スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

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「障がい者スポーツ」の「障がい者」が外され、真の「スポーツ」となるために。 樋口 幸治氏インタビュー

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・スポーツ経験と内臓への影響とは?

・パラスポーツは正解の無い世界

・スポーツ障害が及ぼす心の傷

 ・ジュニアスポーツの主役は誰?

ーーーーーーーーーー

 

子供のカラテで目覚めた魂

 

 ーーーパラスポーツを中心に様々なスポーツ指導されている樋口さんが、これまでにご自身がプレイヤーとして経験された競技歴を教えて頂けますでしょうか。

樋口:競技歴は、学生時代に、陸上競技をマスターズ世代からフルコンタクトカラテを始め、数年前から、ブラジリアン柔術にも取り組む様になりました。学生時代の陸上競技は、「要領よく、試合でそこそこの成績をあげられないか」と常に考えていました。そのため成績は「そこそこ」でした(笑)

 フルコンタクトカラテは、子どもの小学校入学を機会に「礼儀正しく、身体も強く」と考え、自宅近くにできた道場に見学に行きました。その時、「お父さんも入会するなら、やる」との子どもの一言がきっかけでした。しかし、その魅力に取り憑かれ、試合にも定期的に出場し、二段を取得できました。

  また、数年前から、職場での健康増進にブラジリアン柔術のサークル活動を開始し、マスターズクラスでの試合出場など、好成績を得られ、最近、茶帯に昇帯しました。また、このサークルには、車いす視覚障害、切断など様々な障害の方も参加しています。

ーーーお子さんのために始めたカラテで二段になられて大会にも!そして柔術にも挑戦されているんですね。

樋口:そうなんです。しかし、その道は、悪循環の繰り返しでした。フルコンタクトカラテの大きな大会を目前に、突然、腰の激痛・左足の痺れ・脱力で歩けなくなり、腰椎椎間板ヘルニアと診断されました。幸いに手術には至りませんでしたが、1ヶ月ほど通常歩行ができない状態で、大会を断念し、その後も、怪我を繰り返す悪循環に陥ってしまいました。

 それでも、試合を目指して、いわゆる「根性と努力」で、稽古を行えるまでに回復しましたが、今度は、突然の急激な血圧上昇、めまい、倦怠感を自覚し、慌てて、内科を受診したんです。腎機能が低下し、専門医の治療を受ける一歩手前の状況でした。この状態が決定打で、打撃系格闘技は、試合で勝つことから指導者へと目標を変えざるを得ませんでした。この様になり、ようやく自分の無謀さに気づきました。

ーーーなるほど、ご自身の格闘技経験、そして怪我や内科的疾患のご経験を経て、指導の道に至るのですね。パラスポーツとの関わりはどのような経緯だったのですか?

樋口:パラスポーツとの関わりは、大学のゼミで学んでいたスポーツ医科学がきっかけでした。そのゼミの先生のアドバイスで、障害者スポーツセンターに通うようになり、障害者スポーツ医科学のエビデンスに基づく実践指導と研究を続けています。

 その実践は、パラリンピックを目指す選手のコンディショニングから運動やスポーツを通した健康づくりまで幅広く行っています。指導では、パラスポーツ全般を視野に入れ、高度な競技力を持つパラアスリートの強化やコンディショニング指導から地域でのスポーツ活動に取り組みました。パラスポーツは、2021年に東京パラリンピックパラリンピックが開催される予定ですので、多くの皆様に人間の能力の高さと素晴らしさを感じて欲しいと思います。


ーーーパラスポーツでも複数の種目に関わってこられたのですね。格闘技のほうの指導も並行しながら、でしょうか?

樋口:そうですね。格闘技での指導は、パラスポーツと並行して、フルコンタクトカラテを一般の子ども~大人まで、10年ほど指導しました。カラテ指導では、加盟していた流派や他流派の大きな大会で上位入賞を果たす選手やプロのリングで戦う選手の育成に関わることができました。その半面、格闘技の現場に多くの課題があることを痛感しました。

 現在は、自由参加のトレーニングクラスを開催し、参加している選手の目的や希望に合わせて、身体づくりや動きの改善、怪我のリハビリを行っています(コロナ状況下で、予防のため休講ですが・・・)。基本的には、自分の現状を把握できるようにシンプルな動きを使うことを心がけています。しかし、「押忍」の世界は、なかなか現状を表出してくれませんので、可能な限り一緒に身体を動かし、現状の疲労感や動きの特性を言葉に出し、参加選手の現状の表出を促しています。

 

パラ柔術確立への挑戦

 

―――なるほど、パラスポーツ指導、格闘技指導、リハビリ等多岐に渡る関わり方をされているのですね。


樋口:2年ほど前から、パラ柔術の指導にも挑戦しています。昨年(2019年)、スポーツ柔術連盟・全日本大会で、第一回パラ柔術全日本大会が開催され、当倶楽部の選手も参加し、好成績を収めました。

 パラ柔術の指導では、対象者の障害を事前に把握します。例えば、車いすを使用する脊髄損傷の選手は、損傷部以下の運動や感覚神経に麻痺があり、怪我をしても気づきません。そのために、危険を回避するため、滑りやすい柔らかいマットを準備します。このように障害特性に合わせた環境整備を行った上で、基本的な身体機能を確認し、できる動きを探す作業を行います。

 この作業は、毎回、試行錯誤を繰り返し、「これで良い」ということはなく、不安はありますが、不安があるから、調べ、学んでいます。また、参加者全員が、知識と経験を持ち寄って、形にしていく作業ができる環境でもあります。この分野の指導は、近隣の道場やセミナーなどにも参加しながら、また、積極的に情報公開し、選手や支援者を増やすことも指導の一環として実践しています。


―――不安があるから、調べ、学ぶ。いわゆる共通の正解がないだけに、チームでの試行錯誤なのですね。樋口さんがいままでスポーツに携わってきた中で、嬉しかった出来事はありますか?

 

樋口:障害が重いクラスの車いす100m選手のサポートが特に印象に残っていますね。障害特性を調べ、レース用車いすを改造し、数人の専門家の意見を取り入れてフォームを構築し、本人と議論しながらトレーニング方法をコツコツと作り上げ・・・そんな手探りの連続でした。その成果が、アジア・日本記録更新に繋がったときは、サポートスタッフ全員で、スタンディングオベーションをしました。

 

ーーー凄い!新記録を出されたんですね!

 

樋口:そうなんです。記録を出した選手はもちろんですが、スタッフが一丸となって、その記録を作り上げたことに、言葉では表しようのない幸せを感じました。

 格闘技では、子ども、大人、それぞれ成長や向上の速度は違うので、その過程で、それぞれの特徴を考えながら、時には、従来のセオリーを外れたトレーニングを試行してみました。その結果、大会で、ほとんど怪我も無く、表彰台に立つ選手を定期的に出せたことが嬉しかったです。

 また、パラ柔術では、「たくさんの人とスパーしてみたい」「全日本大会なんてできないかな~」など、選手たちの希望があったんですが、2019年に日本初のパラ柔術大会が開催され、「一本!」が出た瞬間に「すごい!」と会場から大きな拍手をいただき、それにこたえる選手の姿に感動しました。

 

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―――樋口さんの指導経験をお伺いしていると、選手自身のハードシップを共に乗り越える姿勢を感じます。ここまでフルコンタクトカラテ、柔術、パラスポーツ、パラ柔術と、いろんなスタンスで関わられてきて、指導体系の変遷というか、ターニングポイントのようなものはございましたか?


樋口:指導理念に繋がるようなターニングポイントは、数回ありました。

最初のターニングポイントは、大学の研究室から、パラスポーツの現場に出た時です。理論と実践のギャップを感じ、現場の経験が、私自身の視野の拡大に繋がりました。


 2つ目のポイントは、病院付属の研究所に派遣されて、医療〜福祉の現場を経験した時に、自分の考えの固さに気づかされ、生活に活かせる研究と指導が必要なことを痛感しました。20年以上前では、医療も福祉も模索状態で、スポーツ医科学より、経験則が全盛期の時代で、力不足を感じていました。

 

 3つ目のポイントは、格闘技で怪我を繰り返していた時に、格闘技医学に巡り合った時です。医学的根拠を現場で、ダイレクトに選手に還元する。しかも、リハビリから強化まで、選手と共に、実践する!これは、衝撃でした。

 

 ターニングポイントは、幸いにも関わる方々からの進む方向のアドバイスだと思っています。スポーツ安全指導推進機構の活動から、スポーツや格闘技の変革が起き、4つ目のターニングポイントが来ているとワクワクしています。

 

スポーツで障害を負った方々の気持ち

ーーー指導の在り方が経験と知識によって変化してきたんですね!スポーツは人の能力を開花させる素晴らしい身体文化であり、精神文化だと思うのですが、大変残念なことに、スポーツによる事故で命を失ったり、可能性が損なわれたり、という事例もまだまだあります。樋口さんのご視点からで構いません、実際、スポーツで障害を抱えた方やご家族はどんな想いで日常を過ごされているのでしょうか?

樋口:怪我をした本人は、受傷した状況によって障害受容が異なるようです。練習や試合など、様々な場面がありますが、多くがまずネガティブな心因反応を引き起こします。そこから治療やリハビリで「できる経験」をすることで徐々にポジティブに変化していきます。回復や改善と共に、心理状態も上向きになるような印象です。

 とはいえ、回復の可能性が低い損傷の場合は、「元の様に動きたい」と願われる方が多いようです。できること/できないことのバランスに加えて、痛みなどの合併症から、ポジティブとネガティブの心理状態がブランコの様にバランスを変えているような印象を受けます。例えば、リハビリの場面では、明るく積極的に見える方でも、「夜は、いろいろ考え、思い出すことが多く、眠剤をこっそりためて、一気に呑んでしまおうと思った」、つまりは(自ら人生を終わらせたいという考えがよぎった)というお話を伺ったこともあり、1日のうちでもかなり大きく変化しているようです。

 

―――そうでしたか・・・。精神的に元気に見える方でも、そこまで追い詰められてしまうんですね・・・。

 

樋口:ご家族は、やはり自責の念にかられる方が多いような印象を受けます。「なぜ、受傷してしまったのか?」「どうして防げなかったのか?」など、その心の傷は、大きく、深いものだと感じています。治療が進み、リハが始まる頃から、ご本人の回復を見ることで、ポジティブ要因に変化し、より一層のサポートに努めるご家族が多いと思います。例えば、パラスポーツも、そのきっかけのひとつになります。とはいえ、漠然とした将来への不安は簡単に消えないと思いますが・・・。

 

ジュニア不在の英才教育?


ーーーご本人の無念さはもちろん、スポーツ事故の犠牲者でもあるご家族が自責の念に駆られる、というお話は胸が痛みます。現場の指導者、医療者、そしてあらゆるスポーツ関係者は、そのような想いをされている方々の存在を忘れてはならないように思います。現在、ジュニアスポーツの行き過ぎた大会主義、結果主義が問題になっていますが、これについてはどのようにお考えですか?

樋口:フルコンタクトカラテの指導では、ジュニア大会にも帯同していましたが、多くの大会で、子どもよりも大人のほうが俄然盛り上がっていたのが印象的です。もちろん良い成績を得て、喜んでいる子どももいることは事実です。しかし、大会の主人公は、子どもではありませんでした。子どもは、ゴールデンエイジと呼ばれる時期を含め、身体の発育・発達過程は、はっきり示され、どの時期に、何をすべきか明確にされています。個人差を吟味して丁寧に指導できれば、成人を迎えて、素晴らしい選手に育つのではないしょうか。

 現状では、「英才教育」という言葉のもとに、早い時期から、競技に向かわせ、身も心も削っている子どもが多いと思います。場合によっては、子どもたちが、日常生活に支障をきたす状態を一生背負っていかなければならないことも起こっています。
 一人ひとりの心身の発達を指導者や大人が、ゆっくり待ち、子どもたちの発想と可能性を引き出せる環境を整備することが必要と考えています。大人の環境で、子ども同士が、削り合う大会主義は、改善しなければならないのではないでしょうか?


ーーー「大会の主人公は、子どもではありませんでした。」この言葉はとても重く感じました。やはり本人だけでなく家族の考えが強く影響することを考えれば、正しい知識の啓蒙は指導者と生徒だけでなく、そのご家族にも必要であると感じました。安全面含め、まだまだ問題が山積している現状ですが、樋口さんのような意識の高い指導者が現場にいらっしゃるのは希望だと思います。ぜひ今後のビジョンをお知らせください。


樋口:私が目指している理想は、いたってシンプルで、「障がい者スポーツ」の「障がい者」が外され、「スポーツ」になること、そして、大人から子どもまで「だれでも安全に楽しめるスポーツ・格闘技」へと進むことです。そのためにも、スポーツや格闘技による事故や障害を未然に防ぐための活動を浸透させることが役割になればと考えています。

ーーーこれからのスポーツ界にとって意義深いお話をありがとうございました。これからの現場の景色を多くのアスリートにお伝えください。

樋口:スポーツ安全推進機構での提言や活動が、スポーツ・格闘技関係者に認識され、だれでも知っていること、だれでも実践している「常識」へとなり、その結果、アスリートの皆さん全てが、安心して自分の能力を発揮できる環境「ライフ・ファースト」になると考えています。そして、アスリートの皆さんは、心から「スポーツは最高!」と言える環境に期待してください。この様な素晴らしい機会をありがとうございます。理念を大切にしっかりと実践していきます。

 

 

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スポーツ安全指導推進機構

パラスポーツ&ライフ・リーダー
樋口 幸治 

twitter.com

【格闘技・武道と法的根拠 弁護士・加藤英男先生】

【格闘技・武道と法的根拠 弁護士・加藤英男先生】 

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 格闘技・武道は「危険」であるけど「楽しい」し「生きる力」にもなるし「人生の型」でもある素晴らしい競技です。しかし指導者・運営側に回ったら、そもそも「格闘技自体が危険であること」を出発点にして考えた方がよいと思います。

 

 格闘技は、相手の生命を奪い、身体に重要な障害を残すかも知れない競技です。指導者・運営側は、相手の生命を奪い、身体に重要な障害を残すという結果が有り得べきことと予見し、予見した結果を回避する措置をとる義務が課せられます。

 

 うっかり予見しなかった場合、予見したのに回避する措置をとらなかった場合、指導者・運営側は、民事・刑事の責任を問われます。

 

「いや、お互い同意していればいいでしょう。」

 

いいえ、同意は全てではありません。同意で処分(捨て去る)ことができる権利・利益でなければ有効になりません。

 

まず、生命ですが、

 

①公然と『生命を賭けて』闘うことは決闘罪として違法な犯罪であるとされています。

②自分は死んでもいい、相手もそう思っているから相手が死んでもかまわないと思って『無理な闘い』をすることも違法です。

 

②については、「死ぬことを同意した相手を死なせること」は同意殺人罪という罪になります。

②について、もう1つ、「自殺関与罪」が存在することから「自殺」すること、生命を処分(捨て去る)ことは違法です。

 

前にある地方の大会で、「試合の結果死んでも運営、相手選手に異議を唱えません」という「同意書」を書かされたことがありますが、有効な同意にはなり得ません。

 

次に、身体に重要な障害を残すという結果も、同意をもって民事・刑事の責任を免除され得るとはいえないと思います。重篤健康被害は処分できない権利・利益である、と裁判所に判断される可能性が大きいと思われます。同意が無効であれば、運営側には結果予見義務と結果回避義務が生じ、適切な措置を執ることが求められます。

 

 危険な結果を生む行為(作為・不作為)についての医学・科学情報で一般に流布されているものは運営側も承知し、予見して/行ってしかるべきとされます。指導者・運営側が、これら「しかるべき」とされたことができていないと、生じた結果に対して、民事・刑事の責任を問われます。

 

格闘技を実践する上で、

(1)危険な結果を生む行為(作為・不作為)、
(2)危険な結果を回避する行動(作為・不作為)、

 

についての、生命・健康の安全確保のための医学・科学情報で一般に流布されているものを知っておくことは、実践者はもちろん運営側自身の身を守るためにも必須です。

 

 詳しい情報の共有・理解・実践をもって、不幸な結果を積極的に回避し、より安全で安心な格闘技・武道の活動が行える。そのような機運がより一層高まっていくことを心より願います。

 

スポーツ安全指導推進機構 アドバイザー
弁護士・加藤英男  

https://twitter.com/BengoshiKH

 

 

sportssafetyinstruction.jimdosite.com

 

格闘技の運動学  ~視機能と運動3 中心視、周辺視~

 【中心視と周辺視、2つのシステム】

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  視覚情報を脳に伝え、運動のスタートとなる「眼」。眼の構造上、2つのシステムが機能しています。視線上とその周囲の狭いエリアを視るのを中心視(中心視で見える範囲を中心視野)、視線上とその周囲のエリアを外れた広い範囲を視るのを周辺視(周辺視で見える範囲を周辺視野)と呼びますが、それぞれに特色があります。

 

 中心視は、色や形を識別するのが得意な部分であり、例えば相手の顔をマジマジと見つめる、虫眼鏡や顕微鏡を使って一点を凝視する、細かい手作業を行う際に対象を捉える、といった場合に威力を発揮します。中心視は、じっくり細かいものを視るのに適したシステムなのです。

 

 これに対し、周辺視というのは対象物をしっかり見るのではなく、周りを全体的にぼやっと見て、動きや位置を識別するのに適したシステムです。星空全体を眺めたり、自然景色をみたり、電車が近づいてくるのを確認したり、という作業は周辺視の得意技。格闘技や武道においても、視野の外から飛び込んでくる相手の攻撃や、相手の素早い動きを捉えるには、周辺視が非常に適しています。

 

試合で、このような経験はありませんか?

 

「右ローキックがヒットし、相手がガクッとなるくらい効いたのがわかった。その瞬間、蹴った部分ばかり見てカウンターのハイキックをもらってしまった。」

 

 「ボディーへのパンチを打ったら相手が効いたので、腹ばかり見てしまい上段膝蹴りでKOされた。」

 

 「グローブ着用で相手の顔面にパンチがヒットし、倒そうとするあまり、それ以降は相手の顔面以外全く見えなくなってしまった。」

 

 これらの状態の時、周辺視が上手く使えず、中心視の割合が増えてしまっている可能性があります。負けパターンに陥っているときは、相手の一部しか見えていない、相手しか眼中にない、というケースが非常に多いのです。試合の際、相手の顔を見ながらも全体を見ている選手は、周辺視で相手を捉えるため、カウンターやいろんな方向からくる技や相手の予想外の動きに対応しやすいのですが、中心視で一点しか見てない選手というのは、動きを捉えにくい分、相手の攻撃を貰うリスクも大きくなります。

 

 

【フォーカスとアングルの切り替え】

 試合に勝った時の記憶をたどると、不思議と全体が見えていたことに気がつきます。相手はもちろん、相手のセコンド陣や大会関係席の様子、審判の動き、客席の様子まで覚えていることもしばしばです。これは、周辺視を使っての視覚情報の入力が上手く行っている証拠です。視野が広くなっている。このような時は、頭も冷静ですし、試合の流れがつかめていたり、戦いの局面にしっかり対応できています。感覚入力しながら同時に出力している状態ですね。

 冷静でない状態を、「我を見失った」と表現することがあるように、熱くなってしまうと極端に視野が狭くなり近視眼的になってしまうのが人間です。ちなみに、負け試合でセコンドの声がほとんど聞こえなかった、というのもいわゆるいっぱいいっぱいの状態になってしまい、音声情報入力をシャットアウトしてしまって起こる現象です。情報入力のチャネルを全開にしながら、運動(出力)をすると感じながら動く状態になり不思議と疲れません。しかしながら、入力を一切遮断したまま出力だけしようとすると、すぐにスタミナを使い切って疲れて果ててしまいます。 入れながら出すのか、入れずに出すのか、で、苦しさが変わってくるから不思議です。

 

  私の所属するチームでは、セコンドと選手の打ち合わせとして選手が熱くなって視点が一点に集まり出すと、手をパンと叩いて音を出す合図をしてフォーカスを切り替えるように決めています。それで、相手の一部を見ていたところをカメラのアングルを切り替えるように、パーンと全体にフォーカスをチェンジする。マルチアングル化するわけです。さらに、試合でガンガン打ち合って視界が狭くなったときに、「目線」とか「視界」とかそういう言葉をつかった指示をセコンドが伝え、選手は切り替えを行うように準備しておきます。

 

  そうすると、「ああ、ここ空いてた」、「相手の動きが見える」という方向に傾きます。真正面からだと堅く見えたガードも、少し角度を変えてみると空いてるところが見えたりします。また、見えてる打撃は、もらってもKOにつながりにくい。倒されるときはたいてい、「見えていない打撃」です。フォーカスの切り替えで、自分の負けパターンに陥りそうになったときや、突破口が見いだせなかったとき、倒されそうな場面などからの脱出のきっかけをつくることができます。

 

 

【相手の目線をコントロール

  相手の眼の動きを観察してみましょう。2人組になって、人差し指でポイントをつくり、相手にはその一点に視点を合わせてもらいます。指を遠くから近づけたとき左右の目は中央に寄りますね。この動きを、内転といいます。次に、指を近くから遠くに離すパターンでは、眼は外側に離れる動きをします。これを外転といいます。

 

 対象物が近づいたときに両目が内転する反応を、輻輳反射(ふくそうはんしゃ)といいますが、遠い距離から一気に飛び込むと、相手選手の輻輳反射を引き出すことができます。この時、真ん中は見えやすくなりますが、外側は見えづらくなりますから、外からのハイキックやフックなどの攻撃のヒット率が高くなります。

 

 逆に、接近戦の距離から急に離れると、相手の眼は外転します。外側が見えやすくなりますので、急には離れた場合は前蹴りやボディーストレートなどのまっすぐ系統の技がヒットしやすくなります。

 

 

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対象が近づくと・・・

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両眼が内転する



 技の選択やコンビネーションの組み立てにおいて、「それが出しやすいから」「得意パターンだから」という理由で構成してしまっている選手は少なくありません。一方で、一流選手は「相手にとって対応しづらい選択や組み立て」を行います。相手の眼がどのように動くか、死角がどこに生じるか、しっかり観察してみるとそこに勝利へのヒントが見つかるでしょう。

 

(続く)

 

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格闘技医学 公式テキスト

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格闘技の運動学  ~視機能と運動2 動く相手をどう捉える?~

【視点と打撃の威力の関係 キック編】

次はこれを蹴りで実験してみましょう。

 

A:ミットの当たる表面に視点を固定して蹴るパターン。

B:ミットを蹴りこんだ先に視点を置いて蹴るパターン。

 

パンチと同様に、AとBを比較した場合、Bのほうが伝わる力が大きいことがわかると思います。またA→Bも実験してみましょう。人間の動きが視点に引っ張られる特性が強さにつながります。

 

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A 視点をミットにおいたキック

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B 視点をミットの先においたキック


 

【視点の置き方と前に出る力】

「ここは前に出ないと勝てない」「相手を下がらせる必要がある」「プレッシャーをかけて追いつめたい」格闘技・武道の試合で勝利へのキーポイントになるシチュエーションでも、「視点をどこに置くか」で、前に出る力が大きく変わってきます。

相手の胸に視点を置いてパンチを胸に連打する動きと、相手の胸より数センチ先、「パンチを打った結果、相手が少し下がるであろう場所」に視点を置いてパンチを打つ動きでは、同じ胸部への連打でも、受ける側の力が全く変わってきます。

  前に出る力が弱い選手は、多くの場合、相手の胸や腹など「A打つ場所」に視点をセッティングしてしまっています。ですが、実際にパンチや膝蹴りを出すことで、どういう状況をつくりだしたいかというと、「相手を後ろに下げたい」わけですね。そうすると実際に当たる場所ではなくて、「B相手が少し下がったと仮定したところ」に視点を置くのです。「今から行う動きの目的の方向」に視点を飛ばして動くというわけですね。この作業を加えることで、身体は視覚情報を元に、「次の瞬間どこにあればよいのか」を察知し、その通りに自らを運ぼうとします。

 

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AとBの違いを理解する

 このようにパンチや蹴りの動き自体は大きく手を加えずに視点の置き場所を変えるだけで、全く質の違う動きになります。受ける方のミットの圧力も全く変わってきますし、組み合い、差し合いのおいても、視点の置き方で発揮できる出力に変化が見られます。

体力や筋力の割には「圧力がないな」「前に出る力が弱いな」「さがって負けてしまう」という選手は、その原因を筋力だけに求めず、ぜひとも視点と動きの関係に着目して練習してみてください。

  視点を「次の瞬間そうなってほしいところ」に先におきつつ、動く。すると身体は素直にそれに合わせて運用されます。これは格闘技・武道のあらゆる動きにおいて共通する「使える公式」といってもいいでしょう。

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次の瞬間を捉えよう



 

【動く相手の捉え方】

動く相手をどうやって捉えるか、そのときの視機能の使い方について考えてみましょう。

  まずはミットが止まった状態で打ちます。ミットが止まった状態というのは視覚でも捉えやすいと思います。実際の試合でも相手が素早く動いている時はなかなか技がヒットしにくいですが、何かの拍子に相手が止まってしまった瞬間というのは非常に攻撃が当たりやすい。逆に、普段止まったミットやサンドバックばかり練習している選手は、「ミット打ち」「サンドバッグ打ち」は非常に上手になるのですが、実際に試合で動く相手に当たるかというとそれは全く問題になります。その理由は、「止まった対象物を視る機能」と、「動く対象物を視る機能」は、同じではないからです。練習の段階でもパートナーは、ミットを動かし、常に距離を変えていくという負荷が、上を目指す選手にとって重要になってきます。

 

動く相手を捉えるときにも、どこを視界に収めるがポイントになります。ミットを例にとりますと、ミットそのものを見てしまうと実はミットの動きは非常にわかりづらくなります。例えば相手の顎をパンチでとらえたいとして、相手の顎だけを見てしまうと、動いたことが認識しづらくなってしまいます。

 

 ここで動く相手をとらえる実験を行ってみましょう。

 

パートナーはミットを持って、選手に向かって構えてください。ミットを前後にゆっくり微妙に動かして、選手はミットが前に来たと思ったら、「前に来た」と言ってください。選手は、視点の次のAパターンとBパターンに分けて行います。

 

A:ミットに視点を合わせた場合

B:ミットと共に後ろの背景も見た場合

 

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A ミットに視点を合わせた場合

 

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B:ミットと共に後ろの背景も見た場合

 いかがでしょうか?AよりもBのほうが、わずかな動きをとらえやすくなるのが実感できると思います。Aはミットしか見えていないため、像の大きさの変化に気がつきにくいです。いわば1点を凝視している状態ですね。Bは、後ろの背景という不動の情報がベースにあるためミットの像の大きさの変化が非常にわかりやすい。これは、背景を視野に収めることにより、背景と対象物の距離の「差」で「動き」を捉えるからです。

 

真っ白の紙の上にある点が移動するのと、縦と横に罫線が引いてある紙の上にある点が移動するのでは、後者のほうが移動していることが解りやすい、この原理と同じです。野球などでボールを捕るときに、「よくボールを見て!」という声をかけられますが、運動音痴だった私は、その声を聞くたびにしっかりボールだけを見てしまい、結局エラーしてチームメイトの冷たい視線を一身に集める、という悲しき思い出がたくさんあります(涙)。ボールとその背景の景色を一緒に見るようにすれば、ボールの動く先も予測しやすかったはずです。

 

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大切なのは「背景を捉える」こと

 

動く相手を捉えたいときは、相手だけでなく、後ろの背景も情報として入力することによって非常に捉えやすくなるわけです。「相手をよく視て」と「相手と背景をよく視て」は似ているけれど違うアドバイス、というわけですね。

 

(続く)

 

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格闘技医学 公式テキスト

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格闘技の運動学  ~視機能と運動1 ゴールの瞬間移動とは?~

格闘技の運動学  ~視機能と運動~

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【身体はどこから動く?】

格闘技の動きにおいて、身体は一体どこから動くでしょうか?

パンチを出すとき、蹴りを出すとき、タックルに入るとき、いろんな部位が動きますが、最初に動くのはどこか、そこから格闘技の運動学をスタートしたいと思います。

 例えばパンチを打つ際、視覚で情報を入力しなければ、対象に対して攻撃することができません。相手の動きを見るのも、距離をはかるのも、ガードの位置を把握するのも、実はこの視覚に頼っています。人間は80パーセントの情報をほぼ視覚に頼っていると言われており、眼球が動き、瞳孔が動き、視覚情報を入力して相手を脳で認知して初めて、効果的に蹴れる、打てる、投げられる。逆に目を完全につぶってしまった状態ですと相手がどこにいるか正確にわからないし、自分の行う運動を脳内で想起することができません。

かつて、盲目の柔道家の方と乱捕りをさせていただいたことがあるのですが、その場合も、やはり組んでからのスタートでした。組んでからの視覚に頼らない動きはそれこそ驚異的。私は、バンバン投げられ、完全に抑え込まれました。それこそ、「見えていないのが不思議なくらい」の強さでしたが、それでも視覚が効果的に使えない場合、接触して初めて戦いが成り立つのです。

格闘技の動きにおいて最初に動くのは眼である以上、戦いにおける眼の機能を獲得することはパフォーマンスアップに確実につながります。普段なかなか意識しにくい部分ですが、運動を理解する上で非常に大切な器官です。

 

 

 【強い人の眼】

 一流選手は眼の使い方が非常に巧みです。打つ場所を集中的に見るだけではなく、いろんなポイントを視野に入れ、多角的に情報を取り入れて瞬時に動くことができます。例えば、カウンターを取るのが得意な選手は、いろんなポジションをとって相手の情報を引き出しながら自分にとって有利な視覚情報を集めておいて、カウンターを合わせます。フェイントからのハイキックが得意な選手は、わざと目線を下げておいて、相手の注意を下に引きつけておいて突然ハイキックをヒットさせる、といった技術が非常に優れています。

 

 逆に負けるときは、「興奮して相手の顔しか見ていなかった」というような一種の視野狭窄状態に陥ることがあります。格闘技において、視点を上手にコントロールすることが技の威力につながったり、視野の切り替えが試合展開を左右することがあったりと、勝ち負けにも非常に重要な要素となってきます。普段の生活でも、「駅のホームの向こう側の人と目があった」とか、「誰かの目線を感じる」など、人間は視られることに対して、非常に敏感な生き物。視機能を向上させることは、強さに直結します。

 

【視点と打撃の威力の関係 パンチ編】

 さて、ここで実験をしてみましょう。2人組となり、パートナーはミットを構えます。選手は、パートナーに向かってミットにストレートパンチを打っていきますが、最初はミットの当たる部分を見て打ちます(A)。次に、ミットよりも先に視点を置いてパンチを打ちます(B)。AとB、動きは基本的に同じままで、ただ視点を置く場所だけ変えてやってみましょう。

 

まずはAです。

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A 視点はミット上(正面)

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A 視点はミット上(側面)

 

続いてB

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B 視点はミットの先(正面)

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B 視点はミットの先(側面)

 AとBで、ミットに受ける衝撃の大きさは変わります(A<B)。ミット相手に向けると、選手はそのミットの打つ場所だけを見て打ってしまうことがあります。ミットの表面を見て打つとパンチ動きはミットの表面で止まってしまいます。そうではなくて“動きの目指すゴール”であるBに目線を先においてから動く。そうすると、身体全体も「その位置まで動こう」という風に変わるんですね。人間の身体にもともと備わっている、定めた視点に向かって身体を運用する特性を生かすわけです。

 

  サッカー選手がシュートの時、ゴールネットを突き破るつもりでネット先に視点を置いて蹴ると鋭いシュートになる。ピッチャーが剛速球を投げるときも、キャッチャーに照準を合わせるのではなく、キャッチャーの後ろのバックネットめがけて投げると球威が増す。 これらと原理的は同じなのですが、対人競技である格闘技の場合、ゴールやキャッチャーと違って相手選手も動くので、どうしても相手の顔面なら顔面、腹なら腹、という表面を追うので精いっぱいになりがちです。そこからわずか数センチ先を見ることができるかどうか?これが大きな差になってきます。

 

 視点による威力の違いを理解したら、ぜひAを視て、次の瞬間に視点をBに移動させる、という技術も試してみてください。

 

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ゴールを瞬間移動させる

 

 A→Bのわずかな動きの中で、眼球運動にかかわる筋群はもちろん、瞳孔や眼の周りの筋群、顔面の筋群も動きます。人間が何か目標物に手を伸ばす際のスピードは、「ゆっくり→速く→ゆっくり」の過程を必ず経ます。

 

 動かし始めは遅く、加速に従ってスピードは速くなり、届くときには拮抗筋群が収縮してブレーキがかかるため遅くなる、というわけです。パンチや蹴り、タックルが当たる場所を「ゴール」として動いた場合、最後のフェーズで「ゆっくり」が出現してしまいますから、それを防止する意味でも、「ゴールを瞬間移動させるテクニック」は、最速スピードを保ったまま技を振り抜くのにとても役立ちます。(後述のKOの解剖学でもこの最速スピードを生み出すテクニックは応用可能です)

 

 技のフォームや動きを見直す際には、「視点はベストな位置にあるかどうか」チェックしてみてください。そして「視点の瞬間移動」も意識して行ってみてください。適切な眼の使い方が見つかれば、その後の動きに変化が現れます。

 

(続く)

 

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格闘技医学 オフィシャルテキスト

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格闘技医学 Dr.F Twitter

https://twitter.com/takuyafutaesaku

 

格闘技医学 はじめに

 

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 人は、どんなときに「強くなりたい」と思うのでしょうか?

 いろんな答えがあると思いますが、「今の自分を超えたい」と思った時ではないかと、私は思います。自分のサイズで思いつく解決法では解決出来ないことがなんとなくわかっているから、今の自分のサイズを超えることで、より確かな解決が実現するのでは無いだろうか?そんな現状認識と、強くなった自分への期待感が「強さ」を求める心の正体だったような気がします。

 

 そもそも格闘技や武道は、人間が創り出したものです。もし、人間に「強くなりたい」という根源的な欲求が存在しなければ、格闘技や武道はなかったはずです。格闘技や武道は、最初から強い人のためのものではない。少しでも強くなりたい人、強く生きたい人のものなのです。

 

 本書のタイトルは格闘技医学です。人を倒す術である格闘技と人を助ける術である医学。一見、正反対にみえる概念がひとつになっているように思えますが、格闘技は自分が強く生きるための道であり、医学は人類が強く生きるための道でもあります。格闘技と医学は対立する概念ではなく、真の強さを求める人たちにとっては不可分なものなのです。

 

 なぜなら格闘技は対人の中で体験的に人間を知る作業であり、医学もまた人間を対象として深く探求する学問だからです。本書では、強さを追求する際に、手がかりとなるであろう客観的な事実や科学的な原理を記しました。格闘技や武道を行うのは人間であり、対象も人間です。であれば、人間の身体と心を学ぶ作業は、必ず強さとリンクするはずです。

 

 一流選手や伝説の格闘家はどうやってその強さをつくって来たのか?そのエッセンスを科学的・医学的根拠と共に追求したのが「格闘技の運動学」です。どんなに努力しても、人は他人にはなれません。あなたは、あなただし、私は私。憧れの人に近づくことはできても、その人にはなれません。しかしながら、凄い人や憧れの人の動きの中にある「法則」や「決まりごと」「原理原則」をインストールすることはできるし、他人になるのではなく、自分のものとし、自分の中に生かすことは出来る。その考え方を示しました。

 

 格闘技は、自分と相手の関係性です。自分にとっての得意技が、相手にとって嫌な技なら有利に働きますが、相手にとって「待ってました!」な技かも知れません。KOの解剖学の章では、格闘技のハイライト、KOにスポットをあてました。一見、偶発的に思えるKOですが、その発生頻度や再現性を高めることは可能です。「なぜ倒れるか」を根本から(解剖学から)理解すれば、倒す方法は自由に、無限に構築出来ます。正しい知識と理解は、拡がりを生むからです。相手を感じ、自分をコントロールしながら関係性を瞬時に更新していく、格闘技の面白さに迫ります。

 

 強くなりたい、と思ってはじめたはずなのに、いつの間にかケガや障害と戦っている選手や元選手がたくさんいます。強さの追求の結果、不健康になり、人間として弱くなってしまう現実。そんなのはおかしいはずなのに、怪我や不健康が強さの証であるとする風潮にも、医師として違和感を覚えます。修復不可能な怪我をしてから「健康なヤツが強い」ことに気がついても手遅れです。選手生命を守る、の章では、格闘技が必然的に内包するリスクに光をあて、そのリスクを最小限にするヒントを記しました。格闘技で見せるのは生き様であって、死に様であってはなりません。格闘技ドクターからの提言です。

 

 「格闘技医学」という新しいジャンルは、まだ生まれたばかりです。実際に、私自身わからないことだらけですし、知れば知るほど、知らないことが増えていくような気がしています。格闘技医学には、長い歴史も、誇れる伝統も何ひとつありませんが、代わりに、まだ見ぬ可能性に満ち溢れています。本書に記載されている内容は、ほんの一例、あくまでヒントに過ぎず、強さの答えは皆さんの身体と心の中に発見されるものと信じております。

 

 このたび、格闘技医学の書を世に出すために尽力してくださったすべての皆様の心から感謝申し上げます。本書を手に取ってくださった皆様、ひとりひとりの強さにほんの1ミリだけ貢献できたら。それこそが、私にとってこの上ない喜びです。

 

                  格闘技ドクター  二重作 拓也

 

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格闘技・武道インフルエンザ予防と対策2020

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戦う相手は、目に見えない。

【格闘技・武道のインフルエンザ予防と対策2020 試合会場編】
 手洗い、うがいを励行する、マスクを着用する、予防接種を受ける、といった基本的予防策はもちろん、試合会場特有の事情を考慮した対策が必要です。特にハイリスクなのが、観客席、会場入口、トイレ、売店、選手控室などひとの往来が多い場所。選手のみなさんは、極力さけるように気をつけてください。

 

・控室とは別にウォーミングアップスペースをチームで確保する。

・会場入りの時間を少しずらす。

・チームでアルコール消毒スプレーを用意しておく。

ティッシュやペーパータオルを棄てるゴミ袋を統一する(あちらこちらに棄てない)。

・水や食料はあらかじめ多めに買っておく。

・ウォーミングアップ用のミットやビッグミットは、使用者が代わる際にはアルコールをかけてペーパータオルで拭く。

・観客やチーム以外のメンバーとの連絡はスマホ、メッセージ等で行う。

・試合後は呼吸も激しくなるのですぐに人の少ない場所に退避する。

・シャツやタオルを普段より多めに持っていく、汗をかいたらすぐに着替える。

・暖房などで乾燥している場合、濡れたタオルを準備して喉を守る。

 


【格闘技・武道インフルエンザ予防と対応2020 道場・ジム・生活編】

・道場・ジムに使い捨てマスク、ペーパータオル、消毒用アルコールを常備する。

・試合が近い選手は可能な限りマスク着用にて練習に参加する。

・練習前後、休憩時間には全員の手洗い、うがいを励行する。

・ミットやサンドバッグ、ドアノブ、スイッチなどの消毒にはアルコールとペーパータオルを使用する。

・室内の湿度を高く保つ。ただし転倒の危険に注意

・インフルエンザ罹患の可能性のある練習生は出席を禁止する。

・練習中、インフルエンザが疑われる練習生が見つかった場合、ただちに練習を全体としてストップし、保護者および家族に連絡。医療機関への受診を促す。

・練習生の家族内で発症があった場合、指導者と情報を共有する。

・インフルエンザ陽性者が出た場合、学校法に順じ「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」練習出席を停止する。

・主治医の許可を確認してから練習復帰を許可する。

・指導者がインフルエンザに罹患し、代行指導者がいない場合は道場を一時休止する。

・指導者は、医学知識と対応をアップデートし道場・ジム内で共有し徹底する。

・流行前の時期に、予防接種を行い重症化を予防する。

・流行時期に試合がある選手で抗インフルエンザ薬の予防投与を行う場合、医師と十分協議して行う。

・減量計画は通常より早めの開始とする。減量期は特に免疫力が低下し罹患・発症しやすくなるため栄養状態には気を配って行う。

・帰宅時にはまずシャワーを浴び、手洗い、うがいを行うこと。また生活空間の湿度を高めに保ち、換気も十分に行う。

・外出時のマスクは必ず着用し、極力、人混みを避けて移動する。


【一般的な予防マニュアル】
厚生労働省インフルエンザの更新情報をこまめにチェックする。

www.mhlw.go.jp

 

※上記はあくまでリスク軽減のための方法の例であり、

1)感染を完全に防ぐ手段ではないこと、

2)状況により対応に変化が出ること、

3)最新の研究結果により変わること、

4)自己責任で使用されること、

5)症状が出ない不顕性インフルエンザの存在も念頭におき、疑わしきは必ず医療機関に受診すること

6)一般的な予防対策を行った上で参考とすること

 以上を十分ご理解を願います。必ず厚生労働省発表の最新情報をご参照ください。

 

 

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https://www.amazon.co.jp/Dr-F%E3%81%AE%E6%A0%BC%E9%97%98%E6%8A%80%E5%8C%BB%E5%AD%A6-%E4%BA%8C%E9%87%8D%E4%BD%9C-%E6%8B%93%E4%B9%9F/dp/4798046515

 

 

格闘技医学会 安全管理委員会

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