スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

スポーツの安全情報、医学情報を発信。

格闘技の運動学  ~視機能と運動3 中心視、周辺視~

 【中心視と周辺視、2つのシステム】

f:id:societyoffightingmedicine:20200407161118j:plain

  視覚情報を脳に伝え、運動のスタートとなる「眼」。眼の構造上、2つのシステムが機能しています。視線上とその周囲の狭いエリアを視るのを中心視(中心視で見える範囲を中心視野)、視線上とその周囲のエリアを外れた広い範囲を視るのを周辺視(周辺視で見える範囲を周辺視野)と呼びますが、それぞれに特色があります。

 

 中心視は、色や形を識別するのが得意な部分であり、例えば相手の顔をマジマジと見つめる、虫眼鏡や顕微鏡を使って一点を凝視する、細かい手作業を行う際に対象を捉える、といった場合に威力を発揮します。中心視は、じっくり細かいものを視るのに適したシステムなのです。

 

 これに対し、周辺視というのは対象物をしっかり見るのではなく、周りを全体的にぼやっと見て、動きや位置を識別するのに適したシステムです。星空全体を眺めたり、自然景色をみたり、電車が近づいてくるのを確認したり、という作業は周辺視の得意技。格闘技や武道においても、視野の外から飛び込んでくる相手の攻撃や、相手の素早い動きを捉えるには、周辺視が非常に適しています。

 

試合で、このような経験はありませんか?

 

「右ローキックがヒットし、相手がガクッとなるくらい効いたのがわかった。その瞬間、蹴った部分ばかり見てカウンターのハイキックをもらってしまった。」

 

 「ボディーへのパンチを打ったら相手が効いたので、腹ばかり見てしまい上段膝蹴りでKOされた。」

 

 「グローブ着用で相手の顔面にパンチがヒットし、倒そうとするあまり、それ以降は相手の顔面以外全く見えなくなってしまった。」

 

 これらの状態の時、周辺視が上手く使えず、中心視の割合が増えてしまっている可能性があります。負けパターンに陥っているときは、相手の一部しか見えていない、相手しか眼中にない、というケースが非常に多いのです。試合の際、相手の顔を見ながらも全体を見ている選手は、周辺視で相手を捉えるため、カウンターやいろんな方向からくる技や相手の予想外の動きに対応しやすいのですが、中心視で一点しか見てない選手というのは、動きを捉えにくい分、相手の攻撃を貰うリスクも大きくなります。

 

 

【フォーカスとアングルの切り替え】

 試合に勝った時の記憶をたどると、不思議と全体が見えていたことに気がつきます。相手はもちろん、相手のセコンド陣や大会関係席の様子、審判の動き、客席の様子まで覚えていることもしばしばです。これは、周辺視を使っての視覚情報の入力が上手く行っている証拠です。視野が広くなっている。このような時は、頭も冷静ですし、試合の流れがつかめていたり、戦いの局面にしっかり対応できています。感覚入力しながら同時に出力している状態ですね。

 冷静でない状態を、「我を見失った」と表現することがあるように、熱くなってしまうと極端に視野が狭くなり近視眼的になってしまうのが人間です。ちなみに、負け試合でセコンドの声がほとんど聞こえなかった、というのもいわゆるいっぱいいっぱいの状態になってしまい、音声情報入力をシャットアウトしてしまって起こる現象です。情報入力のチャネルを全開にしながら、運動(出力)をすると感じながら動く状態になり不思議と疲れません。しかしながら、入力を一切遮断したまま出力だけしようとすると、すぐにスタミナを使い切って疲れて果ててしまいます。 入れながら出すのか、入れずに出すのか、で、苦しさが変わってくるから不思議です。

 

  私の所属するチームでは、セコンドと選手の打ち合わせとして選手が熱くなって視点が一点に集まり出すと、手をパンと叩いて音を出す合図をしてフォーカスを切り替えるように決めています。それで、相手の一部を見ていたところをカメラのアングルを切り替えるように、パーンと全体にフォーカスをチェンジする。マルチアングル化するわけです。さらに、試合でガンガン打ち合って視界が狭くなったときに、「目線」とか「視界」とかそういう言葉をつかった指示をセコンドが伝え、選手は切り替えを行うように準備しておきます。

 

  そうすると、「ああ、ここ空いてた」、「相手の動きが見える」という方向に傾きます。真正面からだと堅く見えたガードも、少し角度を変えてみると空いてるところが見えたりします。また、見えてる打撃は、もらってもKOにつながりにくい。倒されるときはたいてい、「見えていない打撃」です。フォーカスの切り替えで、自分の負けパターンに陥りそうになったときや、突破口が見いだせなかったとき、倒されそうな場面などからの脱出のきっかけをつくることができます。

 

 

【相手の目線をコントロール

  相手の眼の動きを観察してみましょう。2人組になって、人差し指でポイントをつくり、相手にはその一点に視点を合わせてもらいます。指を遠くから近づけたとき左右の目は中央に寄りますね。この動きを、内転といいます。次に、指を近くから遠くに離すパターンでは、眼は外側に離れる動きをします。これを外転といいます。

 

 対象物が近づいたときに両目が内転する反応を、輻輳反射(ふくそうはんしゃ)といいますが、遠い距離から一気に飛び込むと、相手選手の輻輳反射を引き出すことができます。この時、真ん中は見えやすくなりますが、外側は見えづらくなりますから、外からのハイキックやフックなどの攻撃のヒット率が高くなります。

 

 逆に、接近戦の距離から急に離れると、相手の眼は外転します。外側が見えやすくなりますので、急には離れた場合は前蹴りやボディーストレートなどのまっすぐ系統の技がヒットしやすくなります。

 

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200407161355j:plain

対象が近づくと・・・

f:id:societyoffightingmedicine:20200407161404j:plain

両眼が内転する



 技の選択やコンビネーションの組み立てにおいて、「それが出しやすいから」「得意パターンだから」という理由で構成してしまっている選手は少なくありません。一方で、一流選手は「相手にとって対応しづらい選択や組み立て」を行います。相手の眼がどのように動くか、死角がどこに生じるか、しっかり観察してみるとそこに勝利へのヒントが見つかるでしょう。

 

(続く)

 

f:id:societyoffightingmedicine:20210707170748j:plain

格闘技医学 第2版

www.amazon.co.jp

 

Dr.F Twitter

https://twitter.com/takuyafutaesaku

 

格闘技の運動学  ~視機能と運動2 動く相手をどう捉える?~

【視点と打撃の威力の関係 キック編】

次はこれを蹴りで実験してみましょう。

 

A:ミットの当たる表面に視点を固定して蹴るパターン。

B:ミットを蹴りこんだ先に視点を置いて蹴るパターン。

 

パンチと同様に、AとBを比較した場合、Bのほうが伝わる力が大きいことがわかると思います。またA→Bも実験してみましょう。人間の動きが視点に引っ張られる特性が強さにつながります。

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200330163108j:plain

A 視点をミットにおいたキック

f:id:societyoffightingmedicine:20200330163119j:plain

B 視点をミットの先においたキック


 

【視点の置き方と前に出る力】

「ここは前に出ないと勝てない」「相手を下がらせる必要がある」「プレッシャーをかけて追いつめたい」格闘技・武道の試合で勝利へのキーポイントになるシチュエーションでも、「視点をどこに置くか」で、前に出る力が大きく変わってきます。

相手の胸に視点を置いてパンチを胸に連打する動きと、相手の胸より数センチ先、「パンチを打った結果、相手が少し下がるであろう場所」に視点を置いてパンチを打つ動きでは、同じ胸部への連打でも、受ける側の力が全く変わってきます。

  前に出る力が弱い選手は、多くの場合、相手の胸や腹など「A打つ場所」に視点をセッティングしてしまっています。ですが、実際にパンチや膝蹴りを出すことで、どういう状況をつくりだしたいかというと、「相手を後ろに下げたい」わけですね。そうすると実際に当たる場所ではなくて、「B相手が少し下がったと仮定したところ」に視点を置くのです。「今から行う動きの目的の方向」に視点を飛ばして動くというわけですね。この作業を加えることで、身体は視覚情報を元に、「次の瞬間どこにあればよいのか」を察知し、その通りに自らを運ぼうとします。

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200330172806j:plain

AとBの違いを理解する

 このようにパンチや蹴りの動き自体は大きく手を加えずに視点の置き場所を変えるだけで、全く質の違う動きになります。受ける方のミットの圧力も全く変わってきますし、組み合い、差し合いのおいても、視点の置き方で発揮できる出力に変化が見られます。

体力や筋力の割には「圧力がないな」「前に出る力が弱いな」「さがって負けてしまう」という選手は、その原因を筋力だけに求めず、ぜひとも視点と動きの関係に着目して練習してみてください。

  視点を「次の瞬間そうなってほしいところ」に先におきつつ、動く。すると身体は素直にそれに合わせて運用されます。これは格闘技・武道のあらゆる動きにおいて共通する「使える公式」といってもいいでしょう。

f:id:societyoffightingmedicine:20200330172933j:plain

次の瞬間を捉えよう



 

【動く相手の捉え方】

動く相手をどうやって捉えるか、そのときの視機能の使い方について考えてみましょう。

  まずはミットが止まった状態で打ちます。ミットが止まった状態というのは視覚でも捉えやすいと思います。実際の試合でも相手が素早く動いている時はなかなか技がヒットしにくいですが、何かの拍子に相手が止まってしまった瞬間というのは非常に攻撃が当たりやすい。逆に、普段止まったミットやサンドバックばかり練習している選手は、「ミット打ち」「サンドバッグ打ち」は非常に上手になるのですが、実際に試合で動く相手に当たるかというとそれは全く問題になります。その理由は、「止まった対象物を視る機能」と、「動く対象物を視る機能」は、同じではないからです。練習の段階でもパートナーは、ミットを動かし、常に距離を変えていくという負荷が、上を目指す選手にとって重要になってきます。

 

動く相手を捉えるときにも、どこを視界に収めるがポイントになります。ミットを例にとりますと、ミットそのものを見てしまうと実はミットの動きは非常にわかりづらくなります。例えば相手の顎をパンチでとらえたいとして、相手の顎だけを見てしまうと、動いたことが認識しづらくなってしまいます。

 

 ここで動く相手をとらえる実験を行ってみましょう。

 

パートナーはミットを持って、選手に向かって構えてください。ミットを前後にゆっくり微妙に動かして、選手はミットが前に来たと思ったら、「前に来た」と言ってください。選手は、視点の次のAパターンとBパターンに分けて行います。

 

A:ミットに視点を合わせた場合

B:ミットと共に後ろの背景も見た場合

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200330173716j:plain

A ミットに視点を合わせた場合

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200330173903j:plain

B:ミットと共に後ろの背景も見た場合

 いかがでしょうか?AよりもBのほうが、わずかな動きをとらえやすくなるのが実感できると思います。Aはミットしか見えていないため、像の大きさの変化に気がつきにくいです。いわば1点を凝視している状態ですね。Bは、後ろの背景という不動の情報がベースにあるためミットの像の大きさの変化が非常にわかりやすい。これは、背景を視野に収めることにより、背景と対象物の距離の「差」で「動き」を捉えるからです。

 

真っ白の紙の上にある点が移動するのと、縦と横に罫線が引いてある紙の上にある点が移動するのでは、後者のほうが移動していることが解りやすい、この原理と同じです。野球などでボールを捕るときに、「よくボールを見て!」という声をかけられますが、運動音痴だった私は、その声を聞くたびにしっかりボールだけを見てしまい、結局エラーしてチームメイトの冷たい視線を一身に集める、という悲しき思い出がたくさんあります(涙)。ボールとその背景の景色を一緒に見るようにすれば、ボールの動く先も予測しやすかったはずです。

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200330174003j:plain

大切なのは「背景を捉える」こと

 

動く相手を捉えたいときは、相手だけでなく、後ろの背景も情報として入力することによって非常に捉えやすくなるわけです。「相手をよく視て」と「相手と背景をよく視て」は似ているけれど違うアドバイス、というわけですね。

 

(続く)

 

f:id:societyoffightingmedicine:20210707170748j:plain

格闘技医学 第2版

Dr. Fの格闘技医学[第2版] | 二重作拓也 |本 | 通販 | Amazon

 

Dr.F Twitter

https://twitter.com/takuyafutaesaku

 

 

 

格闘技の運動学  ~視機能と運動1 ゴールの瞬間移動とは?~


格闘技の運動学  ~視機能と運動~

f:id:societyoffightingmedicine:20200330091502j:plain

 

【身体はどこから動く?】

格闘技の動きにおいて、身体は一体どこから動くでしょうか?

パンチを出すとき、蹴りを出すとき、タックルに入るとき、いろんな部位が動きますが、最初に動くのはどこか、そこから格闘技の運動学をスタートしたいと思います。

 例えばパンチを打つ際、視覚で情報を入力しなければ、対象に対して攻撃することができません。相手の動きを見るのも、距離をはかるのも、ガードの位置を把握するのも、実はこの視覚に頼っています。人間は80パーセントの情報をほぼ視覚に頼っていると言われており、眼球が動き、瞳孔が動き、視覚情報を入力して相手を脳で認知して初めて、効果的に蹴れる、打てる、投げられる。逆に目を完全につぶってしまった状態ですと相手がどこにいるか正確にわからないし、自分の行う運動を脳内で想起することができません。

かつて、盲目の柔道家の方と乱捕りをさせていただいたことがあるのですが、その場合も、やはり組んでからのスタートでした。組んでからの視覚に頼らない動きはそれこそ驚異的。私は、バンバン投げられ、完全に抑え込まれました。それこそ、「見えていないのが不思議なくらい」の強さでしたが、それでも視覚が効果的に使えない場合、接触して初めて戦いが成り立つのです。

格闘技の動きにおいて最初に動くのは眼である以上、戦いにおける眼の機能を獲得することはパフォーマンスアップに確実につながります。普段なかなか意識しにくい部分ですが、運動を理解する上で非常に大切な器官です。

 

 

 【強い人の眼】

 一流選手は眼の使い方が非常に巧みです。打つ場所を集中的に見るだけではなく、いろんなポイントを視野に入れ、多角的に情報を取り入れて瞬時に動くことができます。例えば、カウンターを取るのが得意な選手は、いろんなポジションをとって相手の情報を引き出しながら自分にとって有利な視覚情報を集めておいて、カウンターを合わせます。フェイントからのハイキックが得意な選手は、わざと目線を下げておいて、相手の注意を下に引きつけておいて突然ハイキックをヒットさせる、といった技術が非常に優れています。

 

 逆に負けるときは、「興奮して相手の顔しか見ていなかった」というような一種の視野狭窄状態に陥ることがあります。格闘技において、視点を上手にコントロールすることが技の威力につながったり、視野の切り替えが試合展開を左右することがあったりと、勝ち負けにも非常に重要な要素となってきます。普段の生活でも、「駅のホームの向こう側の人と目があった」とか、「誰かの目線を感じる」など、人間は視られることに対して、非常に敏感な生き物。視機能を向上させることは、強さに直結します。

 

【視点と打撃の威力の関係 パンチ編】

 さて、ここで実験をしてみましょう。2人組となり、パートナーはミットを構えます。選手は、パートナーに向かってミットにストレートパンチを打っていきますが、最初はミットの当たる部分を見て打ちます(A)。次に、ミットよりも先に視点を置いてパンチを打ちます(B)。AとB、動きは基本的に同じままで、ただ視点を置く場所だけ変えてやってみましょう。

 

まずはAです。

f:id:societyoffightingmedicine:20200330092155j:plain

A 視点はミット上(正面)

f:id:societyoffightingmedicine:20200330092330j:plain

A 視点はミット上(側面)

 

続いてB

f:id:societyoffightingmedicine:20200330092656j:plain

B 視点はミットの先(正面)

f:id:societyoffightingmedicine:20200330092712j:plain

B 視点はミットの先(側面)

 AとBで、ミットに受ける衝撃の大きさは変わります(A<B)。ミット相手に向けると、選手はそのミットの打つ場所だけを見て打ってしまうことがあります。ミットの表面を見て打つとパンチ動きはミットの表面で止まってしまいます。そうではなくて“動きの目指すゴール”であるBに目線を先においてから動く。そうすると、身体全体も「その位置まで動こう」という風に変わるんですね。人間の身体にもともと備わっている、定めた視点に向かって身体を運用する特性を生かすわけです。

 

  サッカー選手がシュートの時、ゴールネットを突き破るつもりでネット先に視点を置いて蹴ると鋭いシュートになる。ピッチャーが剛速球を投げるときも、キャッチャーに照準を合わせるのではなく、キャッチャーの後ろのバックネットめがけて投げると球威が増す。 これらと原理的は同じなのですが、対人競技である格闘技の場合、ゴールやキャッチャーと違って相手選手も動くので、どうしても相手の顔面なら顔面、腹なら腹、という表面を追うので精いっぱいになりがちです。そこからわずか数センチ先を見ることができるかどうか?これが大きな差になってきます。

 

 視点による威力の違いを理解したら、ぜひAを視て、次の瞬間に視点をBに移動させる、という技術も試してみてください。

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200330093135j:plain

ゴールを瞬間移動させる

 

 A→Bのわずかな動きの中で、眼球運動にかかわる筋群はもちろん、瞳孔や眼の周りの筋群、顔面の筋群も動きます。人間が何か目標物に手を伸ばす際のスピードは、「ゆっくり→速く→ゆっくり」の過程を必ず経ます。

 

 動かし始めは遅く、加速に従ってスピードは速くなり、届くときには拮抗筋群が収縮してブレーキがかかるため遅くなる、というわけです。パンチや蹴り、タックルが当たる場所を「ゴール」として動いた場合、最後のフェーズで「ゆっくり」が出現してしまいますから、それを防止する意味でも、「ゴールを瞬間移動させるテクニック」は、最速スピードを保ったまま技を振り抜くのにとても役立ちます。(後述のKOの解剖学でもこの最速スピードを生み出すテクニックは応用可能です)

 

 技のフォームや動きを見直す際には、「視点はベストな位置にあるかどうか」チェックしてみてください。そして「視点の瞬間移動」も意識して行ってみてください。適切な眼の使い方が見つかれば、その後の動きに変化が現れます。

 

(続く)

 

f:id:societyoffightingmedicine:20210707170748j:plain

格闘技医学 第2版

Dr. Fの格闘技医学[第2版] | 二重作拓也 |本 | 通販 | Amazon

 

 

 

格闘技医学 Dr.F Twitter

https://twitter.com/takuyafutaesaku

 

格闘技医学 はじめに

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200329225839j:plain

 

 人は、どんなときに「強くなりたい」と思うのでしょうか?

 いろんな答えがあると思いますが、「今の自分を超えたい」と思った時ではないかと、私は思います。自分のサイズで思いつく解決法では解決出来ないことがなんとなくわかっているから、今の自分のサイズを超えることで、より確かな解決が実現するのでは無いだろうか?そんな現状認識と、強くなった自分への期待感が「強さ」を求める心の正体だったような気がします。

 

 そもそも格闘技や武道は、人間が創り出したものです。もし、人間に「強くなりたい」という根源的な欲求が存在しなければ、格闘技や武道はなかったはずです。格闘技や武道は、最初から強い人のためのものではない。少しでも強くなりたい人、強く生きたい人のものなのです。

 

 本書のタイトルは格闘技医学です。人を倒す術である格闘技と人を助ける術である医学。一見、正反対にみえる概念がひとつになっているように思えますが、格闘技は自分が強く生きるための道であり、医学は人類が強く生きるための道でもあります。格闘技と医学は対立する概念ではなく、真の強さを求める人たちにとっては不可分なものなのです。

 

 なぜなら格闘技は対人の中で体験的に人間を知る作業であり、医学もまた人間を対象として深く探求する学問だからです。本書では、強さを追求する際に、手がかりとなるであろう客観的な事実や科学的な原理を記しました。格闘技や武道を行うのは人間であり、対象も人間です。であれば、人間の身体と心を学ぶ作業は、必ず強さとリンクするはずです。

 

 一流選手や伝説の格闘家はどうやってその強さをつくって来たのか?そのエッセンスを科学的・医学的根拠と共に追求したのが「格闘技の運動学」です。どんなに努力しても、人は他人にはなれません。あなたは、あなただし、私は私。憧れの人に近づくことはできても、その人にはなれません。しかしながら、凄い人や憧れの人の動きの中にある「法則」や「決まりごと」「原理原則」をインストールすることはできるし、他人になるのではなく、自分のものとし、自分の中に生かすことは出来る。その考え方を示しました。

 

 格闘技は、自分と相手の関係性です。自分にとっての得意技が、相手にとって嫌な技なら有利に働きますが、相手にとって「待ってました!」な技かも知れません。KOの解剖学の章では、格闘技のハイライト、KOにスポットをあてました。一見、偶発的に思えるKOですが、その発生頻度や再現性を高めることは可能です。「なぜ倒れるか」を根本から(解剖学から)理解すれば、倒す方法は自由に、無限に構築出来ます。正しい知識と理解は、拡がりを生むからです。相手を感じ、自分をコントロールしながら関係性を瞬時に更新していく、格闘技の面白さに迫ります。

 

 強くなりたい、と思ってはじめたはずなのに、いつの間にかケガや障害と戦っている選手や元選手がたくさんいます。強さの追求の結果、不健康になり、人間として弱くなってしまう現実。そんなのはおかしいはずなのに、怪我や不健康が強さの証であるとする風潮にも、医師として違和感を覚えます。修復不可能な怪我をしてから「健康なヤツが強い」ことに気がついても手遅れです。選手生命を守る、の章では、格闘技が必然的に内包するリスクに光をあて、そのリスクを最小限にするヒントを記しました。格闘技で見せるのは生き様であって、死に様であってはなりません。格闘技ドクターからの提言です。

 

 「格闘技医学」という新しいジャンルは、まだ生まれたばかりです。実際に、私自身わからないことだらけですし、知れば知るほど、知らないことが増えていくような気がしています。格闘技医学には、長い歴史も、誇れる伝統も何ひとつありませんが、代わりに、まだ見ぬ可能性に満ち溢れています。本書に記載されている内容は、ほんの一例、あくまでヒントに過ぎず、強さの答えは皆さんの身体と心の中に発見されるものと信じております。

 

 このたび、格闘技医学の書を世に出すために尽力してくださったすべての皆様の心から感謝申し上げます。本書を手に取ってくださった皆様、ひとりひとりの強さにほんの1ミリだけ貢献できたら。それこそが、私にとってこの上ない喜びです。

 

                  格闘技ドクター  二重作 拓也

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200329222451j:plain

https://www.amazon.co.jp/Dr-F%E3%81%AE%E6%A0%BC%E9%97%98%E6%8A%80%E5%8C%BB%E5%AD%A6-%E4%BA%8C%E9%87%8D%E4%BD%9C-%E6%8B%93%E4%B9%9F/dp/4798046515

格闘技・武道インフルエンザ予防と対策2020

f:id:societyoffightingmedicine:20190207130157j:plain

戦う相手は、目に見えない。

【格闘技・武道のインフルエンザ予防と対策2020 試合会場編】
 手洗い、うがいを励行する、マスクを着用する、予防接種を受ける、といった基本的予防策はもちろん、試合会場特有の事情を考慮した対策が必要です。特にハイリスクなのが、観客席、会場入口、トイレ、売店、選手控室などひとの往来が多い場所。選手のみなさんは、極力さけるように気をつけてください。

 

・控室とは別にウォーミングアップスペースをチームで確保する。

・会場入りの時間を少しずらす。

・チームでアルコール消毒スプレーを用意しておく。

ティッシュやペーパータオルを棄てるゴミ袋を統一する(あちらこちらに棄てない)。

・水や食料はあらかじめ多めに買っておく。

・ウォーミングアップ用のミットやビッグミットは、使用者が代わる際にはアルコールをかけてペーパータオルで拭く。

・観客やチーム以外のメンバーとの連絡はスマホ、メッセージ等で行う。

・試合後は呼吸も激しくなるのですぐに人の少ない場所に退避する。

・シャツやタオルを普段より多めに持っていく、汗をかいたらすぐに着替える。

・暖房などで乾燥している場合、濡れたタオルを準備して喉を守る。

 


【格闘技・武道インフルエンザ予防と対応2020 道場・ジム・生活編】

・道場・ジムに使い捨てマスク、ペーパータオル、消毒用アルコールを常備する。

・試合が近い選手は可能な限りマスク着用にて練習に参加する。

・練習前後、休憩時間には全員の手洗い、うがいを励行する。

・ミットやサンドバッグ、ドアノブ、スイッチなどの消毒にはアルコールとペーパータオルを使用する。

・室内の湿度を高く保つ。ただし転倒の危険に注意

・インフルエンザ罹患の可能性のある練習生は出席を禁止する。

・練習中、インフルエンザが疑われる練習生が見つかった場合、ただちに練習を全体としてストップし、保護者および家族に連絡。医療機関への受診を促す。

・練習生の家族内で発症があった場合、指導者と情報を共有する。

・インフルエンザ陽性者が出た場合、学校法に順じ「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」練習出席を停止する。

・主治医の許可を確認してから練習復帰を許可する。

・指導者がインフルエンザに罹患し、代行指導者がいない場合は道場を一時休止する。

・指導者は、医学知識と対応をアップデートし道場・ジム内で共有し徹底する。

・流行前の時期に、予防接種を行い重症化を予防する。

・流行時期に試合がある選手で抗インフルエンザ薬の予防投与を行う場合、医師と十分協議して行う。

・減量計画は通常より早めの開始とする。減量期は特に免疫力が低下し罹患・発症しやすくなるため栄養状態には気を配って行う。

・帰宅時にはまずシャワーを浴び、手洗い、うがいを行うこと。また生活空間の湿度を高めに保ち、換気も十分に行う。

・外出時のマスクは必ず着用し、極力、人混みを避けて移動する。


【一般的な予防マニュアル】
厚生労働省インフルエンザの更新情報をこまめにチェックする。

www.mhlw.go.jp

 

※上記はあくまでリスク軽減のための方法の例であり、

1)感染を完全に防ぐ手段ではないこと、

2)状況により対応に変化が出ること、

3)最新の研究結果により変わること、

4)自己責任で使用されること、

5)症状が出ない不顕性インフルエンザの存在も念頭におき、疑わしきは必ず医療機関に受診すること

6)一般的な予防対策を行った上で参考とすること

 以上を十分ご理解を願います。必ず厚生労働省発表の最新情報をご参照ください。

 

 

f:id:societyoffightingmedicine:20200329222451j:plain

https://www.amazon.co.jp/Dr-F%E3%81%AE%E6%A0%BC%E9%97%98%E6%8A%80%E5%8C%BB%E5%AD%A6-%E4%BA%8C%E9%87%8D%E4%BD%9C-%E6%8B%93%E4%B9%9F/dp/4798046515

 

 

格闘技医学会 安全管理委員会

格闘技医学会Twitter

https://twitter.com/SocietyFighting

 

Dr.F Twitter

https://twitter.com/takuyafutaesaku

 

安全管理リーダー 理学療法士 勝井洋 Twitter

https://twitter.com/fightingmed

弁護士とドクター対談(2)~危険すぎる子供の格闘技~

・子供の格闘技の危険性

・保護者の法的責任

・フルコンタクトカラテ、創始者の遺志とは?

・海外では違法の国や地域も

ーーーーーーーーーーーー

f:id:societyoffightingmedicine:20190830204820j:plain

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

子供の格闘技・武道競技は安全なのか?

―――安全性はやはり格闘技・スポーツにおいても重要だと思われます。最近、「子供の格闘競技」が盛んであり、全国で開催されていますが、率直にどのように感じていらっしゃいますか?

 

岩熊 私の率直な感想としては「大丈夫なのか?」です。私は格闘技の経験はありませんし、読者の皆様には大変失礼なのですが、格闘技をやりたいと思わなかったんですね。それは「けがが怖いから」です。私の格闘技のイメージは「けが」です。場合によっては命を落とすこともあります。そのような危険な格闘技を子供がやって大丈夫なのか?という疑問があるのです。

 先日、子供の試合をYouTubeで見ましたが、小学校低学年か入学前の小さな子供がヘッドギアとグローブをつけてお互い殴ったり蹴ったりしてました。私にはショッキングな映像でした。Dr.F、これは医学的に見て安全だといえるのでしょうか。

 

Dr.F 岩熊先生、非常に危険である、と言わざるを得ません。格闘技・武道の素晴らしさは語りつくせないほどですが、だからこそ岩熊先生のご提言はとても貴重です。命が無くなったら、障害などが残ったら、その素晴らしさも享受できません。格闘技嫌いも増えますね。自分の子供が格闘技で障害を負って、一生介護が必要となった場合、関わった皆さんのイメージが良いはずがありません。

 岩熊先生の「外からどう見られてるか?」という視点は極めて大切ですし、ご提言を有り難く思います。医学的な背景は後で、お伝えさせていただくとして、加藤先生は、いかがですか?

 

加藤 私は、格闘技は自分の身体を思い通りに動かしたり、瞬時の判断や行動を起こしたりする訓練にぴったりだと思います。対人競技で、一対一で競うことができ、優劣も分かりやすいですし。あとは、いじめに負けない心を練るのに役立つと思います。

 ただ、安全面では、私も、気になる点がないわけではありません。特に、私が学生の頃の指導には、精神論がまかり通っていて、今から思うとゾッとすることもあります。例えば、入門直後の股割り。道場に座った道場生の向かいに指導者が座って両脚で強制開脚させ、道場生の背中に二、三人が覆いかぶさる…。太ももの裏でプツプツと音がして、股関節がゴキっといって、あっという間に胸が床に着いて股割り完了。これで股関節を壊してしまう例もあると後から聞かされました。それと、岩熊先生がご覧になったという、子供の試合については、非常に気になります。

 

必要な前提と、子供の脳の特徴

 

Dr.F 加藤先生、おっしゃる通り、いじめに負けない心をつくる効果が十分にあると思いますし、「思い通りにならない状況の中で、何とか身を処していく」、とか「見える相手と競うことで、見えない状況と戦うときにも置き換えて考えられる」という効能・効果を十分にもっていると思うんです。ただそれらについては、「安全を十分に確保されること」、「格闘技や武道においていじめが存在しないこと」という前提が必要です。岩熊先生がショックを受けられた小学生、幼稚園児レベルの競技という名のど付き合いに関してですが、僕的には「非常に危険である」というのが結論です。

 

f:id:societyoffightingmedicine:20190830204828j:plain

 医学的な背景ですが、

1)頭部の軟部組織は薄く、脆弱なので骨膜下血腫などを起こしやすい。

2)骨が柔らかい分、陥没骨折や穿通外傷が起きやすい。

3)血管が細いため損傷しやすく硬膜下血腫を起こしやすい。

4)不可逆的損傷(もとにどらない)を受けやすい。

5)局所症状が出にくい。

6)脳浮腫が起こりやすい。

 

などの子供ならではのファクターが存在します。医学用語ばかりですが、少なくとも「命に関わる危険性をはらむこと」と「大人と共通のリスク、子供に特有のリスクの両方があること」が伝わればと思いますこれらは国民生活センターのHPに詳しく記載されていますので、保護者・指導者は知っておくべき内容ですね。

 

―――恐ろしいですね・・・。

 

加藤 私は、先程の脳のお話からすると、身体が違う以上、「ルール」は異なるべきだという気がします。さらに、「ルール」をお互いが了解し、ある程度の危険に同意して行うという場面では、「前提事実に対する正しい認識」が必要だと考えています。

 

 セカンドインパクトシンドロームとか、パンチドランカー、など子どもの身体の特性について、格闘技に関わる指導者や主催者らはもちろん、一般の道場生や親御さんたちに正しく認識されているのだろうか、と思うのです。科学や医学の観点から、様々な事象が分析され、問題点も解明されています。「気の毒だけど、そういう体質だった。」「きっと素因があったのだ。」だけでなく、仮にそういう個人の素質があったにせよ、医師の立場からしてみると、現在の知見からしたら、「起こるべくして起こった。」という痛ましい事故は少なくないのではないかと思います。

 

子供のフルコンタクトカラテの試合は存在しなかった

 

Dr.F 正しく認識されているとは言い難い状況です。極真カラテを創始し、世界に広めた大山倍達総裁は、【直接打撃制のカラテの試合は身体が出来上がり鍛え上げた成人男性がやるもので、子供や女性がやるものではない】という理念を、当時の機関紙や著書に表明されていました。時代が変わり、いろんな層に門戸が開かれたわけですが、では裾野が拡がった分、安全性についての意識はもっと高くないといけないですよね。

 

―――それは大切な理念ですね。Dr.Fご自身、8歳でカラテをスタートされたわけですが、実践者としていかがでしたか?

 

Dr.F  最初の伝統派の道場が、小学生のころは型と基本、約束組手だけの練習体系で、自由組手・スパーは一切無かったんですね。中学生から始めた実戦空手でも子供ルールは胸当て、胴当てを兼ねた防具をつけ、中段の防具の上への打撃で良い音がしたら技あり、のポイント制でした。ただ、顔を蹴ってもいい、胸部を素手で叩く、という練習は中学の時、大学生や一般に混じってやっていたので・・・今考えると、相当リスキーだったなぁ、と冷や汗出ます。まだ「心臓震盪」という言葉さえ無かった時代でしたからね。

 そういう意味でも、どんなルールでも「子供に適応していいのかどうか」という議論が必要なのでは?と考えています。カナダの一部の州では、直接打撃制カラテの試合自体が法律で禁じられていますし、オランダでも子供のキックやMMAはやってはいけません。「なぜ禁じられているのか?」というところも含めて真剣に考える時期ではないでしょうか。

 

―――州で違法であれば、オリンピックは相当難しいってことですね。

 

保護者が加害者になることがある

 

Dr.F そうですね。先生方にぜひお聞きしたいのですが、小学生や幼稚園生の子供たちが、明らかに危険が想定されるルールの試合に出ている現状に対し、SNSなので多くの方々からご意見を頂くんです。大人でしたら、自己責任での理解もできますが、子供が自ら危険なところに飛び込んでいる認識があるのと思えないのですが、、、。

 

岩熊 理解していないと思いますね。子供自身がやりたいと思ってやり始めたケースよりも、親が子供にやらせているケースのほうが多いというのが実情だと思います。責任能力については概ね11~12歳までと考えられています。子供が責任無能力者だという場合には、監督義務者である親が損害賠償責任を負うことになります。

 

 

Dr.F   では、例えば、我が子が試合に出場して事故が起きた場合、試合に出てよし、という判断をした責任は親である僕にある、という解釈でよいですか?

 

岩熊 例えば試合で一方の子供が他方の子供にけがをさせたとします。この場合、けがをさせた子供に責任能力がない場合には、その親が損害賠償責任を負います。

 他方で、けがをした子供の親についても、「子供を危険な目に遭わせた」という意味では自分の子供との関係では加害者であると評価されるケースもあり、その場合には加害者として損害賠償責任を負うことも考えられます。

 

Dr.F そうなんですね!「危険な大会に子供を出す」、「危険な練習をさせる」ということは、親も法的にも加害者となりえる場合もあるわけですね!親は子供の安全を守る立場だと僕も思いますので、子供に習わせる保護者側にも医学的にも法的にも正しい判断が求められますね。

 

 加藤 私もそう思います。ひところ問題になりましたが、親が子どもに対して、いじめに負けない、だけでなく、喧嘩に負けない子どもになってほしいと空手や少林寺拳法をさせる。で、試合になると、親たちが、「いてまえー!」「顔面、顔面!」「ひっくり返せ!」、ひどい親は「ぶっ○せ!」と激しい野次をする。今は、野次禁止のところも増えてきましたが、そういう、けしかけるような親御さんの責任は問題になり得ると思います。ただ、試合や、道場でのこととなると、その場では、親以上に、管理者とか指導者の権限が大きいので、管理者や指導者の責任ということも問題になるのではないかと思います。

 

(3へ続く)

 https://societyoffightingmedicine.hatenadiary.com/entry/2021/07/19/155621

 

f:id:societyoffightingmedicine:20210707170748j:plain

格闘技医学 第2版(秀和システム

www.amazon.co.jp

弁護士とドクター対談(1)~医学と、法と、スポーツと~

f:id:societyoffightingmedicine:20190810173037j:plain

・法と医学の専門家、集う!

生涯スポーツとして実践する社会派・加藤英男弁護士にとっての格闘技とは?

・スポーツ専門の法律家・岩熊豊和弁護士の活動とは?

・全てに通じる上級のこつ、とは?

ーーーーーー

医学と、法と、スポーツと

――Dr.Fの同志的存在であり、法律や問題解決の専門家、加藤英男弁護士、岩熊豊和弁護士をお迎えしての座談会です。スポーツ、格闘技・武道についての問題意識やその解決方法含め、有意義な対談になりそうで楽しみです。それでは自己紹介をお願いします。

 

f:id:societyoffightingmedicine:20190810173241j:plain

 

加藤 こんにちは。加藤英男です。私は、名古屋で開業する弁護士で、50代半ば過ぎですが、趣味は格闘技です。仕事は、民事事件全般を扱いますが主に労働関係事件に力を入れています。スポーツに関しては、学生時代に2年間フルコン空手道場に通いまして、その後、遠ざかっていたのですが、数年前から、また道場に通っています。空手再開後2年ほどして、試合で思うように結果を出せず、知人から誘われた「格闘技の東海祭り」で二重作先生にご指導を頂き、その後、格闘技医学のファンです。どうぞよろしくお願いします。

 

f:id:societyoffightingmedicine:20190810181203j:plain

 

岩熊 こんにちは。岩熊豊和と申します。福岡県で弁護士をしています。私は小学校入学と同時に野球を始め、高校時代は甲子園を目指していました(残念ながら出場できませんでしたが)。平成12年10月に弁護士登録した後、福岡県弁護士会の野球チーム「球団福岡」に入部しました。現在は同チームでキャプテンを務めています。仕事面では主に民事事件を担当していますが、スポーツ界で発生している様々な問題に関しての相談に対応しています。二重作先生とは高校の同級生であり、高校卒業後も予備校で一緒に勉強した間柄です。よろしくお願いいたします。

 

Dr.F 先生方、よろしくお願いします。まず、加藤先生におかれましては、カラテを志されながらも「社会的な強さとは何か?」というところで現在弱者の味方として活動されている、というところに特に魅力を感じています。ライトなスパーリングでしたが出逢ったその日に殴り合ったのも印象深いです!

 

―――医師と弁護士をつないだのも格闘技であった、と。

 

Dr.F 加藤先生のお人柄がスパーを通じて自分の中に入ってきましたね。同期の岩熊先生とは、15歳から知ってるので、今、先生と呼び合っているのが不思議な感覚です。僕たちの母校・東筑高校の野球部は、夏の甲子園に続き、春の選抜も出場を決めた強豪校です。僕らが高校時代、岩熊投手は当時、炎天下の中で肋骨負傷をしながらもマウンドで渾身の投球をされてました。その後予備校でも修行者として席を同じくするのですが(笑)、今も野球を大切にして専門職を全うされる様子を知り「流石、岩熊投手!」と応援席にいる気分ですね。

 

―――武道やスポーツという共通点があったのですね。お二人から見て、Dr.Fの格闘技医学はどのように映りますか?

 

岩熊 実は1~2年前に二重作先生が格闘技ドクターとしてご活躍されていることを知ったわけですが、一言でいうと「おもしろい!」という感想です。私が「格闘技」という言葉から連想するのは「怪我」であり、「ドクター」というからは「治療」です。この相反するはずの分野を1つにすることで「怪我をしない格闘技」を作り出そうとしているわけです。最初は「どういうこと?」と思っていましたが、今では「なるほど!」と勉強させてもらっています。

 

Dr.F ありがとうございます。自慢ですけど、負けた経験と怪我の経験は、結構あります(笑)そのままでは浮かばれないので、格闘技医学という形で発信しています(笑)この活動も、高校時代の経験も大きいんですよ!

 

文武両道、福岡県立東筑高校高校野球

 

岩熊 高校時代?わが母校東筑高校には空手部はなかったと思いますが、どのような経験ですか?

 

Dr.F 岩熊投手たち、メジャーな運動部の華々しい活躍が影響していました。格闘技ブーム以前って、カラテをやってる人ってマイナーだったんです。柔道部や剣道部はあっても空手部はなかったですし、たぶん今も独立した形では母校に空手部はないと思います。

 僕の場合、町道場だったので、野球部やラグビー部といった運動部の皆さんのように母校を代表してなかったんですね。さらに僕には球技センスが完全に欠落していたので、「羨ましいな、凄いな」って思ってました。母校を背負うのは10代にとって相当なプレッシャーだったと思いますが、岩熊先生は当時そのあたりはいかがでしたか?

 

f:id:societyoffightingmedicine:20190810173625j:plain


岩熊
入部した当初は自分のことで精一杯でしたね。それが背番号をもらってベンチ入りし、試合で投げるようになったりしてくると、段々と周りから期待されるようになりました。しかも応援部や吹奏楽部、同級生、先輩・後輩、そのご父兄と、その範囲はどんどん広がっていくわけで(笑) プレッシャーは徐々に大きくなりましたが、モチベーションも高くなっていいましたね。むしろ、個人の方がモチベーションを高く持ち続けるのは難しいと思いますが、どうでしたか?

 

Dr.F ベンチ入り、とか応援団と吹奏楽、という言葉を聞くと、「テレビ画面の中の世界」という感じですね。特に投手は、1球、1球、会場中も中継では視聴者も注目してますから、プレッシャー凄いはずですよ。

 僕の場合、試合中の蹴りなんてセコンドさえ見てくれてないですから(笑)そんな中で試合に出ると、「東筑に負けたらイカン」などの声が耳に入るんです。支部の代表で出てるのに「進学校に負けんな」みたいな完全アウェイ(笑)土地柄、パワーが有り余ってる若者が多く、ビーバップハイスクールみたいな髪型の連中には絶対負けない、がモチベーションのひとつでした(笑)

 

岩熊 たしかに(笑)ワイルドな土地柄ですよね。部活動とは違った形で、母校を背負っていたというわけですね。

 

Dr.F あははは、カッコよく言うとそうなりますが、過大評価です(笑)

 

苦労の節約

 

―――同級生ならではのご経験は面白いです。加藤先生は格闘技医学というジャンルをどのように捉えていらっしゃいますか?

 

加藤 格闘技医学についての、最初のイメージは、ずばり「苦労の節約」です。学生時代に空手を修行し、その後再びやるようになったのですが、壮年クラスの色帯大会ならば、せめて入賞はできるのではないかと軽く考えて出場したのですが、2回続けて初戦敗退でした。たまたま技量が高く、一回り若い相手だったということもありましたが、やはり悔しくて。彼らに勝ちたい、上達したい、しかも、早く。年齢を考えたら、先は長くありませんから。

 

 そんなことを、格闘技専門ショップのイサミ名古屋支店の店長にボヤいたところ、「このDVD、お勧めです!」と紹介されたのが、『Dr.Fシリーズ』。その場で二枚購入、観てみてびっくり!身体の使い方、効果的な打撃部位が明快に解説されていました。

 

 学生時代、ごく少数の優しい先輩がこっそり教えてくれるような、秘伝だったであろうコツ、早く上達したい私が欲しかった情報でした。その後、『格闘技の東海祭り』に行きませんかと他の道場の指導員から誘われ、DVDの人が来るなら、行かずにおれるか、と。

 

f:id:societyoffightingmedicine:20190810174046j:plain

岩熊 二重作先生がDVDの中の人、だったんですね。

 

Dr.F セコンドも蹴りを見てくれなかったのに(笑)

 

加藤 そうなんです(笑)そこで、上段蹴りのコツを直に伝授され、涙の股割り無しに、すぐにその場で学生時代に近い高さを蹴れました。「明快で再現性があること」、これが格闘技医学ですね。「即効性があること」も。おかげさまで上段を褒められるようになりました。コツというものは、作業の効率を上げてくれて求める成果を得られる期間を短縮させてくれるものですが、(1)即効性があり、(2)低コストで、(2)副作用がない三拍子揃ったコツが「上級のコツ」だそうです。

 格闘技医学は、まさにそれですね。科学の自然法則と医学の人体構造に基づいた明快な内容ですから、私がすぐに上段を蹴れるようになったように、誰にも、すぐ、簡単に、副作用なく、求める結果を再現させられる上級のコツです。最近は、交流会などで、子どもらの指導のアシスタントをすることがあるのですが、そこで、思うようになったのが、安心して子どもに教えられる格闘技、先程、岩熊先生がおっしゃった、「けがをしない格闘技」を教えられるのが格闘技医学、というイメージですね。

 

Dr.F  加藤先生、褒めすぎです(笑)ですが、ファイト&ライフの連載もそうですし、書籍やDVDを通じて、直接お会いできない皆さんの格闘技ライフに少し貢献できることは得難い喜びです。

 

(2へ続く)

https://societyoffightingmedicine.hatenadiary.com/entry/2019/08/30/211606

 

Dr.Fの格闘技医学 第2版(秀和システム

f:id:societyoffightingmedicine:20210707170748j:plain

www.amazon.co.jp