スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

スポーツの安全情報、医学情報を発信。

GO三浦 崇宏×Dr.F 越境対談 その2 ~言葉の解像度~ 

f:id:societyoffightingmedicine:20210729163600j:plain



ビジネスの最前線と格闘技医学の景色が交錯する、越境対談パート2。アンディー・フグの代名詞、「カカト落とし」の解析から、ビジネス、そして運動学習、と話は一気に加速していきます! 

 GO三浦 崇宏×Dr.F 越境対談 その1 ~言葉を変えると思考が変わる~

こちら

ーーーーーーーーーーーー

f:id:societyoffightingmedicine:20210729113559j:plain

Dr.F (アンディ―・フグは)左でかかと落としをすると同じ方向だから右のローが蹴りやすい。それまでの選手は、左でハイを蹴って右でロー、つまり逆の動きをしないといけないから、ワンテンポ多くなってしまっていたんです。それだと1、2のテンポだったのが、フグは1、1.5のテンポでローにつないだ。カカト落としは相手にガードを上げさせてフリーズさせるのが目的だったんです。

 

三浦 チョー面白い!

 

Dr.F その後に正道の大会に出たときは、見事にかかと落としでKOしてるんです。YouTubeで検索したら出てくると思いますが、えげつないぐらいに頸部や顔面に当たってKOしてるんですね。ですから、十分倒せるだけのクオリティーの技なんだけども、次もしっかり準備してある、という。

 

三浦 メチャクチャ面白いですね!

 

Dr.F 逆に「かかと落とし」という言葉が出回ったら、今度はフォロワーが「かかとを落とす」ようになったので、アンディのカカト落としとは違う技になっている。技自体が変容してしまってるんです。

 

三浦 柔道でも「袖釣り込み腰」という技がありますけど、あれも選手によっては背負い投げのような形で、腰を使ってなかったりしますからね。

 

 

 

Dr.F おおお、そうなんですね!

 

三浦 いろいろありますよね。「体落としって、実は手技だよね」とか。言葉によって本質が明確になることもあれば、言葉によって体の動きが分散していくこともあるということですね。

 

Dr.F ほんとですね!三浦さんは「GOという会社は企業に対するドクターなんだ」「ウチは業者ではない」ということをおっしゃってましたよね。三浦さんは経営者として、またクリエイティブな人としての立ち位置を言葉として明確に表してるなという気がして。今、いろんな分野で「言葉のアップデート」が追いついてないように感じることがあるんです。フグの「かかと落とし」という技にしても、そういう名前なんだけど実は指先でひっかいてるんだよ、とか、「体落とし」は手技でもあるよ、という伝え方をした方が、ズバッと伝わるんじゃないかと思ったりするんですが・・・。

 

三浦 なるほど。抽象的すぎて、本質を捉え切れていないということですね。

 

Dr.F そうなんです。だから格闘技医学で、共通言語を持ち込むことで今ある言葉をアップデートしたらどうなるんだろうというのを、やっています。「こう打て」ではなく、「腕を●度の角度で回内させて打つ」「伸張反射を使う」といった感じのグローバルな共通言語で表すことが重要なんじゃないかと。

 

三浦 それはある意味、「格闘言語学」ですよね。体の動きを抽象化して、それを言語でアウトプットするときに、どれだけ言葉の解像度を高められるかということですね。

 

Dr.F 「言葉の解像度」、ですか!まさにそれです。言語化可能なところを突き詰めると「ここから先は分かりません」という境界も分かるはずです。かかとを落とす技だと思っちゃってたら、そこから先に進化できないから、言葉で可能性を閉ざすのは勿体ないと思うんです。

 

三浦 なるほど、本当にそうですね。ところで先生は、いつから格闘技が社会で役立つと思うようになったんですか?

 

Dr.F いつだろう……。選手のときはそんなこと考える余裕もないですからね。

 

三浦 選手としては、空手だけなんでしたっけ?

 

Dr.F 空手と、柔道の経験もあって。友人から「柔道部が潰れそうだから、二重作、1年だけやってくれない?」って頼まれまして。ものすごく勉強になりました。空手家と全然違う、柔道の視点をものすごく学びましたね。

 

三浦 柔道が空手に生きたことと、空手が柔道に生きたことを、それぞれ聞いていいですか?

 

Dr.F 柔道を練習すると、相手を見た瞬間に、バランスがどっちにあるかということを見て取れるようになるんです。柔道が空手に生きたのはそこですね。打撃だけだとあまりその感覚がないので、右でも左でも蹴りたいように蹴っちゃうんです。ローキックなんて思いきり体重が乗った側を蹴らないと効かないのに。

 

 だから肌感覚として、どっちに体重が乗ってるのかすぐに分かるようになったことは役立ちました。あと、空手とか打撃系は「点」の競技なんですけど、寝技とかで「面」の練習が生きるんです。「点」の練習ばかりだと、石垣が小さいお城みたいなもので、土台の強さが無いんです。空手は組み手争いに有利だった気がします。柔道は組んでから始まるけど、空手はその手前が勝負の距離なので。

 

三浦 面白いですね。僕も本当に、格闘技から仕事のことを学ぶ場面がすごく多いんですね。先ほどの「かかと落とし」、それ自体も一撃必殺の威力がある技なんだけど、実はその後のローキックを当てることの方が重要だというお話のようなことは、それこそビジネスにおいてもメチャクチャ重要なんです。テスラという会社がありますよね。あの会社は何で儲けてるか御存知ですか?

 

f:id:societyoffightingmedicine:20210729163947p:plain



Dr.F 考えたことないです(笑)。

 

三浦 テスラって、電気自動車の会社ですよね。世の中の人は、あの会社は電気自動車の売り上げで成り立っていると思ってるんですよ。その売り上げももちろんあるんですけど、彼らは電気自動車を作っていることによって、二酸化炭素の排出を減らしていますよね。

 他の自動車メーカーは、テスラにお金を払って「二酸化炭素を排出する権利」を買っているんです。あの会社の収益の半分は、その売り上げなんですね。だから彼らは、「消費者に電気自動車を売っている会社」と見せかけて、本当は「自動車メーカーに炭素排出権を売っている会社」なんです。

 

f:id:societyoffightingmedicine:20210729113803j:plain

Dr.F なるほどー!知らなかったです!

 

三浦 まさにこれがかかと落としとローキックの関係になっていて、見映えのする目の前の大きな商売の裏で、地道だけど儲かる商売をきちんと考えておくと、その会社は儲かりますよと。だから先ほど、かかと落としのお話を聞いて、ビジネスの構造にすごく近いなと思ったんです。

 

Dr.F すごすぎる!

 

三浦 僕が今、小さい会社を経営してそれなりにやらせてもらっているのは、格闘技を学んだことと、抽象化する能力のおかげなんです。この2つがどっちかだけだと、たぶんダメで。二重作先生もたぶんそうだと思いますが、目の前に起きている現象を一度構造化して、「この構造って、自分が今抱えている別の問題と同じだよな」と見抜く力が大事なんでしょうね。

 

Dr.F なるほどー!勉強になります!言われてみれば、僕も、こっちのことを抽象化して、違うところにもっていくと、かえってよく理解できたり、ということをやっている気がします。話がそれるかも知れませんが、これは僕も最近、調べていて分かったことなんですが、スポーツなんかは、「AをやってBをやってCをやる」という練習方法よりも、ABCをアトランダムにやる方が成長が早いという研究結果があるんです。

 

三浦 具体的にどういうことですか?

 

Dr.F 例えばテニスだと、短いサーブ、長いサーブ、中間距離のサーブと、3種類ありますよね。これを、まず短いサーブを練習して、つぎに長いサーブ、それから中間距離と順を追ってやっていくところが多いんですが、そうじゃなくて「短いの! 長いの! 短いの! 中間!」という風にアトランダムに並べてやっちゃった方が、実は成績がグンと伸びるんです。

 

 今、三浦さんがおっしゃったことがまさにそれで、違うところで培ったものを別の場所で生かすというのは、成長の本質なんだと思いますね。(続く)

 

 

f:id:societyoffightingmedicine:20210707170748j:plain

Dr. Fの格闘技医学[第2版] | 二重作拓也 |本 | 通販 | Amazon