6%9B%B8-%E4%BA%8C%E9%87%8D%E4%BD%9C-%E6%8B%93%E4%B9%9F/dp/4809410773