スポーツ安全指導推進機構/格闘技医学会

スポーツの安全情報、医学情報を発信。

~古い常識を更新していく~ 波空会/湘南アルト 伊澤 波人代表 合格者インタビュー01

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プロデビューから9戦無敗
 
ーーースポーツ安全指導推進機構では、積極的に安全向上に取り組んでいらっしゃるチームや指導者を取材をさせていただき、そのご活動をご紹介しています。
 
空手道波空会/湘南アルトキックボクシングの伊澤 波人代表は、現役プロ格闘家として大活躍されただけでなく、並行して後進の育成にも真摯に取り組まれてきた指導者でもあります。まずは、伊澤代表のこれまでのキャリアを含む自己紹介をお願いします。
 
伊澤 伊澤 波人(いざわ なみと)と申します。6歳で空手を始め、中3で全日本ジュニア大会で優勝しました。高1の時に新空手の大会で全日本優勝し、高2でキックボクシングのプロデビュー。デビューから9戦無敗のまま10戦目で当時の世界王者であった寺戸選手に敗れました。その後も試合を重ね、22歳で中国で開催された「英雄伝説」という大会で世界トーナメントに出場させてもらい、優勝して世界王者になりましたが初防衛戦で負けて王者から陥落。その後、再び挑戦して王者に返り咲きました。
―――ジュニア選手からスタートされて、プロの舞台でも王者になられたのですね!格闘技選手として輝かしいご経歴はもちろん、王座に返り咲いたお話など、伊澤代表の精神の強さを感じました。指導者としてはどのような道のりを歩まれたのでしょうか?
 
伊澤 25歳の時、それまで所属していたフルコンタクトカラテスクールから独立して、茅ヶ崎に空手道波空会と湘南アルト(キックボクシング)を設立しました。プロとして試合をしながら教え子達に指導し現在会員は100名近くいます。
 

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ーーー空手道場、そしてキックジムにもいろんなタイプのところがあると思うのですが、伊澤代表が目指していらっしゃるのはどのような道場/ジムですか?
 
伊澤 私が目指してるのは『湘南の人達に格闘技や空手を愛してもらう事』です。
私が幼いときからやっている空手や格闘技は本当に素晴らしく楽しいのでそれをより多くの人に知ってもらいたいと思ってます。
 
 
ーーー湘南といえばどうしてもサーフィンのイメージが強いのですが、その地にあって、格闘技の魅力を伝えていかれるというのは素晴らしいですね!
 
伊澤 サーフィンも私自身幼い頃からやっているので大好きです。格闘技や空手も本当に素晴らしいので、皆に知ってもらいたいと思ってます。
 

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更新していく
―――今回、伊澤代表の道場を取材させていたたくことになったきっかけは、代表の合格をきっかけに全ての指導員がスポーツ安全指導講習とテストを受けてくださったことにあるのですが、初回受講時(2021年版)の率直なご感想をお伺いさせてください。
 
 
伊澤 正直怖さ、ショックが大きかったです。指導員として高校生の頃から指導させてもらっていて10年経ちますがまだまだ安全について知らないことがたくさんありました。
 たまたま今まで大きな事故が起きなかったので、運が良かったですがなにも起きない確率は0では無かったので色々と勉強させてもらい改めて『知らなかったことが怖い』と本当に思いました。まずそれが勉強させてもらいなにより感じた素直な感想です。
 
 
―――責任あるお立場の方の率直なご感想を伝えさせていただけるのは、本当に有り難いです。
 
 
伊澤 もちろん、「今回勉強したから100%安全になる」という訳ではないので、勉強は今後も続けて行きたいと思いました。
 
 スポーツ安全指導推進機構のテストは合格から期限があるため更新が必要で。でもそこがとても良いところだと本当に思いました。改めて学ぶいい機会にもなりますし、最新の救命措置やエビデンスなどは、年々向上していくことも、よくわかりましたので。
 
 
―――おっしゃる通り、スポーツ安全もデータの集積と共に変化しますよね。昔は「練習中に水を飲んだら弱くなる」といった危険な情報が常識になっていたこともありますから。
 
 
伊澤 そういう意味でも、古い常識を更新していくのは大切だと私は思います。
 
 
―――安全指導の講座では、命に関わる重大な事故とその防止がかなりのウェイトを占めるわけですが、伊澤代表が特に印象に残った、もっといえばビビったテーマはどれでしたか?
 
 
伊澤 心臓震盪はタイミングで起きる、胸だけではなく腹や背部でも起きる。また子供の脳は隙間が無く、出血したらすぐに危険な状態になるリスクがある。また子供の脳は血管が細い為、外傷に弱く出血のリスクが高い。などなどが特に印象に残りました。
 昔から指導させてもらっているのに知らないことがたくさんあり本当に怖く思いました。
 

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いちばん怖いことは、知らないこと
―――世の中には怖さを知らずに2才の子供に殴り合いの試合をさせてる指導者や保護者もいますので、知らないと怖いと感じることも出来ないですよね。
 
伊澤 本当にそう思います。いちばん怖いことは、知らないことだと改めて反省しました。
 
 
―――知ることによって、伊澤代表の安全意識が向上されたのでしたら、それは大きな一歩だと思います。講義、テストのあと、指導や安全対策に具体的な変化はございましたか?
 
 
伊澤 安全には配慮しながら、無理をさせない指導を心がけてきたつもりでしたが、今まで以上に責任者としてやるべきことが明確になりました。
 例えば、試合に出場した生徒の保護者の方には「頭を打つことは怖い」ことを具体的に説明し、経過を観察していただきつつメールで連絡を取り合っています。
 

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 あと出血等で血がマットについた際にはアルコールではなく次亜塩素酸ナトリウムを使うようにしました。肝炎ウイルス等にはアルコールは有効ではなく、次亜塩素酸ナトリウムが有効だ、とスポーツ安全指導推進機構の講義で学ばせてもらったので。
 

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 2021年の初回は、私とある指導員のふたりで受講させてもらったのですが、その指導員と一緒に復習みたいな感じでたまにテストの問題を出し合ったりして忘れないようにしてます。

 

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ーーーそのような変化があったのですね。伊澤代表のジムは、スポーツ安全指導推進機構の定める講座とテストを、ジムの指導員全員に義務化する、という方針を2021年に決定されました。義務化に至った背景を教えてください。
 
 
伊澤 昨年テストを受けさせてもらいこれはとても大切なことだと思ったからです。テストを受けさせてもらい、すぐに「来年は指導員全員に受講させる」と決めました。

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普通に生活してたら味わえない幸せ
―――伊澤代表から、指導員の皆さん全員、さらには横への拡がりで他のジムの方からも受講・受験の希望があり、改めて伊澤代表が周囲から信頼されていることがよくわかりました。
 いままでジュニア選手、アマ選手、またプロ選手としてご活躍されたわけですが、「格闘技をやってきて本当に良かった!」と実感されることはありますか?そして、格闘技の醍醐味、格闘技の魅力とはなんですか?
 
伊澤 格闘技をやってて良かったと思うことは本当にたくさんあります。
 試合に勝った時、試合に勝って応援団が喜んでくれた時、道場生が「空手が大好きなんだ!」と話してくれたとき、道場生が大会で勝った時など、普通に生活してたら味わえない幸せが沢山あります。
 本当に格闘技をやってて良かったし、格闘技に出会えた自分は本当幸せだなと思ってます。

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 そして、何といっても格闘技の魅力はやはり闘うことです。やっぱり闘うことが私はとても好きです。
 練習でも、試合でも、身体ひとつでお互い殴り合ったのに、なぜか終ったら仲良くなれる。そんな格闘技にしかない魅力がたまりません。

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強くて優しい人を増やしたい

ーーー素晴らしいです。その魅力をたくさんの人たちに知ってほしいと思います。

 

伊澤 ありがとうございます。そのためにも安全の向上は急務の課題だと考えています。

 

―――伊澤代表は、指導者として、どんなことを生徒さんに伝えていきたいですか?また今後のビジョンについても教えてください。

 

伊澤 私が伝えたい事は空手の楽しさ、格闘技の楽しさです。そして皆に心も身体も強くなってもらいたいと思います。優しさだけでも無く、強さだけでも無く両方を兼ね備えた道場生を増やして地元で『うちの地元は波空会があるから安心だ』って、思われるようにするのが夢です。

 

ーーー素晴らしいです。

 

伊澤 悪いやつが居たら波空会の道場生がその人をやっつけて、困ってる人が居たら助ける。みたいな強くて優しい人をたくさん地元に増やしたいと思ってます。

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ーーー波空会の人たちが地元を守る!それは本当に素晴らしい志ですね。カラテ本来の意義にも感じました。最後に、格闘技実践者や指導者の皆様に、メッセージをお願いします!
 
伊澤 私は格闘技実践者でもあり、同時に指導者でもあります。そして指導者にとって安全指導を学ぶことは必要とわかると思いますが、実践者もとっても必要だと私は思います。
 
 安全指導を学ぶことにより、より一層身体のことについて学ぶことが出来、さらに強くなる為のヒントにもなりました。また自身が怪我をした時にどのようにすればいいか?根性出して頑張るのか、それともゆっくり休むのか?これは実践者なら誰もがぶつかる悩みだと思います。
 根性出さなきゃいけない時もあるだろうし、しっかり休まないといけない時もあるし、とても難しいです。でも、そんな難しい壁にぶつかった時のヒントが得られる気がします。ですので、スポーツの安全指導を学ぶことによって、強くなる為の近道になる、と私は思います。
 
ーーー貴重なインタビューをありがとうございました。ますますのご活躍を楽しみにしています。
 
伊澤 こちらこそありがとうございました。格闘技、カラテを愛すればこそ、安全性を高めて参ります!
 
空手道 波空会
 
 

現役ドクター3人座談会③ コンタクトスポーツの悲しき代償

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ーーー前回の3人のドクター対談は、おそらく日本格闘技界で初めてのことで、お陰様で反響も大きかったです。今号でも引き続き、3人のドクター対談をお願いしたいと思います。格闘技・武道が広まり、いろんな方が楽しめるようになった一方、練習や試合でダメージが蓄積してしまい、続けたいのに続けられなくなる方も少なくないようです。そこで、お三方に、「格闘技が内包するリスク」について、伺えたらと思います。まずはDr.F、よろしくお願いします。

 

Dr.F そうですね、格闘技や武道で当たり前に行われているけれど、あまり危険性が認識されていない代表格として、とりあげたいのが「パンチドランカー」の問題です。

 

今までの連載でも書籍でも、何度も言及してきたんですけど、パンチドランカーは本当に恐ろしいです。人間が人間たる中枢が壊れてしまうわけですから、ありとあらゆる問題が、その人の人生に降りかかってきますし、家族や周囲まで巻き込む事例、犯罪や自殺に至った事例もあるんです。

 

 

―――え?犯罪や自殺もですか?

 

Dr.F はい、K1ヘビー級で大活躍した人気選手、マイク・ベルナルド選手は重度のうつ病を患い、何度も自殺未遂をした挙句、薬物の大量摂取で(最後はナイフで首を切ったという情報もあり)、非業の死を遂げています。

 

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K1ベルナルドさん急死、薬物大量摂取か - 格闘技ニュース : nikkansports.com

 

守秘義務も絡むことなんで、僕も詳しい病歴を把握しているわけではないですが、

 


・もともと「うつ病」の素因があったのか? 

・「パンチドランカー」として発症したのか? 

うつ病がベースにあって打撃でさらに悪化したのか?

 

に関しては、明言できませんが・・・。確実に言えるのは、パンチドランカーの症状のひとつにうつ病などのメンタルの変化がある、ということですね。

 

 あの極真、K1の英雄であった鉄人・アンディー・フグを壮絶KOでぶっ倒した、超人ベルナルドが、、、と思うと、今でも何とも言えない切なさがこみ上げてきます。今後、パンチドランカーを1例でも減らすためにも、彼の事件を風化させてはいけない、と強く思います。

 

―――たしかに有名選手の自殺のニュースは当時衝撃でした。そして、その検証も大切ですね。パンチドランカーとは医学的にはどんなものなのでしょうか?

 

Dr.F パンチドランカーは正式には慢性外傷性脳症(CTE)と言います。慢性的に脳にダメージが蓄積され、脳細胞に不可逆的な変化が起きる病態のことですね。CTEでは、脳が揺らされた結果、脳全体の細胞がダメージを受けます。

 

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この写真をご覧ください。左がNormal Brain(いわゆる正常の脳)、右がAdvanced CTE(進行した慢性外傷性脳症)で、これはアメリカで解剖された実際の脳の断面です。

 

ーーーうわぁ・・・、素人目にも、明らかに右の脳が委縮しているのがわかります。

 

Dr.F そうなんです。慢性外傷性脳症では、脳細胞がびまん性に、つまり特定の部位ではなく、全体的に壊れていくんです。ですから症状の出方も様々で、多種多様です。

 

 代表的なものとして、身体の震え、呂律が回りにくい、バランス感覚が悪い、手先が不器用になった、物忘れがひどい、集中力が落ちた、判断力が低下した、感情がコロコロ変わる、うつ的で悲観的、暴力や暴言、攻撃性が強く怒りっぽい、社会性に乏しく幼稚な傾向、性的羞恥心の低下、病的な嫉妬、被害妄想的なとがあげられますね。

 

―――元格闘技者、元ボクサーの犯罪のニュースが目立つのも、やはり関連があるんでしょうか?

 

Dr.F 現時点で、「どこまで相関があるか」についてはわかりませんし、環境や背景の問題も絡むので難しいところですが、「全く無関係」とは言い切れないでしょう。格闘技ドクターの立場としては、1%でもその可能性が考えられるならば、ゼロに近づける方法を考えて、予防や治療を実行する、知識を共有する、ということになります。

 

―――それは実践者にとって大切ですね。藤崎ドクター、鞆ドクター、今、話題に上がりました慢性外傷性脳症(パンチドランカー)の問題については、どのような見解をお持ちですか?ぜひお聞かせください。

 

藤崎 「慢性外傷性脳症」はボクシング等の打撃系格闘技だけに限らず、「コンタクトスポーツにより繰り返される脳震盪、頭部への外傷から脳に障害をもたらすこと」と定義されていて、二重作先生が仰ったように様々な症状が出てきます。

 

この「慢性外傷性脳症」に関しては2017年に米国から衝撃的な報告がありました。元アメリカンフットボール選手の死後の脳研究で202名のうち177人(86%)に慢性外傷性脳症の所見が見つかったということでした。このうち最高峰のNFLプロフットボール選手には111人中110人(99%)に慢性外傷性脳症の病変がありました。

 

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米アメフト選手の99%が脳障害 米国最大人気スポーツに再び衝撃: J-CAST ニュース【全文表示】

 

―――そんなに高いパーセンテージだったんですね!驚きです。

 

 

Dr.F NFLの元選手たちが訴えたニュースは目にしていましたが、改めて数値を伺うと、ビックリです!

 

藤崎 もちろん、この研究に提供された方々はアメフト選手のごく一部の方々で、生前に神経症状があった方々が多かった可能性もあるため、アメフトと脳障害の直接の因果関係を示すことは出来ません。

 

 現時点ではコンタクトスポーツと慢性外傷性脳症の研究は十分とはいえず、「関係はあると推定されるが、その原因とメカニズムはまだ不明」というのが現状です。ですから、日本の格闘技界でもこういったリサーチが必要かもしれません。

 

 

―――不明だからこそ、予防や研究が大切、ということですね。

 

 

藤崎 おっしゃる通りですね。練習の時から様々な防御技術を磨くことが重要だと思います。「打たれないことがパンチドランカーの最大の予防策」だからです。スタミナが切れたときにガードが甘くなったり、フットワークのスピードが落ちたりします。

 

 スタミナが落ちた時でもしっかりと相手の打撃から防御するテクニックを身につけることが大切だと思います。また、前回も話題にあがった過度な急激な減量は、反射神経を落とします。そういった減量を避けることも、ダメージを蓄積させない重要なポイントになります。

 

鞆 私も、練習の時に防御技術を磨くことが非常に大切だと考えています。

 アマチュアボクシングのリングドクターをしている時、新人戦では防御がしっかりと出来ていない選手が多く、顔面でもろにパンチを受ける場面が多く、実際にRSC(レフリーストップ)も多いため、とても気を使います。アマチュアボクシング連盟でも普段から指導者には「防御技術をしっかりと身に付けるように」と指導がなされてますが、それでも十分とは言えない状態です。

 

 練習などでは、実際に頭部への打撃は極力避けるように、ジムでも指導を徹底しないといけないと思います。ボクシング選手にパンチドランカーが特に多い事を考えると、指導者を含めて徹底が必要だと思います。

 

藤崎 鞆先生、ありがとうございます。個人的興味で恐縮ですが、ちなみにアマチュアボクシングではヘッドギアがなくなりましたが、それに伴う試合内容の変化はございましたでしょうか。

 

鞆 藤崎先生の御指摘通り、アマチュアボクシングではAIBA国際連盟のルール変更に伴い社会人に関してはヘッドギアが数年前になくなりました。それによる、試合内容での変化ですが、実際の統計は不明ですが、私の印象としては少しRSCが増えたような気がします。

 

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ボクサーたちが「ヘッドギア」を着けなくなった理由 | WIRED.jp

AIBA国際連盟が変更した理由はヘッドギアをしていない方が、ダメージが少ないという医学的なデータが一つの理由とされています。物理的には一撃のダメージの差は当然ヘッドギアをしている方が少ないんですが、少ないが為に、なかなか倒れず、頭部への攻撃を受け続ける為、結果としてダメージの総計が大きくなるのではないか、という推察がベースになっております。

 

Dr.F 両先生の話題は、僕も気になっておりました。安全のためのヘッドキアが、データの蓄積により、被弾の確率が上がるため外したほうが安全かも、というのが発表当時の説明だったと記憶しています。

 

 「安全は生き物である」ということ。つまり、ある結論が、データによってくつがえることがある、ということを僕も含めて、関係者は知っておく必要があるな、 ということを感じました。

 

(④に続く)

 

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Dr. Fの格闘技医学[第2版] | 二重作拓也 |本 | 通販 | Amazon



現役ドクター3人座談会② 失われた命へのマウンティング

 

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( CNN 13歳のムエタイ選手、ノックアウトされ死亡。少年保護の規制強化へ

https://www.cnn.co.jp/world/35128692.html )

 

Dr.F 藤崎先生、鞆先生、真っ直ぐなご意見をありがとうございます。頭部の脆弱性を考慮した場合、僕もパンチ、キック、投げなどの直接の外力は危険だと思います。これに関連して、もう一つ懸念される出来事を目にしました。

 

――懸念される出来事とは?

 

Dr.F あるフルコンの指導者がムエタイの子供が亡くなった事件をシェアしてたのですが、「それと比較してフルコンは安全だ」という論旨の文章を記していました。僕は、その論調にも凄く危険を感じたんです。

 

藤崎 それは怖いことですね・・・。

 

 Dr.F ゾッとしました。ひとつの命が亡くなっているのに、それを題材に自分のところのルールの優位性を語る態度、目に見える試合ルールだけを比較して論じている方が指導している事実、自分も他人の小さな命を預かっている意識の欠如。そんなものを感じてしまったのです。言ってしまえば、失われた命へのマウンティングなのですが、それにも無自覚でした。

 

どうしてもこの業界は、「うちはよそとこのように違う」というところに収束させがちな傾向を感じ、いたたまれない気持ちになりました。

 

 

 鞆 それはよくないですね・・・。「安全性についての相対的比較」は非常に危険だと私は思います。仮に、死亡事故や脳に障害が残るなどの事実がゼロであったとしても、だから安全と言い切れるものではありません。やはり最大限のリスク管理をしないと悲しい事故は防げないと思います。藤崎先生はいかがですか?

 

藤崎 二重作先生、鞆先生のお考えに賛同です。成人の打撃系格闘技が先に存在しているため、どうしても子供にも同じ競技を当てはめてしまいがちです。こういった問題の解決案として競技ルールそのものを変更するという策はないでしょうか?

 

私がお世話になったボクシングジムでは、独自に開発した攻撃判定装置で直接打撃を当てない「健康ボクシング大会」を開催しています。これはヘッドギア、ボディプロテクタに受信機、グローブに発信器がついていて有効な打撃を判定する機器です。

 

Dr.F その情報は初めて伺いました、興味深いですね!

 

 藤崎 なかなかの機器だと思っています。それは格闘技ではないと言われそうですが、一定の年齢まで頭部・顔面への打撃は控えた方が良いことは事実だと思います。

 

 

鞆 格闘技そのものではないかも知れないけど、格闘技で安全に強くなれる可能性はありそうですね。

 

Dr.F 対人でお互い自由に動いてる中での、技の正確性や駆け引きを、毎回、脳細胞を犠牲にしながらやっていては弱くなります。弱くなる練習、ダメージが大きい練習をいかに減らすか、は重要なテーマです。

 

藤崎 確かにそうですね。「安全性の相対比較」に関してですが、どの世界、どの業界においてもこの「相対比較の罠」が潜んでいます。

 

魅力的な競技として普及を図る際、強さをストロングポイントとする団体が出てきます。しかしながら安全管理が不十分だと、情熱を捧げた指導が残念な結末に至る可能性も高くなる。ですから競技全体の安全性にも十分な配慮が必要す。特に少年・女子では安全性が最重要であることは言うまでもないです。

 

鞆 私はアメフトのチームドクターもしていますが、アメフトでは頭部外傷による脳震盪に対してSCAT(スポーツによる脳震盪評価)を使用して、安全性を保つような努力をしています。

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マチュアボクシングにおいても、本来SCATを使用すべきと考えます。子供に対しては、何倍も安全性を考慮しないといけないと思いますが、最低でもSCATと同様レベルの安全確保はすべきです。

 

ーーー先生方から、安全面の管理の重要性を伺うことができました。実際に、ドクターとして関わった経験などから、危険な場面を経験されたことはありますか?

 

藤崎 ある世界王者が計量失敗で試合前にベルト剥奪された試合がありました。私はリングサイド席に観客として座ってました。明らかに減量苦からコンディションが悪く、全く本来の動きが出来ていませんでした。

 

当然、防御の反応が遅れますので危ないパンチのもらい方をしていました。凄く危険だな、と思って3Rくらいで試合は止めた方が良いと思いましたが、結局9R(TKO)まで試合は進みました。どう見ても試合が出来るコンディションではなかったです。プロは興業という側面があるので難しい点がありますが、選手生命を考えると非常に考えさせられる試合でした。

 

Dr.F 防御反応が遅れる、を見逃されていない視点に感服しました。コンディション不良は、筋力やパワーよりも、反応速度により顕著に現れる。これは藤崎先生のご経験と医学知識から得られる公式のひとつです。無理な減量をした選手は、体内でどんな変化が起きるのか、内科的側面から解説いただけますか?

 

藤崎 短期間に過度の減量をした場合、極度の脱水状態となっている可能性が高いです。このような状況下では、強い倦怠感、悪心、嘔吐などの症状が出ます。脱水症は頻脈もたらし、体温調節に影響を与えます。

 

また、脱水症では持久力が低下します。パフォーマンスに最も重要とも言える脳神経系の反応速度も脱水症で低下するとされています。

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新百合ヶ丘総合病院サイトより引用 

https://www.shinyuri-hospital.com/column/co-medical/column_riha_201910.html)

 

Dr.F ありがとうございます、脱水状態自体が危険な上、その状態での試合はハイリスク、というわけですね。

 

僕も臨床上、入院患者様の下痢などによる脱水に遭遇しますが、電解質(ナトリウムやカリウム)の変化は、外から一切見えません。早い段階で血液検査を行い、輸液などで補正しないと、場合によっては命を落とす危険もあります。

 

選手が体重が落ちず、サウナで頑張りすぎで意識消失し救急搬送、という例がありますが、「外から見えない状態」は特には理解されづらいな、と感じます。

 

―――鞆先生、は医師として現場で肝を冷やしたご経験はございますか?

 

鞆 私がリングドクターをしている現場はアマチュアボクシングなので、プロに比べると、比較的安全性は確保されているとは思います。試合前に体調をチェックする検診があり、試合後にも全員検診があります。試合中も有効な打撃があるとすぐに中断します。試合の中断はかなり早い段階で行われます。むしろ試合中よりも試合後の方が気になることがあります。

 

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―――試合後、ですか?

 

 鞆 そうです。私から見て「けっこう打たれたなぁ」と感じる選手も、自覚はほとんどありません。でも、実際は何度も頭部に打撃を加えられた際に、脳の微細な血管が損傷している可能性があります。その状態で、さらに激しく頭を動かす事によって、出血が拡がり、脳出血クモ膜下出血に繋がることが想定されます。

 

私は「試合後は絶対にジャンプしないように」いつも話しています。また、勝った場合でも、試合後は激しく動かないように注意しないといけないです。

 

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(全血管ネットワーク可視化に成功 東京大学より引用

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0111_00016.html

 

Dr.F なるほど。試合後に車を運転してはいけない、24時間一人になってはいけない、ということは今までも伝えてきたつもりでしたが、「ジャンプしない」は盲点でした!

 

―――先生方、現役ドクター3人による座談会、どんどんとテーマが出てきて、どれも有意義で驚いております。ぜひこの続きは次号にてお願いします。

 

(③へ続く)

 

①はこちら

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スポーツ、格闘技の安全向上を。

格闘技医学 第2版

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GO三浦 崇宏×Dr.F 越境対談 その2 ~言葉の解像度~ 

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ビジネスの最前線と格闘技医学の景色が交錯する、越境対談パート2。アンディー・フグの代名詞、「カカト落とし」の解析から、ビジネス、そして運動学習、と話は一気に加速していきます! 

 GO三浦 崇宏×Dr.F 越境対談 その1 ~言葉を変えると思考が変わる~

こちら

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Dr.F (アンディ―・フグは)左でかかと落としをすると同じ方向だから右のローが蹴りやすい。それまでの選手は、左でハイを蹴って右でロー、つまり逆の動きをしないといけないから、ワンテンポ多くなってしまっていたんです。それだと1、2のテンポだったのが、フグは1、1.5のテンポでローにつないだ。カカト落としは相手にガードを上げさせてフリーズさせるのが目的だったんです。

 

三浦 チョー面白い!

 

Dr.F その後に正道の大会に出たときは、見事にかかと落としでKOしてるんです。YouTubeで検索したら出てくると思いますが、えげつないぐらいに頸部や顔面に当たってKOしてるんですね。ですから、十分倒せるだけのクオリティーの技なんだけども、次もしっかり準備してある、という。

 

三浦 メチャクチャ面白いですね!

 

Dr.F 逆に「かかと落とし」という言葉が出回ったら、今度はフォロワーが「かかとを落とす」ようになったので、アンディのカカト落としとは違う技になっている。技自体が変容してしまってるんです。

 

三浦 柔道でも「袖釣り込み腰」という技がありますけど、あれも選手によっては背負い投げのような形で、腰を使ってなかったりしますからね。

 

 

 

Dr.F おおお、そうなんですね!

 

三浦 いろいろありますよね。「体落としって、実は手技だよね」とか。言葉によって本質が明確になることもあれば、言葉によって体の動きが分散していくこともあるということですね。

 

Dr.F ほんとですね!三浦さんは「GOという会社は企業に対するドクターなんだ」「ウチは業者ではない」ということをおっしゃってましたよね。三浦さんは経営者として、またクリエイティブな人としての立ち位置を言葉として明確に表してるなという気がして。今、いろんな分野で「言葉のアップデート」が追いついてないように感じることがあるんです。フグの「かかと落とし」という技にしても、そういう名前なんだけど実は指先でひっかいてるんだよ、とか、「体落とし」は手技でもあるよ、という伝え方をした方が、ズバッと伝わるんじゃないかと思ったりするんですが・・・。

 

三浦 なるほど。抽象的すぎて、本質を捉え切れていないということですね。

 

Dr.F そうなんです。だから格闘技医学で、共通言語を持ち込むことで今ある言葉をアップデートしたらどうなるんだろうというのを、やっています。「こう打て」ではなく、「腕を●度の角度で回内させて打つ」「伸張反射を使う」といった感じのグローバルな共通言語で表すことが重要なんじゃないかと。

 

三浦 それはある意味、「格闘言語学」ですよね。体の動きを抽象化して、それを言語でアウトプットするときに、どれだけ言葉の解像度を高められるかということですね。

 

Dr.F 「言葉の解像度」、ですか!まさにそれです。言語化可能なところを突き詰めると「ここから先は分かりません」という境界も分かるはずです。かかとを落とす技だと思っちゃってたら、そこから先に進化できないから、言葉で可能性を閉ざすのは勿体ないと思うんです。

 

三浦 なるほど、本当にそうですね。ところで先生は、いつから格闘技が社会で役立つと思うようになったんですか?

 

Dr.F いつだろう……。選手のときはそんなこと考える余裕もないですからね。

 

三浦 選手としては、空手だけなんでしたっけ?

 

Dr.F 空手と、柔道の経験もあって。友人から「柔道部が潰れそうだから、二重作、1年だけやってくれない?」って頼まれまして。ものすごく勉強になりました。空手家と全然違う、柔道の視点をものすごく学びましたね。

 

三浦 柔道が空手に生きたことと、空手が柔道に生きたことを、それぞれ聞いていいですか?

 

Dr.F 柔道を練習すると、相手を見た瞬間に、バランスがどっちにあるかということを見て取れるようになるんです。柔道が空手に生きたのはそこですね。打撃だけだとあまりその感覚がないので、右でも左でも蹴りたいように蹴っちゃうんです。ローキックなんて思いきり体重が乗った側を蹴らないと効かないのに。

 

 だから肌感覚として、どっちに体重が乗ってるのかすぐに分かるようになったことは役立ちました。あと、空手とか打撃系は「点」の競技なんですけど、寝技とかで「面」の練習が生きるんです。「点」の練習ばかりだと、石垣が小さいお城みたいなもので、土台の強さが無いんです。空手は組み手争いに有利だった気がします。柔道は組んでから始まるけど、空手はその手前が勝負の距離なので。

 

三浦 面白いですね。僕も本当に、格闘技から仕事のことを学ぶ場面がすごく多いんですね。先ほどの「かかと落とし」、それ自体も一撃必殺の威力がある技なんだけど、実はその後のローキックを当てることの方が重要だというお話のようなことは、それこそビジネスにおいてもメチャクチャ重要なんです。テスラという会社がありますよね。あの会社は何で儲けてるか御存知ですか?

 

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Dr.F 考えたことないです(笑)。

 

三浦 テスラって、電気自動車の会社ですよね。世の中の人は、あの会社は電気自動車の売り上げで成り立っていると思ってるんですよ。その売り上げももちろんあるんですけど、彼らは電気自動車を作っていることによって、二酸化炭素の排出を減らしていますよね。

 他の自動車メーカーは、テスラにお金を払って「二酸化炭素を排出する権利」を買っているんです。あの会社の収益の半分は、その売り上げなんですね。だから彼らは、「消費者に電気自動車を売っている会社」と見せかけて、本当は「自動車メーカーに炭素排出権を売っている会社」なんです。

 

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Dr.F なるほどー!知らなかったです!

 

三浦 まさにこれがかかと落としとローキックの関係になっていて、見映えのする目の前の大きな商売の裏で、地道だけど儲かる商売をきちんと考えておくと、その会社は儲かりますよと。だから先ほど、かかと落としのお話を聞いて、ビジネスの構造にすごく近いなと思ったんです。

 

Dr.F すごすぎる!

 

三浦 僕が今、小さい会社を経営してそれなりにやらせてもらっているのは、格闘技を学んだことと、抽象化する能力のおかげなんです。この2つがどっちかだけだと、たぶんダメで。二重作先生もたぶんそうだと思いますが、目の前に起きている現象を一度構造化して、「この構造って、自分が今抱えている別の問題と同じだよな」と見抜く力が大事なんでしょうね。

 

Dr.F なるほどー!勉強になります!言われてみれば、僕も、こっちのことを抽象化して、違うところにもっていくと、かえってよく理解できたり、ということをやっている気がします。話がそれるかも知れませんが、これは僕も最近、調べていて分かったことなんですが、スポーツなんかは、「AをやってBをやってCをやる」という練習方法よりも、ABCをアトランダムにやる方が成長が早いという研究結果があるんです。

 

三浦 具体的にどういうことですか?

 

Dr.F 例えばテニスだと、短いサーブ、長いサーブ、中間距離のサーブと、3種類ありますよね。これを、まず短いサーブを練習して、つぎに長いサーブ、それから中間距離と順を追ってやっていくところが多いんですが、そうじゃなくて「短いの! 長いの! 短いの! 中間!」という風にアトランダムに並べてやっちゃった方が、実は成績がグンと伸びるんです。

 

 今、三浦さんがおっしゃったことがまさにそれで、違うところで培ったものを別の場所で生かすというのは、成長の本質なんだと思いますね。(続く)

 

 

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現役ドクター3人座談会① 医師から見たジュニア格闘技の危険性

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 (左上:鞆ドクター、右上:藤崎ドクター 左下:Dr.F 右下:座談会収録のファイト&ライフ誌)

 

―――格闘技・武道の経験を有しながら、医療の現場の最先端で活躍されているドクター座談会をお届けします。Dr.Fの知古の友人でもあり、方向性を同じくする藤崎ドクター、鞆ドクター、Dr.F、どうぞよろしくお願いします。まずは、自己紹介をスタートに、どんどんお話を進めていただければと思います。

 

藤崎:藤崎 毅一郎(ふじさき・きいちろう)と申します。私は二重作ドクターと同じ東筑高校で過ごしましたが、お互いがスポーツドクターを目指し医学部受験をしていたことは当時知らなかったと思います。クラスも違ったし、1学年470人もいたので、そこまで接点はなかったんですが・・・実は同じ方向性で、しかも同じ2浪生活を過ごしていたわけです(笑)。

 

 小学校から高校までサッカーに明け暮れまして、その中で怪我もしました。大学では人生最後のチャンスとそれまで見ることが大好きだったボクシングをアマチュアで経験する機会を得ました。アマチュアで公式戦を3試合させて頂きました。とてもボクシング経験者と呼べるレベルには達しませんでしたが、それまで球技、集団競技を長くやってきた私にとっては、個人競技、格闘技に対する視点が大きく変わった出来事でした。

 

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―――そうだったのですね。現在、内科医としてご活躍なわけですが、内科を選ばれたきっかけなどはございますか?

 

藤崎:私は以前から整形外科を志望していたのですが、あえて整形外科を進路に選ばず、内科医を目指そうとしたのもこのボクシングの経験が一つの要因となりました。

 

Dr.F ボクシングがきっかけのひとつとは!個人的にも興味深いです。

 

藤崎:ありがとうございます。階級制のスポーツは試合に向けてウェイトコントロールをするわけですが、いわゆる「根拠の分からない経験的な減量法」は一切やりませんでした。当時は現在のようなインターネットは普及しておらず、かつての東ドイツナショナルチームが用いていたスポーツ栄養学、ウェイトコントロール法の翻訳書がありましたので、そういったものを参考にしたりしていました。そういった中で内科医を目指そうかなと思った訳です。

 

Dr.F 内科医・藤崎ドクター誕生は減量がきっかけだった、と!

 

藤崎:そうなんです!その後は大学病院等で救急医療や重症患者管理等を経験してきました。スポーツ医療との関わりがほとんどない環境でしたが、高校卒業後20年の時を経てDr Fに再会することとなりました。

 

――自らの減量の経験が、現在の道に通じたのですね。Dr.F、藤崎先生の印象はいかがでしたか?

 

Dr.F 元サッカー部のキャプテンですからね、身体能力はもちろん高いし、学業もおろそかにしていなかった。メジャースポーツにある種の引け目を感じていた僕にとって、彼がボクシングを選ばれた、というところに親近感を感じましたね。再会後は、スポーツの安全と健康というフェイスブックのグループで共にディスカッションを行ったり、「この問題、どう思う?」という専門的な相談に乗ってもらったりして、随分助けていただいています。

 

――Drならではの感覚を共有できる面があるのでしょうか?

 

Dr.F はい、その通りです!他人の命に関わる判断を日常的に行っているプロですし、さきほどの「根拠のわからないものはやらない」という一貫した態度は、医師として非常に信頼できる部分なんです。

 

藤崎:恐縮です、でも科学的、医学的根拠は、非常に大切になってきているように感じます。

 

――なるほど、そういう意味でも方向性が共有できる間柄なのですね!では、もうひと方のゲスト、鞆ドクター、自己紹介をお願いいたします。

 

鞆:鞆 浩康(ともひろやす)です。私は、小学生の時は野球をし、中学では野球部がなかった為ハンドボール部に所属しました。そこで個人競技もしたいと思い、極真空手を始めました。中学生の時はクラブ活動が終わってから道場に通うハードな生活をしていましたが、高校生になって極真空手のみになりました。受験勉強を理由に高校2年生で一旦空手も辞めました。Dr.Fと同じ高知医科大学に入学し、極真空手が楽しかった事が忘れられず、極真空手も再開しました。海が大好きで、ヨット部にも入り、更にサーフィンも始めた為、その頃の海にばかり行っていました。その時のあだ名は漁師です。

 

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Dr.F:確かに、同期でいちばん日焼けしてました(笑)

 

鞆:あははは、そうでした。診察、リハビリ、手術まで一貫して1人の患者さんと関われる事、自分は単に生きる時間の長さよりも、歩いたり、走ったりと元気な時間を長く過ごしたいという想いがあったのと、内科領域に関して何も診る事が出来ないのは嫌だったので、3年間は救急医療を行い、その後に整形外科医の道に進みました。

 

 整形外科の分野ではスポーツ整形外科を専門分野としています。理由は、スポーツの患者さんが求める高いレベルに応えたいという想いからです。私の格闘技を含むスポーツの患者さんに対するアプローチは、チーム医療です。現在は、休息療法・栄養療法・運動療法・手技療法・地域医療を5つの柱とした医療グループであるオルソグループ(

オルソグループ|皆様が生涯にわたり笑顔と元気であるように健康管理を担う究極の医療グループを運営しながら、日常診療、肩関節・骨折などの外傷を中心とした手術、ボクシングのリングドクター、アメリカンフットボール、バレーボール、野球、柔道などのチームドクター、その他もスポーツ現場での活動も行っています。

 やはり、私自身が極真空手をしているときには、常にどこかを痛めていましたので、格闘技の医療に対しては、特に思い入れがあります。

 

藤崎:元気な時間を長く過ごしたい、というコンセプト素晴らしいですね。グループの経営、そしてあらゆるステージに関わるチーム医療活動も興味深いです。Dr.Fとの関わりはどのような感じでしたか?

 

鞆:藤崎先生、ご評価ありがとうございます。

 

鞆:私が二重作先生と出会ったのは高知医科大学に入学した時ですが、一緒に道場で練習に励んでいました。先生は、空手がないと生きていけない位、空手が好きで、大学で同好会を作り、仲間を集めて中心になって練習をしていました。練習ではいつも笑顔で笑いながら、重た~い蹴りやパンチを自分に叩き込んで来ていました(笑)。ですから、Dr.Fとして活躍しているのを見て、必然と思いました。

 

Dr.F それ、一部、話盛りすぎです(笑)鞆先生は、ステップが速くて、捕まえきれなかったですから。とてもテクニカルなカラテをされていました。パッってサイドに動かれて、僕が追いかけた瞬間、前蹴りをグサッとボディーにもらったこと何回かあるんで。

 

鞆:よく覚えてますねー。

 

Dr.F そんなことしか覚えてません(笑)肝心の医学の授業のことは覚えてないのに(苦笑)

 

ーー先生方、ありがとうございます。いろんな話題が期待できるお三方ですが、先日、タイで13歳の少年がムエタイで死亡する、という痛ましい事故がありました。様々な背景や要因があるかとは思いますが、率直に子供の格闘技について、どのようなご意見をお持ちですか?

 

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Dr.F 非常に残念でショッキングなニュースでした。まず亡くなった選手については、心からお悔やみを申し上げます。同時に起きるべくして起きた事故だな、というのが正直な感想です。貧困で子供が試合で稼いで親を養う、というタイの事情があったとしても、基本、格闘技は子供用に出来てはいないので・・・。藤崎先生はいかがですか?

 

藤崎 私にとっても誠に心の痛むニュースでした。世界中のどこであっても起きて欲しくないのが、子供の事故です。格闘技の少年期において危険な点は、頭部の衝撃への耐久度が低いことです。大人より脳の損傷を起こしやすい身体構造と言えます。

 

靹 子供が亡くなるのはどんな理由でも悲しい事で、出来る限り防ぎたいですねぇ。私も子供は格闘技には向いていないと思います。

 

 藤崎先生の仰るように、子供は脳も骨もまだ発達段階です。肉体的にもフルコンタクトは良くないです。精神面において、礼節の精神や、相手を思いやる心を養うための時期だと思います。子供の時期は心と技を磨くのが優先だと思いますし、どんなに早くても高校生以降、通常は成人でないとフルコンタクトは賛成しにくいですねぇ。

 

 (②へ続く)

 

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Twitterと格闘技医学

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ーーーDr.Fのツイッターでのご活動について教えてください。

 

 ツイッターのアカウントを取ってスタートしたのはだいぶ前だったんですが、フェイスブックやインスタグラムなどいろんなSNSが出てくる中で、情報をどう発信していけばいいのかという悩みは常にあったんです。結局、知ってもらわないと進んでいかないことって山ほどあるんですが、フェイスブックはある意味閉じているというか、アカウントを持っていて僕のことを知っている方でないとなかなかアクセスできないという弱点がありますよね。

 

 一方でツイッターは、僕のことは何も知らなくても内容が気になるという方にも拡散できるというメリットがあります。そこでツイッターで、短い文章と画像によってまず情報を共有して、「知ってもらう」というところで何かが動き出さないかなと。そう考えて、2019年3月より、きちんと取り組むようになりました。

 

 もちろん、難しい側面もあります。まず第一に文章が短いこと。扱う話題が「命や健康に関わること」も含まれるので、ちゃんと説明しようとするとどうしても長くならざるを得ないんですよね。それから、多種多様な価値観の人が見ているということ。反対意見はあって当然ですし、格闘技医学の情報発信を快く思わない方もいらっしゃるでしょう。それでも知ってもらわなければどうしようもないことが多いので、関心を持ってもらうトリガーとして使わせてもらっています。

 

 テコ入れを始めた時点のフォロワーが2000人ぐらいだったんですが、わずか2~3ヵ月で3500人に増えまして、「知らなかった! 広めないとね」というようなコメントもいただくようになりましたので、ちょっとしたきっかけにはなっているのかなと思います。それから、多くのフォロワーを持って影響力のある方もリツイートしてくれたりするようになりました。著名な方々も、なぜか私のツイートを広めてくださっているというのは非常に心強いし、ありがたいし、もったいないですね(笑)。逆に身が引き締まりますよね。



ーーーなるほど、そのような経緯で、現在盛り上がっている、というわけですね。ここからはいくつかピックアップさせていただきましたので、ツイートの解説をお願いします。

 

 

リングに付着した血液、サンドバッグや砂袋、グローブや衣服に付いた血液には【次亜塩素酸ナトリウム以外は消毒効果が無い】ことは常識として共有されるべき内容。アルコールもリセッシュも肝炎ウイルスには効かない。しかもウイルスは数か月生きる。大会や道場・ジムが感染の温床となってはならない。

 

(Dr.F)格闘技の現場での血液の取り扱い方が、言葉を選ばずに言えば杜撰ですよね。血液が付いていることが鍛錬の証であるというような意識って、まだまだあると思います。血液感染で大変なことになるということ、でも知っているだけで大きく状況が変わる可能性があるということ、そして消毒には次亜塩素酸ナトリウム以外は効かないということが、このツイートを見ていただければ一目瞭然に分かると思います。その後はもう、次亜塩素酸ナトリウムを買ってきてジム、リングサイドに置くだけですよね。

 

 僕が関わらせてもらっている大日本プロレスでも、そうした取り組みは始まっています。他のプロレス団体、格闘技団体も追随せざるを得ない状況になっていると思いますね。「格闘技の現場で血液感染」という事例がニュースになるだけで、業界にとっては大ダメージになりますよね。そこをしっかり考え直していこうよという意味で、このツイートをさせていただきました。あともう一つの意味は、「知っているだけで人の命、人の運命を変えられる知識がある」ということの表明でもあるかなと思っています。




人間は否定語の処理が苦手。「怒らない」は「一度怒る様子を想起してから打ち消す」イメージとなる。怒らない、と頭の中で唱えるほど、「怒る」が増幅してしまう。「怒らない」よりも「常に穏やかに」のほうがイメージしやすい。「廊下を走るな」なら「廊下は適度な速度で」。言語の最適化は大切。



(Dr.F)指導の場だけでなく、家庭や学校でも「否定語+命令」という声かけをしてしまうことは非常に多いと思います。「下がるな!」と言われると、人間の脳は一度、下がるイメージを作ってから打ち消すんです。それよりも「1センチ前に出ろ!」と言われた方がいいわけです。「負けるな!」と言われると負けをイメージしてしまうので、それを言うぐらいなら「ここを何とか凌ごう!」と言う方が肯定的だし、適切な行動が見えてくるんですよね。

 「負けるな!」って言われても、そりゃあ負けたくはないですよね(笑)。「負けるな!」とか「諦めるな!」というのは本人に帰属することであって、周りから言われても苦しいだけなんですよ。だから言葉というよりも、その背景にある思念の伝え方によって大きな違いが出てくるんです。表面上でいえば「言葉の選び方」、もっと深く言えば「思考」ですよね。

 

 生徒や弟子はもちろん、自分の子供であっても、やっぱり他人ですから。そこに気持ちを伝える時に紡ぐ言葉が否定語というのはどうなのかということですよね。「戦争はいけません」というのも、やはり一度は「戦争」をイメージすることになるわけで、それは果たして脳にとっていいことなのかどうか。

 

 このストレスフルな現代社会にあって、ネガティヴな言葉に引っ張られる、ってことはあると思うんです。特にSNSが出てきてからは、誹謗中傷やストレスの捌け口としての発信に、歯止めがかからなくなってしまった。

 

 そういう中で、頭の中にある言葉を見直す、特に否定語を極力排除していくというのは、脳の機能にもプラスだと思いますし、行動にもつながりやすいと思うんですよね。脳の中に「さざ波の立っていない、きれいで静かな湖」があるようなイメージであれば、イヤなことがあっても瞬間的にそれを思い出すことによって、変わってくる気がします。



大自然の中に身を置くと心身の調子が良くなることがあるが、森林浴を通じて免疫系に関わるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)活性が上昇した、抗がんタンパク質の濃度が上がった、という実験結果がある。木々の葉が擦れる微小な音の波が、脳や身体にプラスに作用するのでは、と推察されている。

 


(Dr.F)格闘技は特に室内競技の要素が強いので、時々でも大自然の中に身を置くことは大事ですよね。合宿とか寒稽古とかがそれに当たるんでしょうけど、それ以外のタイミングでもやる必要があると思います。グレイシー一族なんかはこういうことを伝統的にやっていたわけですが、人間の耳には聞こえないぐらいの波動が脳にはすごくいいと言われていますし、そこに希望を持っていいのではないかという気はします。

 

 僕も含めて、今、多くの人たちが寝る前やヒマな時に何をしているかというと、スマホを見ているんですね。これは僕自身の体験なんですが、スマホを見ている時に操作を間違えて、カメラで自分の顔を撮ったことがあったんですね。その写真を見ると、すごい顔になっているんです(笑)。顔のパーツがギューッと中心に寄ってしまっているんですね。そうなってしまっている人は少なくないんじゃないかな。

 

 戦うということは遠くも見なければならないはずですが、数十センチ先ばかりをジーッと見ているというのは、目にも悪いし脳にも悪いですよね。ただ、スマホなしでは生活が成り立たない時代になっているのも事実ですから、せめてスマホやPCなしの時間を積極的に作っていく必要があると思って、これを書きました。

 

 現代はいわゆる「科学トレーニング」も発達していて、そうなると室内で行う割合が増えそうですが、「科学」とはそもそも宇宙とか地球とか、この自然を理解するためのツールだったはずなんです。だから「科学」=「人工的なもの」「研究室内でのもの」というのは決して正しいイメージではないんですよね。その意味で「科学的トレーニング」を「自然」と対立させてはいけない気がします。

 

 なぜこのツイートを書いたかというと、「練習すればするほど強くなる」という幻想がまだまだ根強いからなんですよね。強くなるためには、例えば練習から離れて釣りに行ったり、うまいものを食べに行ったりということも必要だし、その効果は大きいんですよね。だから道場に閉じこもるのではなく、「人として強くなる」環境にも身を置く必要があると思ったんです。



KOは「戦いを終わらせる技術」に他ならない。判定勝ちしか狙わない選手は自分の戦いを自分で終わらせてない。時間が来れば第3者が勝敗をジャッジする。そうなると、どうしても「勝ってるように見せる技術」が混じる。倒せる選手が人気なのは、派手なだけじゃなく「KOの困難」に向かっているから。

 

 

(Dr.F)KOはやっぱり格闘技の華だしカッコいいものだし、僕も46歳の今になってもそれを追い求めている部分があります。

 最初から倒すのは諦めて、ポイントで勝つとか、勝っているように見せることも可能ではあります。例えばヒザ蹴りを入れる時だけ気合いの声を出せば、見ている人にビジュアルだけでなく聴覚でもアピールしているから、旗が上がりやすいんです。あるいはワーッと攻め込まれた時に、最後に一発だけドンと返せば、すごく効果的に印象づけることができる。そういう、「強く見せる」技術を追求していくことは、それはそれでメチャクチャ面白いんですよ(笑)。

 でも、チャンスがあればいつでも倒しに行くという選手は、やっぱり人気が出ます。それは、難しいことに挑戦することで共感を呼ぶからなんですよ。大事なのは「倒しに行く」というマインドですよね。

 それに、勝負を自分で終わらせるというのは格闘技、武道の本質だと思うんですね。戦いというのは、長引けば長引くほどよくないんですから。それに、例えば3分5Rの試合でも、開始10秒でKOすれば自分で試合を終わらせることができるわけですが、5Rが終了した時点で、そこに判定という形で他人(ジャッジ)が入ってくることになります。そこに自覚的だろうかということです。

 それと、これは少しツイートから離れますが、セコンドがタオルを投入すること、レフェリーが迅速に試合を止めることが、もっと評価されるようにならなければいけないと思っています。意志に反して試合を止められた選手は不満に思うでしょうが、選手生命と安全のためにはそれが大事だということを、もっと認識されるようになってほしいですね。



例えば蹴りの練習の時、人間は10回蹴ると決めた時点で「10回蹴れるような強度に」調整してしまう。さらに「6まで来た」「7まで来た」って思いたくなくても浮かんできてしまう。そこでオールアウトで追いこむときは全部号令を「1」に変え、脳が回数を計算できないようにしている。

 



(Dr.F)10回蹴るために無意識に強さを調整してしまうのは、「10」という数字をもともと知っているからなんですよね。それを避けるには、自分の脳を騙さないといけない。「1」「1」「1」とだけ数えていれば、自分では何回蹴ったのか分からなくなりますよね。その上で第三者に遠くから数えていてもらう方が、オールアウトで追い込みたい場合には効果的だと思います。

 

 あるいは、「1!2!3!4!」という号令とともに蹴るのを、3回繰り返すんです。そうすると、「1!」に戻った時に気持ちがリフレッシュします。そうすると、4回×3セット=12回で、10回よりも多く蹴れてしまうんです。

 そのように、数字にとらわれてはいけなくて、逆に利用するものなんですよ。5分3RのMMAの試合を、「15分」ととらえる人もいれば、1Rの5分を「1分・1分・3分」と考える人もいる。それは自由なんです。例えばスタミナに自信がない場合、5分を「2分・2分・1分」ととらえて、最初の2分は徹底的に相手をリサーチすることに使う。次の2分でカウンターを取れるところは取って、最後の1分でそのラウンドを自分の有利な方に持っていくと。

 

 またラスト10秒になったとしても、「あと10秒しかない」と思うか、「10秒あれば倒すチャンスは3回はある」と思うかで、全然変わってくる。そんな風に、時間の区切り方は無限にあるんです。

 

 いい例が、山本KID徳郁vs宮田和幸の一戦ですよね。KID選手の飛びヒザ蹴りで、4秒で終わった試合。もしかしたら宮田選手はもっと時間をかけて、じっくりと攻めていくつもりでいたかもしれない。でもKID選手は、一発で終われば終わらせようという気持ちだった。これも時間のとらえ方の問題だと思います。回数にしても時間にしても、「数字」を上手に使えばもっと面白くなるよという意味でのツイートでした。



「尊敬する武道家は誰ですか?」の問いには「勝海舟」と答えている。勝いわく「剣術の修行」ほど打ち込んだものは無いらしい。剣術で培った胆力で、時流を見定め、重要な決断で民を救い、若い人を育て、維新後もご意見番として活躍。世の中と未来に影響を与えた。武道家の理想形ではないだろうか?

 


(Dr.F)幕末のヒーローというと坂本龍馬を筆頭に、吉田松陰高杉晋作らが人気ですが、彼らはみんな、活躍した時期が短いんです。ある時期ハイパーに活躍しているけれども、短命に終わっている。無理矢理音楽にたとえると、ビートルズはわずか4~5年程度しか活躍していない。それは密度は高いでしょう。

 でも勝海舟は、「事を成すには寿命が長くないといけない」ということを言っています。音楽で言えばデヴィッド・ボウイローリング・ストーンズは活動期間が長いですよね。その間には当然浮き沈みがあるし、何をやってもうまくいかないという時期もあるんですが、そういう人の人生に学ぶといろいろと貴重なヒントが得られるんです。

 

 勝海舟も、後になってやっと評価されるようになりましたが、一時期は国賊ぐらいの扱いを受けたと、本人も言っています。幕末から明治維新後というのは、武家社会から官僚社会になって、世の中の価値観が180度変わったわけですよね。江戸にいた人間からすれば、支配者のお膝元にいたはずが、薩長が世の中を変えたために国賊に転落してしまったわけです。

 薩長からすると勝海舟というのは敵もいいところなんですが、でも彼はちゃんと生き延びただけでなく、西郷隆盛大久保利通といった人たちに「面と向かって文句を言える存在」として活躍したわけです。日本が変な方向に行かないよう、ご意見番として機能した。

 勝自身も、「自分は二生を生きた」と言ってます。二つの人生を生きたということですね。全く価値観が変わった後の世界でも生きながらえて、しかも重要なポジションで活躍したということで、希有な存在だったと思うんです。

 これはある意味、武道家の理想なのではないかと思っています。武道の世界には、「狭い分野の中で収束してしまってはもったいない」と感じられるような逸材がたくさんいます。狭い世界を飛び越えて、一般社会にアクセスして貢献しているような人々もいます。そういった意味で、勝海舟の生き方はすごく参考になると思いますね。

 

Dr.F twitter

twitter.com

(ファイト&ライフ連載 「格闘技医学」 より)

 

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スポーツ安全実現に向けて  ~アドバイザーの皆様からのメッセージ~

バンゲリングベイ代表

 新田 明臣

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 格闘技やスポーツをより安全で誰にでも楽しめるものにする、普段体調管理のために行うスポーツやスポーツ競技での不慮の事故などを無くしていく、これは現代のスポーツ界において最も大切なことではないかと思います。スポーツを楽しみたい、格闘技で身体を鍛えて強くしたい、そういう想いから始めた筈なのに不慮の事故は未だに絶えません。

 競技者、選手ともなれば更にそのリスクは高くなり、大怪我をしてしまったり、場合によっては亡くなってしまう人がいるのが今のスポーツ界の現状です。こんなに悲しいことはないですし、一刻も早くこの現状を多くの人が知り、無くしていくべきだと思います。その為に一番必要なことは何よりも業界に関わる人間の『一人一人の意識改革である』と強く実感しています。

 コロナがあり、社会も自粛、規制で、これからのスポーツ界、格闘技界もどうなっていくのか先行きが見えません。

 そんな中において、解ったことがあります。それは、同じ問題を抱えていても、一人一人の意識の違いに差があり、危険に対しての対応の仕方が違うということです。

 これはスポーツ指導者においてもその人の危険に対しての意識の在り方によってはとても危険な事故がいつどんな時起こり得るということを示しているとも言えます。こんな時代だからこそ、怪我なく出来る安全なスポーツの追求をし、その土台を作っていく。

 人間の本能的な最初の行動の動機にもなり、全ての運動の基本ともなる、「安全で楽しい」ということを大前提としたスポーツ界の安全管理、イメージを変える努力をしていく。

 かつての、または現競技者達が、培ってきたその知識と経験を存分に活かし、スポーツを発達させてきた『競争心』や『競技思考』の落とし穴に今こそ目を向けて新たな時代のスポーツの定義を創っていくことこそがこれからのスポーツの更なる繁栄と、社会への恩返しにもなっていくのだと強く思います。

『意識が変われば景色が変わる』
バンゲリングベイ代表 新田明臣

恵比寿・駒沢のキックボクシングジム バンゲリングベイ ~ BUNGELING BAY

 

 

 

 

パラエストラ代表

中井 祐樹

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 武道・格闘技は相手をノックアウトしたり投げたり降参させたりコントロールしたり防御したりといった戦闘技術の体系です。他のスポーツももちろんそうなのですが自分の身体だけでなく、相手の身体のこと、さらには生徒や先生の身体のことも熟知しなくてはなりません。つまり人間を知らなくてはいけないというアートなのです。

 私自身いくつかの大小の怪我をし、またそれらを目のあたりにしてきました。極力いずれも少なく抑えてはきましたが、この道には終わりがありません。

 このほど、志を同じくする有識者の皆様が『スポーツ安全指導推進機構』を設立しました。より安全にスポーツ・武道を行っていけるよう様々な取り組みが進んでいきます。皆様、是非ともアクセスいただき、より良い世界を描いていきませんか。

中井 祐樹 

中井祐樹 Yuki Nakai (@yuki_nakai1970) | Twitter


パラエストラ

http://www.paraestra.com/

 

 

 

 

 

実践女子大学講師・博士(文学) 

三浦 宏文

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 インド哲学の研究者の三浦と申します。この度はスポーツ安全指導推進機構の熱く強い志に感銘し微力ながらアドバイザーの大任をお引き受けすることになりました。よろしくお願いします。

 私は小学生の時に剣道、中学の1年時に野球、そして中学の2年時から高校までラグビーを5年間と多岐にわたるスポーツ経験を経てきましたが、その時常に悩まされたのが怪我でした。しっかりした指導者がいない中で自己流でバーベルを使った筋肉トレーニングをすることの危険性、自己判断で練習や試合に出る危うさは身をもって知っています。常々、なんらかのディシプリンを作る必要性を感じていました。したがってスポーツ安全推進機構には、ようやく願っていたものができたという思いです。

 スポーツをより身近で楽しむために、それにまつわる危険性の排除・安全性の確保はスポーツ界の喫緊の課題だと思います。その課題に逃げずに正面から向き合おうとする当機構の取り組みは、必ず日本のスポーツの状況を変えると確信しています。浅学非才な私ですが、お力に少しでもなりたいと思います。


インド哲学研究者
三浦 宏文

三浦宏文 MIURA Hirofumi (@HirMiura) | Twitter

 

 

 

 

演出家・カクシンハン主宰

木村 龍之介

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身体の力を最大限に発揮する〈すごいプレー〉を目の当たりにした時。私たちは「人間とはこんなに美しいのか!」と深い感動を覚えます。

私たちはその感動を地球上のあらゆる人間とシェアできます。国籍・人種・宗教・世代、それどころか社会的なヒエラルキーさえも、大した問題ではありません。感動は楽々と垣根を飛び超えて、根源的なところで世界中の人間とつながれます。そんな奇跡のような「感動のつながり」を体感したくて私たちはスポーツ・格闘技・身体芸術の現場に足を運びます。

スポーツ・格闘技・身体芸術。

それらの分野に共通するものは〈人間の美しさの追求〉です。美しさの追求とは、強さ (速さ) の追求であり、勝利の追求であり、人間が持つ可能性の追求です。それらの追求に熱心に取り組むことは、人類の進歩においてとても重要です。

「熱心に取り組む」

これはとても魅力的な言葉です。
が、そこで私は自分にこう問いかけます。

「目的を達成するための〈プロセス〉に追求はあるか?」

問いは続きます。

「安全や命を犠牲にするような、間違った熱心さに埋没してしまってないか?」

自問自答に終わりはありません。

安全に配慮しない熱心さは、人間の体と心を壊し、時には命をも軽々と奪います。誰もが望まない最悪の結末です。人間の美しさを目指していたはずなのに、本末転倒です。そのために指導者は、いいプロセスを追求し続ける必要があります。

指導者は、とても孤独です。〈多くの責務〉と〈結果へのプレッシャー〉がつきまとうからです。指導者がいいプロセスに一人で向き合うには荷が重すぎます。一人で学ぶにはあまりに多くの知識と経験が必要だからです。

多くの専門家が名を連ねる「スポーツ安全指導推進機構」において、高い意識を持ったプロフェッショナルな仲間と共に学び続けることが何よりの指導者の指針となります。

 私たちみんなで、意を決して、安全を第一義とし、その上でプレイヤーの体と心、命を守りましょう。そして〈安全なプロセス〉の中で、前人未到の人間の美しさを追求しましょう。

私もまた、演出家として指導者として、過去を省みながら、未来に向かって、「安全なプロセスを実現できているか」を常に厳しく問い続けていきます。

演出家・カクシンハン主宰 木村龍之介
@ryunosuke_kimur

カクシンハン

カクシンハン 演劇プロデュースカンパニー | Theatre Company KAKUSHINHAN

 

演出家 木村龍之介インタビュー
 

https://performingarts.jp/J/art_interview/2002/1.htm

 

札幌厚生病院病理診断科主任部長

Dr. 市原 真 

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スポーツを通して得られるものは計り知れません。自分の体をコントロールできる喜び。目標に向かって邁進することの気持ちよさ。周囲の人々と切磋琢磨する時間。これらはかけがえのないものです。

私事で恐縮ですが、小学校1年生のときに剣道をはじめました。医師国家試験直前まで18年間、小中高大と欠かさず稽古を続けました。つらいことも苦しいこともありましたが、幸いにも幾人かの尊敬できる師を得ることができ、大学時代には東日本医科学生体育大会で団体優勝を勝ち取ることができました。剣道を続けてきて本当によかった、本心からそう思っています。

ところで。私と同じように子どもの頃からスポーツを続けてきた人たち、さらには指導者の皆さんであれば、スポーツの最中に「不幸な事故」によって命を落としたり、体に重大な障害を抱えたりするケースが残念ながらあるということもご存じだと思います。水を差すようですが、事実です。

「不幸な事故」は今日もどこかで起こっています。

私は医師です。「不幸」なできごとに遭ってしまったアスリートたちや子ども達を、必死で治療する側の医者のことも、よく知っています。友人にもスポーツ医療の道に進んだ人間がいます。

彼らの話を聞いて私はぞっとしました。スポーツ医学が今ほど整備されていなかった時代に、私のような「ごく普通のスポーツ少年たち」が行っていたことが、どれほど大きなリスクを抱えていたのかということを。

そういえば小学生のころ、稽古の最中に「胸突き」でひっくり返された記憶があります。「首への突きは禁止だが、胸元を竹刀で押して距離を取ることまでならOKだ」という間違った認識があった時代です。もし私があのとき、心臓振盪で絶命していたとしたら、当時の指導者たちは「なんと不幸な子どもなのだろう」と悲しんだことでしょう。当時は「なぜ胸への突きが危ないのか」が解明されていませんでした。私は、たまたま事故に出会わなかった「幸運な」人間だったのです。

時代と共に私たちは「成長」していかなければなりません。

「巨人の肩の上に立つ」という言葉があります。先人達が積み上げてきた知恵、それが大きく集まってできあがった「巨人」。後世の人は、巨人の上にひょいと立つことで、労せずして遠くを見渡すことができる。

これは科学の発展を現す言葉ですが、スポーツにも十分あてはまるでしょう。武道が○百年とか○千年という歴史の中で研ぎ澄まされてきたように、100メートル走のタイムが時代と共に速くなっていくように。今を生きるアスリートたちは常に、先人達の研鑽の結果を取り入れて強くたくましくなっていきます。

スポーツ医学も同じです。

かつて我々が「不幸な事故」と思っていたものの大半は、今や防ぐことが可能となっていますし、防がなければいけないのです。

あらゆるアスリートやスポーツ指導者たちが、スポーツ安全推進機構の手を借りて、リスクの少ない最新で最高の鍛錬方法を取り入れることを切に願います。あなたがアスリートの気持ちをお持ちであれば、克己して成長していくことの喜びを知る人であれば、「かつてのリスク」を避け、「かつての不運」を回避することの大切さを、きっとわかっていただけることと思います。

札幌厚生病院病理診断科主任部長
市原真 / 病理医ヤンデル
 

病理医ヤンデル (@Dr_yandel) | Twitter

SNS医療のカタチ 公式BLOG

 

 

 

 

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(病理医ヤンデル先生としても高名な、才気あふれる市原 真ドクターが、素敵なメッセージ・イラストをくださいました。市原ドクター、お気持ちをありがとうございました)

 

 

 

SNS医療のカタチ

Dr.大塚 篤司

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ぼくは子供の頃、剣道をやっていました。

 

小児喘息には剣道が良い、と聞いた母親が、幼稚園の体育館で行われている子供剣道教室にぼくを放りこんだのがきっかけです。

 

親に言われていやいや続けていた剣道ですが、「六三四(むさし)の剣」という剣道アニメにはまって、自主的に朝練を続けた結果、なんと、小学校五年生のときには千葉県大会で優勝までしてしまいました。

 

ただ、ぼくのスポーツ人生はそこがピークで、その後は運動音痴を思う存分発揮して学生時代を送りました。

 

スポーツに自信が全くないので、ぼくはスポーツでは一切無理をしません。笑

 

ただ、得意だった剣道だけは少し調子に乗っていたかもしれません。

 

「六三四(むさし)の剣」では、主人公である六三四の父親が剣道の試合で死んでしまいます。後に六三四のライバルとなる東堂修羅の父親との試合で、「突き」を喉に食らったのが致命傷になります。

 

「突き」は怖いけれどもとても格好いいもの


剣道アニメに夢中だったぼくはそう思っていました。

 

しかしながら、剣道教室でおふざけで「突き」をしようものなら、先生から容赦なく怒られました。それはやはり、子供のスポーツにおいて「突き」は危険だからです。

 

二重作先生は、根っからの空手少年だったと聞いています。その後医者となり、格闘技ドクターとして活動する中で誰よりも「スポーツが併せ持つ危険性」を痛感したのでしょう。そして、小学生のときのぼくのように、少し得意げになって危ないことをする子どもたちも見てきたのでしょう。

 

ぼくが剣道の思い出を大人になった今でも軽く自慢できるのは、あのとき事故が起きなかったからです。

 

危ないことは危ないと注意してくれた大人がいたからです。

 

子どもたちの誇れる記憶を、誇れるもののままにしてあげるために、ぼくたち大人が正しい知識を得ることはとても大切なことです。

 

ぼくはスポーツ安全指導推進機構の活動を応援しています。

 

SNS医療のカタチ・医師 大塚篤司

大塚篤司【医師’医学博士】Atsushi Otsuka (@otsukaman) | Twitter



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大塚篤司〈コラムニストプロフィール〉 - 朝日新聞出版|AERA dot. (アエラドット)



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