スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

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強くなりたい! 

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強くなりたい!

 

 幼少の頃から病弱で、運動も全く苦手でした。走るのは遅い、ボールには遊ばれる。昼休みのサッカーでは、チーム分けジャンケンで不動の残り物ポジション。クラス対抗野球大会ではバッターボックスに立った瞬間、自軍チームから「あーあ」とため息が聞こえる(まだバット振ってないのに!敵も味方も、敵だった)。

 

 とにかく「僕のせいで負けた」になるのが怖くて怖くて、パスが廻ってきたらすぐにボールを味方の誰かに渡す。「ボールよ、僕のところに来ないでくれ!」と祈りながら、毎回とてつもなく長く感じられる時間を過ごしていたのです。

 

 身長も低く、体格もヒョロヒョロ、極度のスポーツ難民だった私が、ケンカだけ強いはずがありません。自分より強いジャイアンのような同級生にビビってしまう自分が情けなくて、弱い自分が嫌で、嫌いで。「今よりも少しでも強くなって、自分で自分を認められるようになりたい」そう願ってきました。

 

 そんな私が出逢ったのがカラテでした。練習すれば強くなれる。痛みも我慢も、強さに変わる。自分が負けても自分の責任、自分が勝てば周りのおかげ。師範も、先輩も、後輩も、家族もみんな喜んでくれる。とにかく自分が強くなれば、いろんなことが良い方向に向かうような気がしたのです。

 

 少年時代の私にとって、カラテは「救い」であり、「光」であり、「希望」でした。

 

 地元の道場に通い、練習の無い日は公園で自主トレ。暇さえあれば鏡に向かってシャドー、電灯のヒモにハイキック、信号待ちは電柱へのローキック、コーラの瓶で脛を叩いて鍛える日々。テスト前?受験?センター試験?国家試験?そんなの関係ない、もし今、練習をやめてしまえば、また弱くて惨めな自分に逆戻りしてしまう・・・。思い返せば、まるで強迫観念にも似た、ゴールのない渇望でした。どんなことがあっても、握った拳を手放したくなかったのです。

 

 いつしか、自分が強くなること、同時に、強くなりたい人をサポートすること。それが格闘技ドクターとしての活動の主軸になりました。練習生、ジュニア選手、一般選手、指導員、大学同好会主将、リングドクター、チームドクター、格闘技医学会主宰、指導者指導、情報発信者・・・様々な立ち位置を経験した上で、現在、このように思います。

 

「今の自分を超えることでしか辿り着けない場所がある。だから人間は強くなろうとするのだ」と。

 

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 本書「格闘技医学」は、強い人間が書いた本ではありません。いわゆる格闘技・武道・スポーツの書は「強い人として知られる人」「実績や功績のある有名人」がそのノウハウを公開する形で書かれますが、本書は「強くなりたい人(=弱い私)」が弱さの洪水に溺れながら問い続けた記録でもあります。

 

・あの人はなぜあんなに強いんだろう?

・外からは同じに見えるけど、中はどうなんだろう?

・KOしたとき、手応えがほとんどないのはなぜ?

・同じ練習量でも、上達のスピードが全然違うのはどうしてだろう?

・延長戦でも瞬発力が落ちないのは身体の使い方が違うんじゃないか?

・パンチドランカーを減らすにはどうすればいい?

 

 求めれば求めるほど浮かんでくる「?」に対して、医科学的視点による客観性、正しくやれば誰でもできる再現性、ジャンルやルールを超えて共有可能な共通性、この3つの視座を大切にしながら、強くなるための原理原則を記したつもりです。

 

2001年、WEB上で情報発信という小さな流れからスタートした格闘技医学は、2016年に書籍「格闘技医学」として発表され、おかげさまで重版を達成いたしました。

 

 何をやっても勝てない時期のトンネルの暗闇は、私も経験済みですので「格闘技医学を必要としている方々に届いた」ことが何よりも嬉しかったです。

 

 そして2021年、あらゆる運動の根源であり、最新の科学研究も集積された「脳と運動」(私がずっと書きたかったテーマでもあります)を含むコンテンツが新たに加わり、前作よりもバージョンアップした「格闘技医学」をここにお届けさせていただきます。

 

「もうこれ以上強くなれない」と限界を感じている皆さん、

「私には才能が無い」と可能性を疑っている皆さん、

「このやり方で本当に強くなれるのだろうか」と悩みの深淵にいる皆さん、

 

 もしよろしかったら、我々人間の『強さの根拠』に触れてみませんか?「急がば回れ」という諺がありますが、レントゲンやCTの中に「回り道ゆえの景色」があるかも知れません。

 

 本書の記述は、あくまでもヒントに過ぎません。ぜひ「書き込めるガイドブック」として捉えていただき、主役である「あなた自身の強さの創造」に生かしてみてください。

 

 心と身体を通じた『オリジナルの最適解』が次々と発見されると信じております。そしてもし、本書が皆様の「強くなる旅」の小さなお供になれるのでしたら、著者として望外の喜びです。

 

 救ってくれたカラテ、生きる力をくれた格闘技、導いてくれた医学への、心からのお礼として。

 

経験や知識は誰も奪うことができない  David Bowie

 

 

2021年6月  二重作 拓也

 

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格闘技医学 第2版より