スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

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ジュニアと心臓震盪(2) パニック状態の中で正しい救命ができるか?

AEDとは?

・シェア数No.1のAED4コマ画像

・家族が泣き叫ぶ中で使える?

・講習は入口、ゴールは救命

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【強い味方、AED】
 AEDは正式名称をAutomated External Defibrillatorといい、日本語では自動体外式除細動器(じどうたいがいしきじょさいどうき)と訳されます。AEDが、空港や大きな駅、体育館、イベント会場、自動販売機などたくさんの人が集まるところに設置されています。最近では、救命救急の講習にAEDの取り扱いが組み込まれていますので、実際に使ったことのある方もいらっしゃるでしょう。

 

 2003年以前は、除細動器は医師しか使えなかったのですが、2003年には救命救急士が医師の指示なしに使用することが認められ、2004年からは一般市民も使用が可能になった、という経緯があります。これは、技術革新によるところが大きいといわれています。その技術革新とは、心室細動であるかどうかをAED自身が判定してくれる点にあります。心室細動と判定されたら、除細動開始の合図が出ますが、心室細動でなければ除細動は行われない仕組みになっています。AEDは、「心電図でモニターして診断を行い、除細動の必要性を判定する」という、医師が知識と技術と経験で行っていた部分を担ってくれる、かなり優れた救命の機器なのです。


 それまでは、心臓震盪や心室細動が病院外で起きたとき、心肺蘇生をしながら救急隊の到着を待つしか方法がありませんでした。119番で救急車を呼んで、現場の到着するまでの平均時間が約7分。心室細動は、時間の経過に伴いどんどん救命率が落ちていき、3分ほっておくと救命するのは極めて困難といわれています。
 AEDの登場と普及のおかげで、今まで助からなかった命が救えるようになった。これは、救命救急において革命的な出来事なのです。

 

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AED使い方マニュアル

【AEDの実際の使い方マニュアル】

1.まずAEDの電源を入れます。(電源ボタンを押す、フタを開けると自動的に電源が入る、などメーカーにより違いがある)

2.電極パッドを右胸部と、左の肋骨の下に貼り付けます。

3.心電図の読み取り・解析が開始されます。

4.解析の結果、除細動の適応の場合は音声ガイダンスにて電気ショックの指示がでます。「離れてください」と必ず声掛けをし、自分も含め、誰も対象者に触れていないことを確認してから電気ショックボタンを押してください。

 

施行後は、自動で、3の解析が再開されます。再度必要な場合は、また指示が出るので4の行程を繰り返します(除細動の適応がない場合は、電気ショックは行えないようになっています)。このように、機材の使い方としては難しいものではなく、一般の大人であれば使えるような仕組みです。

 

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AEDにが必要性をジャッジする


【格闘技・武道の現場で】
 AEDの機器自体の操作法は難しくありません。私も、スポーツ医学の講習会や格闘技のイベント、病院内での研修にて何度もAEDを操作していますし、医療の現場でも必要な患者様に除細動を行っていますが、操作自体はいたってシンプルです。AEDは音声ガイダンスがありますから、基本的にそれに従っていれば間違いはありません。


 しかしながら、実際の格闘技の現場で心臓震盪に正しく対応するのは、簡単ではありません。試合場でも、道場・ジム内でも、そこは救命救急講習会の場とは違い、整った環境ではありません。いきなり人の命に関わるわけですから、切迫感、緊張感、責任の重さがまったく違います。

 

 実際に、試合会場で心臓震盪が起こった現場にいた関係者の方に直接伺った話ですが、現場は完全にパニック状態だったそうです。倒れている本人は白目を向いて全身が硬直して動かない。親は泣き叫びながら子供の名前を呼び続ける。友人は「先生、○○君を助けてください」と泣きわめく。関係者は大会で死者が出るかもしれない状況にフリーズし右往左往する……。


「いくら講習を受けたとしても、このような一種の錯乱状態で冷静にやれる自信はまったくない」

 

「医学の素人がやれることはやろうとは思うけれど、実際にはやれない」

 

といった非常に重い言葉をいただきました。「AEDを取り扱えるようになることと、実際に現場でAEDを用いて冷静に救命活動を行えることは、別次元」であることを表しています。水着でプールで泳ぐのと、服を着たまま重たい荷物を背負って極寒、嵐の海に投げ出されるくらいの差はあると思っておいてください。
 

 心臓震盪が起きたら、命を救える可能性があるのはAED。これは、正しいし、これからもAEDの普及と使用は格闘技や武道に関わる指導者にとって、もはや必須となる流れは避けようがないでしょう。そこで

 

「AEDを設置しているからうちは大丈夫」

「うちの指導員はAEDの使用を含む救命救急講習を受けているから大丈夫」

 

というところで止まってはいけません。

 

「非常事態に冷静に、適切に対処し、救命できるスキルを身につける」

 

をゴールにしましょう。AEDの機械に関して、ひとつ注意していただきたいのは、メーカーによって若干の違いがあることです。スイッチの入れ方が異なったり、表示が異なったり。各メーカーが競合し価格を下げる、経済的な論理はよくわかりますが、指導者や保護者を対象とした格闘技医学の講習会で実際に複数のメーカーの機器を扱ったところ、それぞれの差異に戸惑う声が聞かれたのも事実です。

 一刻を争う現場で、普段取り扱いに慣れていない人が、「あれ、講習で使ったのと違う」と感じるのは、タイムラグの新たな要因にもなるでしょう。各所に置いてある消火器に取り扱いの違いがないように、AEDも行政がしっかり関与してなるべくシンプルに規格を統一する方向を期待します。

 

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(3)へ続く

 

ジュニア格闘技・武道「安心安全」強化書より

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